22 青猫
青猫
「澄くん。この子、どうしたの?」若干引きつった顔をしながら星は澄くんに聞いた。
「こいつを捕まえるのに時間を食っちゃってさ。それで遅れちゃったんだよ」
どうやら澄くんはこの子猫を森の中で探していたようだ。
「それが澄くんの言っていた用事なの?」
「そうだよ。こいつ、こう見えてすごく役に立つんだ。すごいやつなんだよ」
澄くんは満面の笑顔で子猫の頭を撫でているが、さっきまで大人しくしていた子猫はそれが嫌なのか体をくねらせて澄くんの腕の中から抜け出そうともがいていた。
「ねえ、なんかこの子、嫌がっていない?」星は澄くんに尋ねる。
「そんなことないよ。僕とこいつは大の仲良しなんだよ」澄くんは自信満々でそう言い切るが、どう見てもなついているようには見えなかった。さっきまで子猫が大人しくしていたのは、澄くんから逃げ回っていた疲れを癒していただけかもしれない。
「名前は『青猫』っていうんだ。ほら、毛が青色をしてるでしょ?」
「う、うん。そうだね。確かに青色だね」
その猫はとても綺麗な青色の毛並みをしていて、その瞳は緑色に光輝いていた。その見た目はとても綺麗で、まるで宝石のように美しい猫だと思う。
「ね、かわいいでしょ? ほら、硯も抱いてみる?」
澄くんは青猫を両手で抱えるようにして星の前に突き出した。青猫は空中に体を吊るされて怒ったように暴れているが澄くんは全然気にしていない。
「え? いや、私は大丈夫だよ。その子は歩が持っていてあげて」星は両方の手のひらで青猫をガードするようにして、さらに数歩後ろに下がった。
「そう? 残念だな」
澄くんの言葉を聞いて、星がほっとして油断した瞬間、青猫は一瞬の隙をついて澄くんの手から逃れると、星の顔に向かって思いっきりジャンプをした。
「!?」猫に飛びつかれた星の全身に悪寒が走る。そして、星はそのまま微動だにしなくなった。
『君、もしかして猫が苦手なの?』
そんな魚の声も今の星には届かない。その開ききった両方の手のひらが、ぴくぴくと震えているだけだった。