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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

人形の怪

作者: くものす

 その日、太陽が傾き始めた時間帯、俺は学校帰りに友人達と近所のテーマパークに来ていた。

 高校生である俺達からすると少し幼稚に感じるこのテーマパークにはもう何年も来ていなかったが、最近このテーマパーク内のイベント施設で行われている『世界の人形展』というイベントがそこらのお化け屋敷より余程怖いという噂を耳にして、肝試しに来たのだ。


 早速、噂の人形展に入って見ると、確かに噂で聞いた通り様々な見た目の人形が並べられていた。リアルなものから、デフォルメされたもの、いかにも伝統がありそうなもの、そのほとんどが人間を模したものだった。会場内は演出のためか薄暗く展示台に並べられた様々な人形が様々な色のスポットライトで照らされていたがあまり趣味の良い演出だとは思えなかった。噂のせいか、俺達以外には客の姿も見当たらない。


 「なんか、気味悪いな」


 「なんだよ、タカシ、ビビッてんのか?」


 気味悪がる友人をよそに俺は展示台の一つを指さした。その先には外国人を模したやたらとリアルな等身大の人形があった。


 「見てみろよアレ、すげぇリアルだぜ! 生きてるみたいだ」


 「やめろよユウキ、呪われるぞ」


 俺は始終陽気な調子で振る舞っていたが内心ビビりまくっており、それが友人達にばれないよう必死だった。

 その証拠にショウタがふざけて怪談話を始めた時には半分本気で食って掛かってしまった。それにしても、この状況で「とあるテーマパーク内で態度の悪い客が次々と誘拐されて強制労働させられている」などという微妙に怖くない怪談をよく考えつくものだ。自分たちが今どこにいるのか少し考えてから発言して欲しい。……洒落にならない。


 しばらくすると出口が近付いてきて一安心した俺達が最後に入った部屋は、妖精を模したたくさんの人形が天井から吊られいる部屋だった。人間の腰から顔の高さで吊られた数多の人形の中を歩かなければならないその部屋は妖精達と戯れる的な趣向なのだろうが、相変わらず薄暗い上に人形のせいでかなり歩き辛くなっていて、これまでの展示と同様あまり良い趣向とは言えなかった。

 この展示に嫌気がさしていた俺は先頭に立って人形をかき分けどんどん歩いていたが、突然目の前に何かが落ちてきた。


 「うおっ!」


 驚いて悲鳴を上げながら尻餅をついた俺が立ち上がって落ちてきた物を確認すると、それは首に赤い糸が巻かれ天井から吊られた日本人形だった。


 「なんだよ、お前もビビッてるじゃん」


 後ろから来ていた友人にそう言って笑われた俺は、今まで自分が気味悪がる友人に同じような事を言っていたのも忘れて、カッとなり目の前にぶら下がった日本人形を叩いた。


 「クソッ 悪趣味なんだよっ!」


 衝撃で糸が切れて床に落ちた人形をさらに蹴り飛ばし、やっと気分が収まった俺は友人達に宥められながら展示場を後にした。


 展示場を後にした俺達は、テーマパーク内の園内で休息をとっていた。

 このテーマパークはあまり人の入っている様子は無いが従業員の接客はとても良く、ゴミ拾い一つとっても客を楽しませるためのパフォーマンスとして完成している。ついでに言うとこのテーマパークの従業員はそれこそ作り物のように顔立ちの整った美男美女が多く、年頃の男である俺達はその点でも楽しんでいた。近くで繰り広げられるゴミ拾いを見ながらそう考えていると、どうやら他の友人達や観客も同じ意見だったようで、それが終わると同時に拍手が巻き起こった。


 「いやぁ、いつ来ても接客だけは凄いよな、ここ」


 一流と言っても過言ではないパフォーマンスを見て、人形展のことなどを俺達の頭からすっかり吹き飛んだところで、ちょっとした事件が起きた。

 注文したドリンクを運んできたウェイトレスが手を滑らせて、こぼれたジュースがケンタに掛かってしまったのだ。その直後の店側の対応は見事なもので、即座にそのウェイトレスと責任者が並んで謝罪した上、替えの服を用意し汚れた服を完璧に洗い、それを待つ間俺達全員にデザートとドリンクを無料で提供してくれた。それで済めば何の問題も無かったし、大抵の客はそこまでされれば腹の虫も収まるだろうがケンタはそうはいかなかった。元々、スイッチが入ると気難しい性格になるケンタは散々飲み食いした挙句問題のウェイトレスに土下座を要求したのだ。俺達の説得も無視してウェイトレスに土下座させたケンタはさらに、その頭を踏みつけやっと腹の虫が収まったようだった。

