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「おっす」
やってきた鶴の姿を見て、菫は元気そうな笑顔でそう言った。
とても広くて真っ白な食堂の中に案内されると、その真ん中に置いてある円形の白いテーブルのところに、菫は礼儀正しい姿勢で、一人でぽつんと豪奢な椅子に座っていた。
そんな菫の姿を、食堂の入口のところに立ったまま鶴は見ている。
「鶴様。こちらへどうぞ」
桃子さんの案内で、鶴は菫の座っているテーブルのところまで移動する。
ちょうど菫と反対側のところにある席に(時計でいえば十二時と六時の針の指し示す場所だ)鶴は座った。
そして、じっと五ヶ月ぶりに見る竹内菫の顔を見つめた。
桃子さんがテーブルの上にあった透明な水さしで二人のコップに水を注いでくれる。
それから桃子さんは二人の会話の邪魔にならない場所に音もなく移動した。
「久しぶりだね、鶴」
菫が言った。
「久しぶり、菫」
鶴は言った。
鶴はずっと、ずっと菫に会いたかった。菫に会っていろんなことを聞きたかった。この場所にくるときも、約束の八月十五日を待っている間も、ずっと、ずっとどきどきしていた。
でも、こうしてなんだかいつも通り(いつも以上?)飄々としている菫の姿を見ていると、ずっと心配していた気持ちが、むしろ反対の感情となって、なんだか鶴は、だんだんと菫に腹が立ってきた。
……つまり、簡単にいうと鶴はすごく怒っていた。
それは自分でも予想外の、自分の心の内側に沸き起こった感情だった。
「どうしてずっと黙っているの?」
にっこりと笑って菫は言った。
鶴はとっさに、透明な水の入ったコップを手に取ると、その中身をなにも言わずに、テーブルの反対側に座っている菫の顔めがけて、思いっきり、ぶちまけた。
すると、ばちゃ! という音がして、菫の顔は水浸しになった。
そんな菫のことを見て、ざまあみろ、と鶴は思った。




