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出会いはあまりにも特殊で驚いたし、最初はもちろん疑ってもいたんだけど、今では魚は決して『悪い魚』じゃないと星は思っている。姿は怪しいままだけど。
魚はたぶん誰よりも優しいのだ。でも、その優しさはきっと人との距離を保つことで生み出されている。ありていに言えば無関心だ。他人への関心の無さが魚の冷たさと優しさを同時に生み出している。
案外、いい友達になれたかも? と星は思ったりもするが、いや、やっぱり無理かな? 私、なんかお説教とかしちゃいそうだもん、と思ったりもした。
星は本を足元に置いていたボストンバックの中に戻すと、うーんと大きく組んだ両手を空に向けて伸ばして肩の疲れを癒した。
「私は澄くんのこと、信じてるわ。それに、魚のことも信じてる」
『君がそれでいいなら、まあ、いいけどね。一応、忠告はしたからね』そう言って魚は珍しく笑った。
それからしばらくして、森の奥から澄くんが戻ってきた。澄くんの姿を見て星の顔は自然と笑顔になる。星は森の奥からこちらに向かって走ってくる澄くんに大きく手を振った。澄くんはそれに気がついて星に大きく手を振り返してくれる。
「ごめん。思ったより遅くなっちゃった」
そう言って星に謝る澄は、その腕の中になにか小さな生き物のようなものを抱えていた。
「澄くん、それはなに?」
星が澄に問いかける。澄が星の問いに答える前にその生き物は丸まっていた体を伸ばして、その可愛らしい顔を星のほうに向けた。
そのおかげて、澄くんの抱いている生き物が猫であることがわかった。それも不思議な青色の毛色をした小さな子猫だ。それがわかったところで、星は数歩後ろに下がる。実は星は、自分でも珍しいとは思うのだけど……、猫が大の苦手だった。