 ケンタがフードコートで散々もめたお陰ですっかり日が暮れてしまい、テーマパークも閉園の時間になったので、今日は解散し家に帰ることになった。


 「じゃあな、ユウキ!」

 「おう、また明日」


 俺は仲間達と分かれた後は寄り道せずにまっすぐ家に向かっていた。俺の家は市内から外れたところにあり、夜は真っ暗になる道も多いから本当は迎えを呼びたかったのだが、今日は生憎両親が家に居ない。

 少しびくびくしながら歩いていると街頭が少なく暗い路地に差し掛かった時、後ろから足音が聞こえる事に気付いた。


 ヒタヒタ、ヒタヒタ


 その足音はやけにはっきりと耳に届き、俺の歩調と同じペースで歩いていることが分かった。その音を聞いて夕方に見た不気味な人形展の事を思い出してしまった。

 歩調が同じだからと言ってつけられているとは限らない。そう思って遠回りになることを覚悟しつつ幾つか角を曲がってみるが、相変わらず背後の足音ははっきりと聞こえる。恐怖に駆られた俺が全力で走り出しすと、背後の足音もペースを上げて追い掛けてくる。そこからは、無我夢中で家までの道のりを駆け抜け、その間のことはほとんど覚えていない。確かなのは、玄関の前に辿り着いて息を整えながら耳をすましても、背後から足音はしないということだ。何だったのかは分からないが恐らくどこかでまいたのだろう。

 そう思って、玄関のドアを開けるとそこに鎮座していたのはあの日本人形だった。俺がそいつに気付いた事に反応するようにゆっくりと顔を上げて俺を見返してきた。


 やばい。訳が分からないままそう直感した俺は本能に従い再び夜闇の中を駆け出した。


 もうどれくらい走ったか分からない。家に帰ったら玄関にあいつがいて、そのまま追いかけっこだ。今も背後からは確実に足音が迫ってきている。むやみやたらに走り回ったせいか気付けばあのテーマパークの正面ゲートに来ていた。昼間の騒々しさと違って真っ暗に静まり返ったテーマパークは何とも言えない不気味さだったが、幸いにもゲート横の守衛室には明かりが付いていたのでそこに駆け込んだ。

 入り口に背を向けて椅子に座り何か作業をしていた守衛の男は、慌ただしく駆け込んできた俺に見向きもしなかった。


 「しゅ、守衛さん! 助けて下さい。変な人形に追われているんです」


 俺がいくら訴えかけても守衛の男は振り返りもしない。その間にも背後の足音が迫ってきていることははっきりと分かる。


 「話を聞いてくださいっ!?」


 焦った俺は守衛の男の肩を掴み無理矢理振り向かせた。こちらを向いた守衛の顔は透き通るような白さに一つの凹凸も無いまっさらな肌、ガラス玉のような目、規則的なパーツの継ぎ目を持つ人形の顔だった。


 「うあぁぁぁぁ」


 情けない声を上げて倒れ込んだ俺を立ち上がった守衛のマネキンのような無表情な顔が見下ろす。


 コツコツ、コツコツ


 そして背後で止まる足音。振り向かなくても追いつかれたということは理解できた……。


 次の日、俺が憂鬱な気分で学校に行くとすぐに、昨日一緒に人形展に行った友人の一人であるアキラが血相を変えて駆け寄ってきた。


 「おい! タカシ、大変だぞ」


 「ああ、知ってる」


 俺にはアキラが何のことを言っているか見当が付いていた。それは昨夜から続く俺の憂鬱な気分の原因でもあった。


 「ケンタが行方不明って話だろ? あいつどこ行ったんだか」


 「は? なに言ってんだよ?」


 俺の言葉を聞いてアキラは呆然としている。まるで、ケンタが行方不明になっていることを知らなかったような反応だ。


 「そう言えば、ユウキはまだ来てないのか?」


 俺の問いかけに顔面蒼白のアキラはか細い声で答えた。


 「ユウキは……死んだらしい。昨日の夜、自分の部屋で……赤い紐で首を吊って」

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