203 第八幕 私、あなたと出会ったこと、絶対に一生忘れないよ。
第八幕
開演 私、あなたと出会ったこと、絶対に一生忘れないよ。
「星の言ってることが嘘じゃないのは僕にもわかるよ。だって星は言葉だけではなく、本当にこの真夜中の森の中にまでやって来たんだからね。星が『ここにいる』こと自体が、星の言葉が嘘じゃないってことの最大の証拠になっている」と言って澄くんはにっこりと笑った。(その笑顔は、やっぱり海に似ている)
時刻は経過して、夕方を過ぎ、夜になった。
二人は地下の食堂で夕食を食べている。メニューは澄くんの言った通り、トマトのパスタだった。それにコーンスープと、パンと、大盛りの野菜のサラダがテーブルの上には置かれていた。飲み物は二人ともコーヒーだった。
星は夕食の席でも、朝から同じ真っ白な色のパジャマ姿だった。(肩には澄くんから借りた白色のケープをかけている)洗濯物はすべて回収したが、着替えはしていない。
(学院の制服は星にとって戦闘服と同じだった。だから明日、海を探しに行く朝に着替えをするのだ)
澄くんも相変わらず、ゆったりとした白いセーターにブルージーンズというラフな格好のままだった。(夕食の支度をしていたときに身につけていたエプロンはもう取っている)
星は澄くんと一緒に夕食を食べ、話をしながら、頭の中で海のことを考えていた。
海と澄くんは、(澄くんと出会ったときから、ずっと感じていたことだけど)とてもよく似ていた。
根本的なところ(魂の炎のゆらめきのようなもの)は違うけど、なんていうか、……優しいところとか、雰囲気とか(あと外見も少しだけ)よく似ていると思う。
もし、かりに海に弟がいて(実際には海も星と同じで一人っ子だ)澄くんを私の弟だと紹介されたら、(一流の海ウォッチャーの星ですら)そうなんだろうな、と納得してしまうような感じだ。
「海さんは星にとって本当に大切な人なんだね」
澄くんは星に言った。
それは星がずっと、澄くんに海の話ばかりをしてたからだ。
「ええ。海は私の目標であり、私の居場所であり、私の一番大切な人であり、そして……、私の唯一の、本当の友達でもある人なの。……あ、今はもちろん、澄くんも友達だよ」星は言う。
星の言葉に澄くんは優しく微笑んで、それからパンを一口かじった。
「……まあ、簡単に言えば、海は私の全部だね。全部。私の全部が海なの。……私ね、幼いころに海と出会ったときから、ずっと海だけを見て、生きてきたの。山田海になることが、本田星の夢だったの。ずっと昔からそうだったし、もしかしたら、今も少しだけ、そうなのかもしれない」
星は両手をテーブルの上で組んで、……目を閉じて海のことを思考した。
その姿はどこか神さまに祈りを捧げている、神道の巫女のようにも見えなくもない。




