1-6催眠術
良い事を言う占い師とかすきです。
おみくじ買ってもいいところにしか目が向きません。
でも悪いことが起こるといつまでも引きずっちゃうんですよねー。
催眠術
私は時々騙されているのではないかと思ってしまいます。
相変わらず、架空請求のメールは来るし、この前なんかは代引き詐欺があった。でも騙されていると思うのはそういうことじゃなくて、なぜ私はこうまでもハヤトを気に入っているのか…説明ができないんです。
正直ハヤトが「催眠術をかけているんだ」といっても信じてしまうくらい説明できません。
ある日のハヤトの部屋で。
いつも通り、何となくしゃべってテレビを見ていると、彼が普段話さないようなことを切り出した。
「俺がこんなこというのもあれだけどさ、この先どうするんだろうな」
一応仕事は二人ともしているから生活に不満はないけど、と彼は続ける。
彼がこんな真剣な話をすることはそうない。いっそう真剣さがまして聞こえる。ただ、今の恰好は部屋着でテーブルに頬杖をかき、テレビを見ながら言っているのだが。
また少し静かな間があって、言葉をつなげた。
「何かしらのけじめはいつかさ…つけるんだろう。今のこの状況は俺にとって楽でいて…満足しそうなんだ」
「けじめ…」
相変わらずだらけた格好。私も言えたような姿ではないけどね。
「満足な状況は嫌いか?」
「嫌いじゃないけど、まんねりだって思うこともある」
「そう思うよな」
ハヤトは起き上がって壁際においていた鞄まで向かう。
「俺には自分に自信もなければ金もない。こんなことをするのはあまりよくないことかもしれないけど…」
包装がされた手のひら大の箱。中には小さなピアス。
「俺がいつかけじめをつけようと思うその時まで、俺を好きでいてください」
ああ、私はまた催眠術にかかったのだ。こうして私は、説明できない思いをハヤトに感じて、それがとてもとても気持ちいいんだ。