174
澄くんはときどき食材を取りに保管室の中に移動した。澄くんの料理の腕はそれなりに良いものだった。(自分でも料理をする星にはそれが一目でわかった)
星の料理の腕とだいたい同じくらいだろう。だからアドバイスをすることも、(ちょっかいを出すタイミングも)とくになかった。
本格的にすることのなくなった星は、澄くんの邪魔にならないように椅子に戻ってそこに座った。
それから星はまたピアノを見つめた。
すると、しばらくしてピアノのある壁の背後に、一枚の小さな絵が飾ってあることに星は気がついた。(その絵は額縁の部分が澄くんの用意してくれたレコード棚の上の小さなランプの淡い光にぎりぎりのところで照らされていた)
星は席を立って、その絵の前まで移動した。
星は棚の上にあるランプを持って、闇の中に光を移動させて、その小さな絵をしっかりと鑑賞した。
その絵はある一組の家族の絵だった。
とても幸せそうな家族を描いた古い絵だ。お父さんとお母さんと一人の子どもの絵。しかし残念なことにその絵は長い時間をかけて(まるで雨と風によって自然と風化したように)ぼろぼろとなり、ちょうどその人物たちの顔の部分が削り取られるようにして見えなくなっていた。
『顔をなくした家族の絵』……。
でも、きっと笑っているんだろうな、星はそう思って小さく笑った。
星はなんとなくその絵が気に入っていたので、絵が完全な状態で見られないことが少しだけ残念だった。
「星。ごはんできたよ」と背後で澄くんが言った。
「はーい」と返事をして、(ランプを元の位置に戻してから)笑顔で星はテーブルに戻った。




