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1-9暑い暑い夏なので

熱中症になったこともありますけど、つらいですよね。



 暑い暑い夏なので



 こんにちは。アカネです。


 ただ今ハヤトの家に向かって歩いている途中です。とても暑いので、本当は早いのですがストローハットをかぶっているんです。ワンピース着てると本当に気分も夏になってきますね。


 私はハヤトと暮らしているわけではないんです。住んでいるのは駅ふたつ離れた実家で、こうやっていつも通っている形。同棲しているわけではないんだ。


 そう。


 だからというわけではないけど、ハヤトの家に暮らしているなーこに少し思うところがあるの。猫に嫉妬はなかなかないかもしれないけど、頭のいい猫だからね。


 帽子で影ができているけど、それでも汗があふれてくる。うつむいて汗が地面に落ちていく。確か今日は夏日になるって言ってたな。


 走る車の後には陽炎が見えた。少し、休憩したいな。


 すぐ近くに喫茶店が見える。たびたび利用するなじみのお店。でもハヤトの家ももう近い。私は自販機でお茶を買い、一飲みしてからすぐまた歩み始めた。


 合鍵はもちろん持っている。でも一応ベルを鳴らしておくのはマナーだと何度もハヤトに言われたから。彼は口うるさいの。


 返事もないまま玄関を開けて私はすぐ異常に気付いた。



 室温が外よりもずっと高くて暑い。



 中の様子はうかがえないが、嫌な予想はついた。



 ハヤトは倒れていた。症状は明らかな熱中症。こんなに暑い部屋に…なんてバカな人。



 幸い、ハヤトの意識はあって、まだ症状は軽かったからすぐ部屋を換気してエアコンをつける。そういえば足元でなーこが同じように伸びていたな。放っておいても良かったけど、一応なーこも様子を見てあげることにした。


 ベッドに寝るハヤトの体はずっと熱いままだった。手を握っていたけど、離したくなるくらい熱いと思うこともあった。こまめに冷たいタオルで体をふくたび、小さな声でハヤトはありがとうと繰り返す。意識があるとはいえ、ハヤトはうまく考えをまとめられないくらいぼーっとしていた。なぜ熱中症になるまでエアコンをつけなかったのか、答えがはっきりしていなかったんだ。


「ねぇ、ハヤト。なんで我慢するのかな。いつもいつもさ」


 目を閉じたまま虫のような声でハヤトは答える。でも聞き取れなかった。


 大きな窓に沿っておいてあるベッド、カーテンを閉めているので体は陰でおおわれている。まだハヤトは喘ぐようにこぼれる息とともに答えてくれた。


 やっぱり言っているのは、ありがとうだった。「アカネ、ありがとう」ってそういえばいつもこう看病してやるのが許されると思ってるわけ?


 ハヤトは丈夫に見えがちだけど、案外風邪とか病気に弱かったりする。それなのに予防もしないし、病院にも行きたがらない。こうして私が看てあげることがたびたびあるの。


 一言ありがとうっていえば、私が許すと思うわけ?


「アカネ、いつも、ありがとう」

「そう何度も言わないでも、もういいから」


 いつもいつも、同じ結末になるのは結局私が嫌がってないからなんだよね。


 ハヤトの額においていたタオルが温かくなっていたので、冷たいタオルに取り換える。手を伸ばすとその冷たいタオルにはなーこが顔をうずめていた。そういえばなーこを冷ますのを忘れていた。だからと言って、ハヤトのタオルをとるのは許さない。


 引っぺがすようにタオルを奪うと、なーこも仕方なさそうな顔で伏せた。さすがにかわいそうだから、もう一つ水で絞ったタオルをかけてあげる。


 ハヤトにも冷たいタオルをかける。


「アカネ。ありがとう」

「はいはい、分かったから」


 買ってきていたお茶を思い出し、口をつける。何だろう、なんだが笑みが自然と出てきてしまう。


 キャップをしめ、また私はハヤトの手を握る。


 この人は私がこうしていないとだめだな。私が手を握ってあげないとね。




 ふふっ、子供みたい。



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