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橋を渡りきってから、海のペースがだいぶ遅くなった。
それは森の中の道が、本来の道としての役割を果たさなくなってきたからだ。
走り慣れない道なき道を走る海は、だいぶ苦戦をしているようだ。(もともと、こういったアクシデントのような出来事に海はとても弱かった)
走る環境は同じだが、星は海のあとを追いかけている。海の走ったあとを、(海の真似をするようにして)走ることができるのだ。
これはだいぶ、有利だった。
実際に二人の距離はかなり縮まっていた。
海はちらりと後ろを振り返る。
その顔には焦りが見える。
でも、しばらく走ると悪路はまた落ち着いて、雪に埋もれた森の草木が急に開けるようにして、比較的走りやすい場所に出た。それを確認した海は一気にペースをあげて、真っ白な雪の上に足跡を残しながら、加速をかける。
そのあとを星は懸命に追いかけた。
「諦めなさい! 星! あなたが私に走りで勝てるわけないでしょ!?」と海は後ろを振り返って、星にそう叫んだ。
その言葉は確かに事実だったが、そのことを今、このときに叫ぶということは、(星に追いつかれるかもしれないという現実に対する)海の焦りそのものだった。
「あんまり馬鹿にしないでよ!! あなたがいなくなってから、私がどれだけこの瞬間を待ち望んでいたか、海! あなたに想像できるの!!」と星は叫んだ。
それと同時に星は、陸上の試合で最後の直線に入った選手のようにスパートをかけた。
星の走る速度が一気に上がる。
それを見て、海は(再び)焦る。
前を向いて、海も星と同じように全速力で加速する。
海は確かに速かった。
でも、このときの星の走る速度は明らかに海を上回っていた。(実際にタイムを測ったわけではないけれど、体感としては間違いなく今までの自己新記録を更新するような星の渾身の走りだった)
その走りで、二人の距離は一気に三メートルくらいにまで縮まった。




