よん
約4年ぶり!お久しぶりです、ちゃんと完結させにきました。
紅と桃香がここにきたのには、一つの目的があった。
それは『魔女の儀式』をするためである。
魔女の儀式について、紅は桃香から詳しくは聞けなかったけれど、とても惹かれるものがあった。
まず『魔女の儀式』という名前が素敵だ。桃香の声でこの名前を聞いた時、きっと想像もできないようなことが起きるに違いない、と期待で胸がいっぱいになった。
「ねえ、どんなことをするの?」
「それは、あっちに行ってからのお楽しみ」
「私、魔女じゃないのに行っていいの?」
「うん、紅がいないとできないことだから」
桃香はうっとりした表情で紅の頬に手をやった。
「紅、可愛い。名前の通り、肌の白さに頬の血が透けて見える。いい色ね」
「健康だけが取り柄ですから」
なんだか恥ずかしくなって、紅は胸を張ってそう言った。学校のひと気のない階段で、二人はひそひそと囁き合った。誰にも見られたくない小さな小鳥たちが、愛を囁き合うにはうってつけの階段は、どのクラスルームからも遠く、階段の途中にも先にも倉庫や使われない教室がある。
敢えて、屋上や空き教室ではなく階段をえらぶのは、段々が心地よいからだった。時に一つ段をずらしてみたり、なんならうんと離れて上下に座った後、やっぱり一緒がいいねって隣になったり。階段はお手軽なアミューズメントに思えた。
「そういえば紅ってくすぐったがり?」
「ううん、違うけど、どうしたの?」
魔女の儀式の話をしていたら、桃香が急にそんなことを聞いてきて、紅は首を傾げた。
「魔女の儀式って、くすぐったいもの?」
「うーん、人によるけど、紅はどうかしらね」
「不安になるじゃない」
「大丈夫よ、私がついているもの。ね、紅。本当に私でいいの?」
桃香はじっと紅を見た。いつもは飄々としている彼女が、なんだか真剣な表情で紅を見るので、紅は階段に座ったまま居住まいを直した。
「うん、私は桃香がいいの」
紅は躊躇うことなくそう言った。桃香が何故紅を好きになったのかは分からない。それを聞いてみたい気がしていた紅は、でも自分だって桃香の色んなところが好きで、でもこうなったらきっかけは分からなかった。でも、彼女と離れるなんて考えただけでとても悲しいことだった。
理由がなくったって、今できているこの関係が幸せで、それでいい。それを言葉にするのは難しかったので、桃香に目で訴えた。桃香はしばらく紅を検分するように見ていたが、
「ごめんね、疑ってるわけじゃないんだけど、少し緊張して」
そう言って唇をキュッと結んだ。
魔女の儀式とは、そんなに緊張するものなのか。桃香がそれからも何度か確認するようなことを紅に聞いてきたけれど、その度に紅は大丈夫だよ、と言い続けた。