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「魚。あなたどこか体の調子でも悪いんじゃないの? しばらく睡眠でも取ったら?」
星は魚の心配をした。本の埋まるペースが遅くなったのは、もしかして魚の体調が良くないからではないかと推測したからだ。
『あれ? 珍しく優しいこと言ってくれるね? どうかしたの?』
「どうしたのって、別にどうもしないわよ。あなたのことを心配しているだけよ」
『本当に?』
「もちろんよ」それは本を埋めるという下心があるにせよ、本当のことだった。しかし当の魚は星の心配をよそに少し笑いをこらえているような雰囲気がある。
「なに笑ってるのよ?」
『もしかして、僕、お邪魔かな?』
「え?」
魚の言葉を聞いて、星はちらっと視線を澄くんの消えていった方向に向けた。星の顔が自然に少しだけ赤くなる。
「なに馬鹿なこと言ってんのよ! 怒るよ、魚」
『ただの冗談じゃないか。なにむきになってんのさ。怪しいな。もしかして君、本当にあの澄って人のことが好きになっちゃったんじゃないの?』
「うるさい馬鹿」
星は魚を一蹴した。星に怒られた魚は逃げるようにその存在を消してしまう。きっとまた闇の中にでも逃げ込んだのだろう。相変わらず逃げ足だけは速い。