3 努力する事とは~1
なんだかんだあったが、僕の学校ライフは
早1ヶ月をたとうとしていた
クラスは全員で八人という少なさだが
皆が集まる事なんてそうそうにない
多分皆仕事が忙しいのだろう
今日だって周りを見渡しても三人という少なさ
でも今日という日は僕にとって濃い一日になるとはその時は思わなかった。
いつも通りに勉強をこなしていき
チャイムが鳴り響く
「やっと、お昼か」
退屈な学校生活でまともな休憩時間
僕にとっては至福の時である
弁当を食べたながら音楽を聴くのが
僕の学校でのルーティンみたいなものだ
片方の耳にイヤホンをつけようとした時に
チラッと会話が聞こえてきた。
「ほら、結衣さんってアイドルらしいよ~、
でもまだ駆け出しみたい」
「そうなんだ~、やっぱり可愛いもんね」
いわゆる女子トークのようだ
内容が内容なだけに実にくだらない
「でもさ結衣さんのお家ってお金持ちなんでしょ…」
「それってやっぱり、その…」
ゲスい会話をしている
女子の会話なんてものは聞きたくても聞くものじゃないな
今だって嫌な色をしている、黒が渦巻いてるみたいな感覚で、見ているだけで頭が割れそうだ
ガラ…
教室内のドアが開く音がした
それまで会話していた女子の話ががピタリと止まる
僕はいやな予感をしながらも開いたドアの方を見た、そこに立っていたのは何ともまぁ出来過ぎな
結果だこと
“結衣梨音”だった。
今までの和気あいあいな空気とは別に
ズシりと重い空気が漂っている
さて、こういうときに取るべき対処は
1、このまま何も聞かなかったことにしそのまま
この重い空気の中お昼の時間を教室で過ご す。
2、教室を出る。
そんな事を考えながら片手に野菜ジュースを持ち
僕はそそくさと教室を後にした。
人間関係ってやっぱりめんどくさい
人と必要以上に関わると生まれるのは嫌な色ばかり、やっぱり一人が一番いいな
「 はぁ。。。めんどくさ 」
茜はいざ教室を出たものの行き先に迷ってる
教室に戻るのもなぁ、いや
それはありえないし、戻った所で地獄だろう
「 うーん。… 」
学校、学校、学校、学校、
まあ学校と言ったら定番の屋上だよな
茜は学校の階段を一番上まで登りきり
目の前にある扉を開けてみた
「 ビンゴ 」
そこは学校の頂点に君臨するかのように
周りの街並みや運動場でスポーツに育む生徒達の姿や自然の景色が一望出来る
屋上のベンチに茜は腰掛ける
まだ春ともあって心地よい風が吹いている
誰もいない屋上は茜にとっても、
とても居心地が良い。
ご飯を食べ終えた茜はいつものようにイヤホンを付けて、音楽を流し、目を閉じて今にも眠むれ
そうな昼時を過ごして、ご満悦な所に彼女が現れた。
あれ… 片方の耳から曲が…
目を開け、横を見てみるとそこには結衣梨音がいた、どこかでもこんなシーンがあったような
「 デジャヴ、、 」
ぼそっと茜は言葉を発したのにそれを聞き逃さない彼女
「なにいってるの、意味不明」
おそらく彼女もあの重い空気に耐えかね教室を出て行き先を失い、屋上に来たとみた。
しかしこうもまぁ、こいつとは一緒になるんだ。
二人の距離は人一人分開いて同じベンチに座っている、僕は通常通りにもう一度、取られたイヤホンを片方の耳に付けようとしたときに
「あの子たちの会話聞いてた?」
彼女はご飯を食べながら無表情で言葉を発した
僕も無表情で言葉を返す
「聞きたくもなかったが、聞こえてきた。」
「そっか…私がアイドルだってことばれちゃったね、まぁいいけど、」
彼女の顔は無表情なまま変わらず黙々と僕に話しかけてきた
「私ね、何でもやりたいことやってきたの、ピアノだってバレエだって、でも全部中途半端に終わったの、中学2年生の時にテレビで見たアイドルを見て私も…私もしてみたいっ!って思ってパパに言ってみたら、いつの間にか私アイドルなってたの、あながちあの子たちが言ってた事って、間違ってないの。」
僕はいつの間にか曲の再生ボタンを停止し
彼女の話を聞いてないフリをしながら聞いていた
それにしてもパパすげーな、何でもさしてあげたいと思う娘思いな親なんだろうな、まあそりゃ
