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1-8初めてのなーこ

猫は好きですか?私は好きです。

隣の家で飼っていた猫に餌とかあげてました。


翌朝、玄関前に無数の死骸(虫や小鳥)を並べて自慢げな顔を見せることも度々ありました。



 六月




  初めてのなーこ



 誰もが知っていること。


 ルールは守る。


 道徳的に考えろ。


 では問題です。玄関開けたら猫がいた。



 どーする。



 マンションではなく、アパートに住んでいる俺。ハヤトの城だ。二階へ向かう外階段を上がっておくから二つ目の部屋がそうである。あたりには高い建物はなく、日当たりのいい、少し古めの建物。樹がいい感じに立っていてそこも俺的にポイント高い。


 そんな家のルールその一、生き物厳禁。


 ちょっと勘違いするなよ?人間はだめだってことじゃないからな?


 いくつかルールを決めてアカネも知ってるんだが、その最初のルールにいきなり引っかかる。


 俺はいまだ、玄関を開けた状態のまま。猫も置物様に下駄箱の隣にちょこんと座っている。微動だに、瞬き一つしない。


「貴様、アカネが連れてきたのか?」


 無反応、こちらを向いたまま一切答えもせず。むしろしっかり返事したほうがまずいか。


「白猫か…野良にしてはきれいだが。それでも家にあげることはないからな!」


 やはり無反応。俺はいったん荷物を置くべく部屋に上がる。そこにアカネはいない。玄関の鍵が閉まっていたから想像ついていたが、そうなるとあの猫はいったい何をしていたのか気になる。


「なー」

「‼」


 猫を背にしていた時、奴が鳴いた。


「ふふ、ぼろを出したな。正直ここまで反応がなさ過ぎて置物じゃないかと考えてしまいかけたが、やはり貴様は猫そのものだな」


 何言ってるんだろう。


 俺はテーブルに置いてあるペンを持って再び猫に向かう。相変わらず玄関に向かって固まっているが、無駄だ。俺にはお前が猫であることはわかっている。


 正面にペンを垂らしてゆらゆら振る。お前も猫なら耐えられるはずはなかろう。ほら、本能のままにとびかかれ。ほら、ほら。


 しゃがみこんでこのまま猫の顔をのぞくがまだ瞬きしていないように思う。


 さっきは鳴いたのを確かに聞いたのに、やっぱり置物に思えてしまう。置物だとしたらえらく精巧な作りで気持ち悪いくらいだな。


「ペンじゃダメなのかな。何かほかに」


 玄関からもう一度中に。今度はリビングに入った瞬間だった。


「なー」

「貴様…」


 なるほど、俺が後ろを向いているすきに鳴いているのだな。俺が貴様を見ているうちは動きを見せないつもりか。


 それにしても俺を見ないでよくそんな芸当ができるな。


 俺がだるまさんが転んだのプロフェッショナルだと知っての挑戦だな。いいだろうしかしフェアにいこう。


「猫!俺はだるまさんが転んだで振り向くからな。行くぞ」

「だーるーまさーんがー、転んだ!」「なーなーなーなーなーなっ」


 強いな。


「だーるーまーさーんが転んだ!」「なーーなーーなむ!」


 ちっ、おしい。あと少しだったか。


「行くぞ、猫!だーるーま…」

「何やってんのよ。ハヤト」


 何をやっているんだろう。


 アカネが帰ってきたとき、俺は猫とだるまさんが転んだをしていたが、どうしてそうなったか今考えても良くわからない。ただ猫の向こうに見えるアカネが今までで見たことのない不思議な表情をしていたから俺がおかしいことが理解できた。


 二人と一匹でテーブルを囲んで落ち着きを取り戻そうとしていた。


「ハヤトはなんであんなことしていたの?」

「猫が猫だとしるために」


「は?」


 俺は何を言った。いや確かにその考えのもとだるまさんが転んだ(以下DGK)をしたはずだ。


「ごめん言葉が足りなかった。猫が置物かどうか確かめるためにDGKをしたんだ」

「?は?触って確かめればいいじゃん」


 ごもっとも…。俺は何かの罠にはまったのか。猫の魔力か…


「おい、猫。お前も何か言えよ」

「えっ…。どうしたのハヤト。猫が答えるわけないじゃない」


 いや、さっきはDGKが成立していたし…。こいつ猫かぶってるな。猫だけど。


「そもそもなんで猫が家にいるんだ。アカネが連れてきたんだろう?」

「私知らないよ?」


 ん?


「あっ、ごめん今日用事があるからもう行くね。その猫は私が入れたんじゃないからね」


 そういってアカネは出ていった。再び猫と二人きり。一人と一匹きり。


 そういえばこの猫はアカネの前じゃ猫らしくしていたな。すぐに立ち上がってアカネにすり寄っていたし、猫らしく顔を洗うしぐさもあった。


「猫、一体何者なんだ」

「なーご」


 俺の顔をよく見て答える。こいつはなんだかんだ言って頭がいいやつかもしれない。そもそもどこから入ってきたんだよ。


 猫がおもむろに立ち上がり、リビングの大きな窓に向かった。そこで何かカリカリしていると思うとそのまま開く。そして猫がこちらを向いた。


「そんなとこが開いていたのか」

「なーご」


 猫は元の位置に、俺の向かい側に座る。こいつ俺の言うことが理解できているのか?


 試しに。


「あそこに置きっぱなしにしているかぎ取ってきて」


 さすがに無理か。と思いきや、ほんとにとってきた。トコトコ歩いて、器用に咥えて持ってくる。そして元の位置に戻った。


「ほんとお前何者だよ」

「なーご」

「なーごって、もしかして名前とか?」

「なー」


 なんだかかわいく思えてきたな。


「なーご、いや、なーこ。あそこの紙とってきて」


 すごいな、言うとおりにもってきてくれる。まぁ、歯形がばっちり。

 ペンを持って二重線を引いた。


「ルール一つ目は、廃止にしような」

「なー」


 謎もいっぱい残ったけど、やっぱりDGKができる猫ってことが心に響いた。このなーこは家族にする。


「今日からここがなーこの家だからな」


 なーこは一声なーと鳴いて、さっきの置物とは別物のように猫らしさ全開でリビングでゴロゴロし始めた。


「ちょっと、あんまり毛を残さないでね」

「なー」


 クッションについた毛をなめ始めるなーこ。またいつかこいつの話をする日が来るんだろうな。それまで不思議ななーこを観察していよう。




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