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その澄くんの仕草が星は少し気になった。
海にはときどき何気なく空を見上げる癖があった。その仕草が気になったのは澄の空を見上げる仕草が、どことなく海の仕草と似ていたからだ。
「ねえ、澄くん。どうしてさっきから何度も空を見ているの?」
「うーん。実は少しまずいことになるかもしれないんだ」澄は空を見上げたままで、そう言った。
「まずいって、なにが?」
「月が、見えるでしょ?」
「うん」
星は澄と一緒に空を見上げる。そこにはきらきらと美しく輝く星々に混ざって、一際目立っている大きな白い月があった。
「白い月が出ているときは、あまり森にとって良くないことが起こるって『言い伝え』があるんだよ」
「よくないこと?」
「不吉なこと。……具体的に言うと、森が閉ざされてしまうんだ」澄は言う。
……森が閉ざされる?
星は澄の顔を見た。澄も顔を(その視線を月から森の中に)下げているが、星の目を正面から見つめてはくれなかった。
「それって、なにがまずいの?」そう星が問いかけても、澄はやはり星の目を見ようとしない。
「ねえ、答えて。……澄くん!」
澄は星の問いに(やっぱり)答えてくれない。
「海に、会えなくなっちゃうの?」
星は泣きそうな声で聞く。その声を聞いて、ようやく澄は星の目を正面から見つめてくれた。
「そんなことないさ。きっと会えるよ。僕も協力する。森が閉ざされる前に海さんを探し出そう。大丈夫。二人で探せばきっと海さんは見つかるよ。ね、星。だからそんな顔しないで」
「……うん」星は素直に返事をする。
「よし、じゃあ、そうと決まったらすぐに出発しよう。それでいいよね、星」できるだけ明るい声と雰囲気で澄が言う。
「うん。そうする」星は澄に笑顔で答えた。