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部屋の中には二人の間に緊張した、とてもシリアスな雰囲気が流れていた。
星はとっさにだけど、澄くんに対して(自分でもなんでこんな話を澄くんにしているのだろう? と思うくらいにいきなりの話であり、もちろんそれでも十分とは言えないけれど)自分の澄くんに言いたいことや言わなければいけないことを(そして自分の本当の気持ちを)とりあえず自分の言葉にして、きちんと告げることができた。
それは『自分の言いたいことがうまく言えないと言う病』に子供のころからずっとかかっていた星にとっては、とてもすごいことであり、とてもおめでたい出来事でもだった。
(そのことで澄くんとお別れになるかもしれないと言うリスクを星は本当に覚悟していた。同時にそういうことにはならないだろうと、澄くんのことを信頼していもいた。澄くんは友達だから、ずっと一緒にいたいと思った。でも今は、海のことを放っておくわけにはいかなかった。全部が全部、完璧に、と思えるほど、星はもう子供ではなかった。自分のやりたいこと、やるべきことにきっちりと順番をつけることができるようになっているのだ)
そのことに澄くんは感心しているようにも見えたし、また魚も同じように星の言葉に少しだけ、驚きながらも、やっぱり感心していた。
……私はもしかして、この旅の中で、自分が思っている以上に成長しているのかもしれない。自分の(本音の)言葉を聞きながら、星は心の中でそう思った。
その認識は間違ってはいない。(もともとの素質や今までの努力のおかげもあったけど)海を探す旅の途中で、星は確かに強くなった。それだけではなく、これからもっともっと自分が強くなることができるという確信のようなものすら星の心は感じていた。
簡単にいうと、本田星という一人の(固く閉じた花の蕾のようだった)少女は、この旅の中で(一気に)『覚醒』したのだ。
少女は目を覚ました。
目を覚ました(目覚めた、もしくは花の咲いた)少女である星は、すでに『本田星』という一人の自立した人間として、すでに(完璧に)独立しているのだ。(その確信が、星に自信と力を与えていた)
しかし、そのとき、ぐ~~と星のお腹がなった。
……そういえば、星はずっと食べ物を口にしていなかった。(飲み物も飲んでいない。だから喉もすごく乾いていた)
その音を聞いて、星の顔は(再び)真っ赤になり、澄くんはちょっとだけ微笑み、そして魚は呆れたように、ため息をついた。




