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海は体をまったく動かすことのできない星を近くにあった一番大きな木の根元まで移動させた。
これではどちらが勝者かわからない。
情けない自分の気持ちを正直に海に告げると、海は「勝者は間違いなく星だよ」と笑顔で星に言ってくれた。
海はそこで星に膝枕をした。
いろいろと言いたいことがあったのだけど、一度海の頬を引っ叩いたら、もう(そんな細かいことは)どうでもよくなってしまった。
星は黙って、海を見ていた。
「星……、ごめんね」先に口を開いたのは海だった。
海の目には涙がにじんでいた。
「いいよ。別に。だって私たち友達じゃん」と星は言った。
「……うん」
と小さな声で海は言った。
すると海の目に溜まった涙はその量をだんだんと増していった。
あ、溢れる。と星は思った。
その星の思いと同じように、海の目から涙が溢れて、それは星の頬にぽたぽたと落ちてきた。
海の涙はとても温かかった。
星の意識は、だんだんと薄くなっていった。
自分の体から、命がこぼれていくのが、確かにわかった。
……ちょっと無理をしすぎたかな?
ぼんやりとする意識の中で星はそう思った。
そうだよ。君はいつでも無理をしすぎているんだよ。と暗い水の中から、魚が言ったような気がした。でもそれが本当に魚が言った言葉なのか、それとも星の空想の声なのか、もう星にはその区別をつけることもできなくなっていた。
……でも、願いがかなったからいいや。うん。満足。私はすごく満足だよ。
星はにっこりと笑った。
その視線の先には海がいる。
それだけでいい。それだけでいいんだ。と星は思った。




