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 海は雪の上を走り続ける。

 やがて海は少し上り坂になっている場所に出た。この坂を上って、それからその先の坂(今度は下り坂だ)を下っていけば、そこはもう海と渚の暮らしている小屋の前だった。

 そのさらに先の道がどうなっているのか、詳しいことは海にもわからない。(海の散歩コースやランニングのコースは、今、海と星が走ってきた道の方向に限られていた)

 その先はさらに深い森の奥に続いているから、そちらにはあまり行ってはだめだと、海は渚から忠告を受けていた。

 でも、その忠告を守ったら、星に追いつかれてしまう。

 だから、私はその道の上を走っていかなくてはいけない。

 坂を上りながら、海はそんなことを考えていた。


 上り坂の道で、星は海との距離を少しだけ縮めることができた。(力は星のほうが上なのだ)

 だけど、そのせっかくの距離も、そのあとの下り坂で同じくらいだけ挽回されてしまう。

「はぁ、はぁ」

 星の息が荒くなってくる。足の裏がすごく痛い。胸が、肺が悲鳴を上げている。

 海のペースはやっぱり落ちない。

 走る海の後ろ姿からは、体力の衰えをまったく感じない。むしろ、前よりも少しだけ海は速くなっている(フォームが以前よりも安定している)ようにすら感じる。

 海は森に来てからも、走る練習をやめていなかったのだろう。(それがその美しいフォームを見てわかる)

 あるいは、街にいたときよりも自由に走ることに集中できたのかもしれない。

 海の足を動かすリズムは、なんだか昔の(中等部とか、初等部とかの)海のリズムに似ている。

 星は十八歳の海の走る後ろ姿に、(星と海が初めて出会ったころの)十歳の海の走る後ろ姿を重ねて見た。するとそれは、なんだか騙し絵のようにぴったりと重なって見えた。

 あるいは、海の中にはまだ十歳のころの海が実際に存在しているのかもしれない。

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