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……私たちはいつも追いかけっこをしてたね。一秒を競ってた。大切な私たちの一秒。
それは今も変わらないよね。だから、あなたは今も走っているよね。私と一秒を競っているんだよね。大切な時間を、本当に大切に扱っているんだよね。
走りながら、そんなことを海は思う。
ねえ、星。
私たちの競争は、まだ終わってはいないよね。私たちはまだあの輝くような、透明な、清らなか風が吹いているコースの中を走っている最中だよね。
……どんなに願っても、どんなに苦しくっても、時間は絶対に巻き戻ったりはしない。過去をやり直すことなんて、絶対にできない。
……でも、だからこそ私たちは今を一生懸命に生きることができるんだよね。……そうだよね、星。
海の前に分かれ道がある。
左の道と右の道。
初めて見るその道はどちらも同じただの森の中にある道にしか、海の目には見えない。
ねえ、星。教えて? 私はどっちに進めばいいの? 海は頭の中で星に問いかける。でも、星はなにも海に語ってはくれない。(答えは自分で見つけろ、ということだと海は解釈する)
海は右に曲がった。
右の道を選択したのだ。その選択に根拠はない。ただの勘であり、運任せの選択であった。
(そもそも、この選択に意味があるのか、あるいは答えなどあるのか、という問題もある。海はただ、とりあえず前に進まなければいけなかった。だからどちらかの道を選択するしかなかった。本当に、ただそれだけの話なのだ)




