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3-12 秋時雨、夏残り花火

 秋時雨、夏残り花火




 時雨とは何か。よく知らない。でもなんだか心地よい響きがするよね。秋のたまに降るさーって感じの雨とか私好きだよ。


 最後に見た景色は何だっただろうか。もういくら経つのか。





 秋雨前、会社の帰り道。海岸沿いへと向かう道へ行けば見える。水平線。


 そこで上がるは打ち上げ花火。


 夏の残りを知らせる。花火は心むなしいものだっただろうか。



「おう、シズク、何黄昏てんだ。一貯前に歳取ったとか思ってのか?まだまだお子様なくせによ―」


「うるさいですよ。先輩。今から。私はあの花火を見に行くんですから邪魔しないでください」


「邪魔なんてしてないだろう。なんたって俺は…」



 駅からはどんどんと離れていって。いづれ海岸線へと届いた。人はまばらである。


 わざわざ海まで来る人はいない。反対側に見える山の神社には屋台が並び祭囃子がかき立てられている。だからは私は人のいないこっちの海へ来た。



「なんだって、一人でみてんだろうなぁ。シズクはモテそうな顔してるのに」


「うるさいっすよ」


「せっかくの花火もこっちじゃなくて神社で見ればいいのに。いい男がいるかもよ」


「こんな顔誰にも見せられないっすよ」



 あー、悔しい。なんだってこんなに悔しいんだ。


 沿岸線に並んだベンチの一つに腰を下ろして見上げた空には、パーンと一つ大きな花火が上がった。


 キラキラ消えて、落ちていく。


 それとは逆に、あの日の私の感情があふれ出してくる。



「おいおい、泣くなよ」



 声が聞こえる。響いてくる。たった一人きりのベンチの私に。


 鳴き声は、打ち上げ花火が消してくれた。


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