3-22 晩酌
晩酌
「お疲れさま、ハヤトも飲みねい飲みねい」
「はいはい、ほどほどにな」
ハルカは寝た。なーこも自分の寝床でぐっすりしている。
今夜は久しぶりの二人きり。
二人きりで夜のひと時を過ごしたいなと思った。
私は今日くらい甘えさせて貰えないかなって。そう思った。
「アカネ、何かあったの?」
「ううん。別に」
「うそでしょ」
「違うよ」
違うんだ。ただ単に一人占めしたいなって思っちゃった。それだけなんだ。
「こうやってさ、二人っきりになる事もなくなってさー。…ちょっとだけさ、さみしかったりしねぇ。なんて」
うっわ、言っちゃった。恥ずかしい。こんな年になって、娘もいて。
「そっか、さみしいか。俺もかもしれない」
そう言って、ハヤトは、グラスのビールを飲み干すと席をたって、私の右隣に変わった。手優しく重ねる。肩が触れ合う。息遣いが聞こえた。
昔を思い出す。
前のアパートは狭くてさ、何しようにもすぐに二人の距離が近かった。
視界の端にちらつく彼の姿は、いつまでも変わらなく愛おしい。
それが今は残念。
私たちだけの世界がここにあるってのはわかる。ハルカのために必要なことも、社会人としても一端のステータスがいることも、わかっている。
でもそうやって、離れた距離はもうそのままなのかなって思うこともあったんだよ。
それを、こうやって一瞬で溶かしてくる。
ハヤトはすごいや。心がふわあって優しく包まれるよ。
「そんなことは俺だって感じているよ。最近家族に優しくなれないなって、なんでか心がざわつく。なんてことなかった心配事が胸を突く。アカネに触れようにもきっかけがつかめない。なんだろう、付き合い始めた頃みたいに不器用になった感じがしたさ」
「うん、私も。そうなの」
「すこしだけだけどさ、今夜くらいは二人っきりの時間を過ごせないかな」
「うん、そうさせて、ね?」
私は自分からハヤトの腕の中に潜っていく。
誰にでも優しいハヤトの他の誰にも見せない優しい姿を、今だけは私一人のもの。
そこからはいろんな話をした。
これまでの不安が流れ出るかのように。
しかし、それも二人でのぬくもりが溶かし消し去っていく。
「あとね、今度の話なんだけど」
「うん、何?」
「ハルカがさ、学芸会するんだって」
「保育園でか?」
「そうよ、きっと、可愛いわよ」
「そうか、俺も行こうかな」
「何言っているのよ、仕事でしょ」
「大丈夫、良い後輩がいるんだ実は」
「シズクさんのこと?」
「うん」
「無理するくらいないなら、こなくていいんだからね?」
「行くよ、行きたい」
「全くもう…」
「無理なんかじゃないさ、きっと大事な日になる。そう思ったから行くんだよ」
甘い時間はもうすぐ終わり、また朝が来る。その前に現実が帰ってくる。
でもそこにはそこで新しい形の愛がある。
家族としての形も新しく作り上げたい。
それでも今日みたいな日々がまた来るのを待っている。
たぶんだけど。
明日からはまた私たちは新しい仲良しの私たちになるだろう。
そうだ、きっとそうだ。
じゃあどうしたものか。
目下の目標として、次の学芸会の観覧。ちょっと楽しみになるように祈っていよう。
一番楽しく、楽しみたいのは、私たち。人生は楽しんだもの勝ち。
やっばいなぁ、やっぱり飲み過ぎたかな。余計なこと言っている気がする。
もう寝よう。また明日になったら、明日もきっとハヤトとハルカを好きになる。
そういう家族でいられるように。
二人きりの話を書くのは久々。
物語は一気に進みます。進ませます。
戸惑ってられないんで。




