第一話 異常
今日も起きた。
至って変わらぬ自分の部屋。変わらぬ窓からの景色。
窓からの日差しがまぶしい。珍しく自然な目覚めだった。しかし、今日もどんな夢を見たか覚えていない。見てないのかもしれないが、気にしないようにしている。
俺は高校2年生として近くの高校に通っていて、そこの偏差値は低くなくまた高いわけではないが不良のような奴はいないっぽい。クラスでは仲良くやってる。
自慢に聞こえるかもしれないが、俺の成績は上の下くらいで悪くはないところだ。
今日もいつも通り朝食を食べ、行ってきますの一言で家をでる。母親と二人暮らし。父親は俺が小さいときに亡くなったそうだ。母親とは仲良くやっている。
「勇仁くん、おはよ~!」
「ああ、おはよう、千江。」
高校まで歩いて行っていると、俺への元気な挨拶が聞こえた。
俺の名は琢磨勇仁。そして、彼女の名は梶原千江、内心美人だと思っている。同じクラスではないが、漫画のように小学校の時からの幼馴染だ。
この挨拶もほぼ毎日交わしている。
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学校が終わると、俺は帰宅部だから家路につく。千江とさよならの挨拶を交わして別れる。家に着くと、母親は仕事に行っているためまだ不在。父親の仏壇に線香をあげ、そこからは家でゆっくり過ごし、夕飯と風呂に入って寝る。しかし、テレビで気になるニュースが流れていた。
『次のニュースです。本日午前8時頃、ハワイに大型の台風が直撃しました。現地の気象予報士によりますと、台風は前兆もなく急に上空に現れ、またすぐに消えたとのことです。
(現地の住人)【風が強くなってきたと思ったら、突然雨も降って雷も落ちたんです。友人の一人はデカい変なものが空を飛んでいたと言っていますけど、それほどすごい台風だったんでしょうね】
台風によるケガ人はおよそ37名で死者はでていないようです。では…』
「怖いねぇ…」
大型台風にデカい変なもの…か。たぶんその友人さんは雲と見間違えたんだろうと、俺も軽く捉えて深くは考えようとはしなかった。
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「朝だよー、起きて~。」
「ん…今起きるよ…。」
ぽんぽんと優しくたたかれて俺は目覚めると、ベッドの横に彼女がいた。彼女の名はフィエル・エスターニャ。同居人の一人で、内心美人だと思っている。ベッドから起き上がると彼女のあとについてリビングへ向かった。
「おはよう、エディン君。」
「ああ、おはようゲハイル。」
台所についていた彼の名はゲハイル・ヘルマート。また彼も同居人で、俺が言うのもなんだが中々かっこいい。もてるタイプの人だが、なぜか彼女はいないらしい。というより、気のせいか特に俺に対して優しすぎる気がする。
そして俺の名はエディン・ホルメイス。フィエルとゲハイルと同じ学校、同じクラスに通っている。というより、その逆で同じクラスだから今同居人なのだ。俺たちは魔法学校の11年生。来年度20歳で俺たちは卒業し、社会に出る。
魔法学校に通っている生徒は、同じクラスの人と4人か3人で同居生活を送ることになっている。それにより互いを知って互いで支え合い、競い合ってより成長させるのが魔法学校の意向らしい。
俺は今親が父しかいない。母親は俺が小さいころに亡くなったそうだ。まあよく会うわけではないが父親とは仲がいい。
ここでのご飯はいつもゲハイルが作ってくれる。ゲハイルの料理はいつも美味く、料理は任せろ任せたと言われ言う状態だ。そんな料理を食べられるいつもの毎日だが、夢を見たか見てないかすら覚えていないことに今日も違和感を感じている。だから昨日心理魔術の先生に調べてもらったんだが…
「うーん、心理魔術の先生に調べてもらってもわからないっておかしいよね?」
「まぁ、そう気にすることないんじゃないか?夢を見にくいだけだよ、きっと。」
「そうかなぁ…。」
ゲハイルは気にしないでも大丈夫だろうと言ってくれるが、全く気にしないということができない。ぼーっとしようとしても頭をよぎる。念のため、今度心理医療の権威である博士に診療してもらう手筈を整えてあるのだが果たしてそれで解明できるのだろうか。
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「皆さん、おはようございます。」
学校の一クラスの人数は50人前後。朝礼は担任の先生の挨拶から始まる。この先生はどちらかというと人気がある方の男の先生だ。担当教科は生物。
「昨日の8時頃のニュースを見ましたか?見た人は手を挙げてください」
テレビは魔法界の情報網ともいえるものだ。40年前にできたテレビ局は各家庭に一台、描写ネットワークに組み込まれたテレビを容認されれば置いた。情報を簡単に得ることができる便利さから、現在の普及率は100%に等しいらしい。また、[魔人のランプ]に代表されるアニメという面白いものも流れている。
「…あまりいないようですね。ニュースによると、近くにあるホノートの森の中央部から突如生物が消えたそうです。」
クラス中がざわついた。ホノートの森というと、珍しい生物やドラゴンも確認されている世界的にも希少な森で、特に中央部付近はそれが多いらしい。
先生によると、そのドラゴンはチャクと呼ばれる雨と雷を司る神が生み出したとされ、その周囲ではよく雨が降り、雷が鳴るようだ。
「調査団はドラゴンを確認できず、消えてしまったのではないかと言っているようです。さて、暗い話はこのくらいにして授業を始めましょう!」
実は先生、生物に強い関心を持っていて特にドラゴンが一番好きだそうだ。クラスの皆にはわかる。先生は特にそのドラゴンのことをとても心配している。それを隠すように授業を始めたのだと。
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学校が終わり、フィエルとゲハイルとともに家路につく。
「ねぇねぇ、明日休みだからホノートの森に行ってみない?」
「えぇ、でも危険なやつもいるって言われただろ?」
「大丈夫だって!今の私たちは前の私たちじゃないんだから!」
フィエルは小さいころから好奇心が旺盛だったようで、自分たちでも調査してみよう的な話になった。こうなってしまっては彼女は中々ひかないから、どちらにしろ行くことになるのだが。
まぁしょうがない、多分今の俺たちならきっと切り抜けられるか。
そう軽く思ってしまった。
補足情報
通常世界の16歳=魔法界の20歳