こんな可愛い娘なら当然か、何も話さなければ
ただの小動物なんだけどな
「 惜しいなぁ、」
またもボソッと茜の口から言葉が出る
彼女はそれを聞いて無表情な顔から少し強張った表情に変わると僕を睨んできた
「あんたって本当にデリカシー見たいなものが皆無なのね、確かに私は何でも親に頼ってきてる、それはでも私の親だから出来ることで、私は恵まれてるの、だから私は皆の口から出る、親のゴネ~、とか結局親の力、とか言われても、それは生まれて来た時から、あなた達とは引かれてるレールが違う、文句があるならあなた達の親に言いなさいって感じ!!」
指を僕の方に差しながら
物凄い不満を僕に当たっている事だけは分かる
こういう時って何を話せばいいのか分からないし
僕には免疫がなさすぎる、考えても無駄な事位分かっている僕は自然に身を任した
「それで、アイドルは頑張るのか?」
自然に任した結果出た言葉がこの台詞だった
すると彼女は少し俯きながら、口を噛み締め
僕の思っていた答えとは全然違う答えが返ってきた
「私の事分かったみたいに何言ってんの…私は今までの習い事も勉強も物凄く頑張ってきた、でも頑張ってもピアノのだってバレエだってそんなに甘くない、アイドルだって頑張っても人気が出るほど甘くない世界なの、結局親だって最初だけ、後は何もしてくれないの…」
親の力に頼ってると分かっているからこそ
頑張っても結果が出ず、皆の陰口がもどかしく悔しいのだろう
僕はてっきり、”当たり前でしょ“
この台詞を待っていた、いや、
そうだと思っていたんだが、こいつも普通の思春期の女の子なんだと再確認した
要するにこいつの言ってるの事は私って頑張っても報われないし親も助けてくれない、どうしたらいいか分からないって感じだろう多分
こういう時って救済の言葉をあげるのが普通だよな、うーん…
なんて言ってあげるのが正解なんだろうか
まぁでも頑張ったからって何かのプロになれるわけでもなければ何かの有名人になり人気が出るわけでもないのはもう高校生の僕等には分かってくる、でも何かを頑張る事を諦めたらそこに未来がないのも知っている、人には“才能”この言葉があるから何かを諦め、また新しく何かを始めるんだろうきっと、一つの事を新しく始めて死ぬまで同じ事を出来る人間なんてほんの数人だと思う
はぁ。。。自然に溜め息が出る
「僕は…今やってる事を辞めたいと思った事もあった、それはでも逃げだと思って、僕が結果を残していく中で結果が出ない人も居る、同じ頑張りでも差がででくる、それを才能って言葉で片付けるのは嫌だけど、僕には才能があったんだと思う、それに今やってる事が僕は大好きなんだって気持ちに気付いてるから辞めれないんだ、辞めない事も努力の一つだよ」
僕にもかかわらず意外にもスラリと話せてしまったが伝え方が不器用過ぎたのかもしれない、ムスッとした顔で彼女はベンチから立ち上がり僕の方に寄ってきた
「結局何が言いたいわけ!!自分の自慢話?才能があった?だから辞めない?結局上手くいってる人がそう言うの!!ズルいわ…」
怒ってもいるようで悔しそうな表情で少し涙目にも見える彼女の顔がいつも人に対して無関心だった僕の心を少しでも惑わしたのは間違いがない
キーン…コーン…カーン…コーン
お昼の時間を終わらせるチャイムが鳴り響く
僕もベンチから立ち上がり
最後に彼女の頭をポンポンと手で撫で
「まぁその、たとえ親の力があったとしてもアイドルって職業はさ、なりたくてもなれねー奴がいっぱいいるだろ、好きでやってるなら辞める理由はないんじゃない、まあ…昼休み終わったし行くわ…… 顔、、可愛いんだから腐らず努力しろよきっとお前なら人気でるよ、その性格も込みでな」
茜が去っていく背中を見るのを確認してから彼女は独り言を言った
「触んなよ…結局意味不明、なんかムカつく、うざい、何様よ、、伊藤茜かぁ……」
彼女の顔は先程の表情とはガラリと変わっていた。
5月の春、屋上での結衣梨音と言う女の子に僕は間違いなく僕じゃない姿を見してしまった
「 結衣梨音かぁ…… 」