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「でも、普段はこの森には誰もこないんでしょ? なら、門番だって必要ないんじゃない?」澄くんには悪いけど、あんな辺鄙な場所にある門に門番なんて必要ないと星は思った。
「そんなことないよ。あそこはとても大事な場所なんだ。あの場所はつまり『境界』だからね。門番は絶対に必要なんだよ」
澄くんは勿体ぶった言いかたをする。私も別に絶対に必要ないとまでは思っていないが、現に澄くんは私のために門番という仕事を放棄して菫を探すことを手伝ってくれている。すごく嬉しいし感謝もしてるのだけど、澄くんがここにいる以上、門は今、誰も見張っていない状態にある。
澄くんにはそれを気にしている様子はまったく見られないが、それは良いのだろうか? いつの間にか門を通って森の奥に行った海の件もあるし、大事だと言ってる割には、澄くんの仕事はとてもいい加減だ。まあ、それが澄くんらしいと言えば澄くんらしいのだけど……。
そこまで考えたとき、星は澄くんが鍵を持っていたことを思い出した。そういえば、門には鍵がかかっていたんだっけ。澄くんは星のために鍵を開け、星が門を通ったあとはきっちりと門に鍵を閉めていた。
鍵がかかっていれば、一応大丈夫ってことなのかな? 星は考えるが、やっぱりよくわからない。海は森を通り抜け、門を通って森の奥に行った。でも鍵がかかっていたのなら、どうやって海は門の鍵を開けたのだろう?
『あんまり余計なことは考えないで。君の目的は海を連れ戻すことなんでしょ? あんまり森に関心を持っちゃだめだよ。君が森に興味を持つということは、森も君に興味を持つということなんだからね』
わかってる。心配しないで、魚。そう魚に答えるように星は姿の見えない魚の代わりに笑顔で澄くんの顔を見た。