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3-23 ハヤトの行方


 ハヤトの行方



「よっし。いい感じにい終わっているぞ。みんなこの調子で終わらせちまってくれ!」



 おおー、と周りから歓声があがる。


 今日は昼食までに全員外回りを終える様に指示を出した。そのうえで全員そろって今日の仕事の残りを一気に終わらせる。そうすることで午後一時には全員が上がれる寸法だ。実際は定時までは勝手に帰ることはできないが、そこはここしばらくでの実績と役職権限でなんとでもしよう。


 今はパソコンを打つ音が響き渡る室内にシズクがお茶を持ってきた。



「みなさん、今日は暑いですから、水分取ってください。お茶配りまーす」


「ありがとう、シズク。できる事はもう、上がっているな?」


「ばっちりです先輩。もう根回しはすんでますよ」


「やはは、君たち二人は仕事も全力で楽しそうだねぇ、私も年甲斐もなく一緒になってしまったよ」


「課長もすみません、付き合わせてしまって。でもこれ終わったらみんなで先に打ち上げいっちゃってください。私もあとで合流するんで」



 今日の予定はすさまじい。


 午前中に得意先回りを終え、処理は一時間。メールの送信や報告は予告時間を決めて、定時前に送信するように仕掛けている。


 ここまでして、一体俺は何がしたいかというと。


 今日がハルカの学芸会だからだ!午後3時から始まるんだ!急げ俺!


 このことはみんなには相談済み。そして全員で画策して今日という日を一瞬で終わらしてやろうと。課長も課長代理の俺も課のみんな一丸となってやっている。


 みんなには早く上がって打ち上げに行ってもらうようにしている。俺はハルカを愛でてからそこに参加する予定だ。



「どう、終わる?」


「あ、支社長。ありがとうございます。終わります。終わらせます」


「あっはっは、そりゃいい事だ。君たちのおかげでうちの支社は過去最大の利益が上がってまた社長賞だよ。ありがたいねぇ」



 定年間近の支社長にも一枚かんでもらっている。なんでも「君にはおいしいものをいただいているからね」とおっしゃっていた。もしかして食べているんだろうか?


 こうして全力で俺は仕事を終えつつあった。





――――保育園――――



「ママ―」


「ハルカ、来たわよ―」


「ありがとう、ママ。パパ、来るかな?」


「うーん、来るって言ってったから絶対に何処かでは来ると思う、よ?」



 正直苦笑いが限界である。こうして劇が始まる前にハルカに会いにきた。


 ハヤトは先日話した通り、ハルカの学芸会には来るといった。たぶん、予想もつかない方法で時間を作ってくるんだろうなって気はする。あのハヤトだからね。



「じゃあママ、あたし行くね、見ててねー」


「いってらっしゃい」



 保育園の広場には私と同じようにママさんたちが集まっている。子供たちは準備のためか教室に入っていき、私たちは体育館へと案内された。


 いつハヤトが来るかはわからない。私はスマホを出してハヤトの番号をタッチする。そこまでして指はコールを押さない。仕事中は仕事中。もしも抜け出してくるというなら邪魔してはいけないな。


 そのうちに先生が私たちの誘導を始めた。そこで私はマナーモードにして鞄にスマホを突っ込んだ。どうせハヤトだ。いつか来るし、こなかったらその時笑ってやろう。


 どうせ、来てから端のほうで見ているんだろうね。


 そう思い、私は暗くなる館内でハルカの登場を待った。



「ああ、なんておいしそうなヤギなのだろう…」


「だめだ、おいらはなんてことを…」


「あなたには、長生きをしてほしい…」


「ねぇ、ガブ、私を食べて…」


「鳴るな!鳴るな!おいらのお腹、なるな!」


「食べたくない、ヤギの肉なんて好きじゃない!」



 ハルカはメイを演じていた。


 これは私もよく知っている物語、あらしのよるに。


 ヤギのメイはとてもかわいく愛おしく、切なかった。


 オオカミのガブも友情を大切にする、温かく、かっこよかった。


 個人的にすごくよかった。他のオオカミに処刑を言い渡されてメイと一緒に逃げ出すあたり、泣けてくる。


 周りを見ると、あまりの作りこみに私を同じようにみんな泣いていた。


 クライマックスを迎える。


 雪山を超えて、朝日が昇る。


 舞台はハッピーエンドを迎えた。拍手が起こる。


 館内は歓声に包まれる中、ハルカ達役者が出てきて挨拶をしていく。なんと可愛い事だろう。


 私は鞄が震えていることに気が付かなかった。





―――居酒屋―――



「かんぱーい!」

「「「「「「「乾杯!」」」」」」


「さぁ、食べますよ、飲みますよ!」


「「「「「「いえーい」」」」」


「ここの飲み代は課長が持つぞー」


「「「「「いえーい」」」」」


「おえういうえい?いやいや!無理だから!」


「それは置いといて」


「おける話じゃないよ、シズクさん」


「先輩が来る前に金額十万越を目指すぞー!」


「「「「「いえぇぇぇぇぇーい!」」」」」


「ハヤトくん、君の部下たちはやばい人たちだよ…」


 ここでは課のみんなで打ち上げをおこなっている。


 え?私?みんなのアイドルしーちゃんだよ!


 ごめん、忘れて。忘れなさい!


 丁度午後一時に仕事をあげ切った。


 そして、私たちは先輩を見送って、ここにいる。先輩は宣言通り、娘の学芸会へと保育園に向かった。生き生きしすぎてやらかしそうで怖かった。


 あとで先輩は合流する手はずになる。来てからはきっとハルカちゃんのデレデレ話になるだろうから今だけ先輩を抜きに話をしよう。


 そうだね、今でも好きだよ。


 あの人はさ、すごい人なんだよ。やるときに120%でやり切ってしまう。そして誰も傷つけない。


 ここには、実は優秀な人なんて誰もいないんじゃないかとおもう。普通の人たちが集まって、みんなどこかで苦しんでいた。


 先輩はそんな人たちをまとめて、一人ひとりと言葉を交わしあって、絆を作っていった。そうして今のこのチームがある。


 だから、ここの人たちはみんな先輩が好きなんだ。


 私の好きは違う意味かもしれないけどね。


 さて、私の話は終わり、先輩が来たら、どうしようかな。


 何でもいいや、話ができればそれで。


 楽しい人、それがハヤ兄。























































―――交差点―――



 サイレンが鳴っている。


 誰だ。


 誰が倒れているんだ。


 ああ。


 わかった


 俺だ。


 みんなが俺を見下ろしている。


 電話しよう。


 スマホ、割れてる。


 コールが、…出ないか。


 ハルカ。ごめんな。


 アカネ、…。










 ハヤトは、保育園にも居酒屋にも行くことはできなかった。


HandAはもう終わりです。


Hはもういなくなります。

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