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1-5ちょっと薬局に行ってきます


  ちょっと薬局行ってきます



「ああ、ん。んん」

「どうした?」

「ちょっとのどがね。んん」


 今朝来てからアカネはずっと咳をして苦しそうにしていた。


 本人は風邪だといっていて、たぶんそうなんだろうけど、たんが絡んでいるのか苦しそうに咳払いをしたままだ。原因はこの間の急な気温の低下だろう。俺も少し風を引きそうなくらい寒かったからだ。


 アカネはテーブルに置いてあるティッシュをとって、たんを吐き捨てる。ついでに一緒においてあるお菓子の中からチョコをえらんで口に入れた。


 その間俺はというと、アカネの隣、横になって頬杖をかき、テレビを眺めていた。やることないし動きたくないの最終形だと思う。


 窓の外は曇り空、洗濯物もあまり乾きがいいとは言えない。アカネのこの様子じゃ、遊びに行くことも敬遠してしまう。


 休みってこういうことだよなぁ。ほんと。


「そういえば、前髪伸びてきたな」

「え…?なんだって?」

「ああ、髪が伸びたなって。ほら」


 前髪をつまんでアカネのほうに向きなおす。アカネは口を開けてはぁはぁ苦しそうな息をしている。鼻はもう真っ赤になりそうな感じだった。


「確かに、ちょっと伸びてきたんじゃない」

「目に入りそうなくらいだから一番うっとおしいわ」

「今度切ってあげるよ」

「お、おう。アカネ、頼むわ…」


 目がうつろなまま俺の髪をつかんでると、なんか怖いわ。


 アカネは髪から手を放して今度はまたティッシュをとろうとした。しかし中はからっぽになっていた。


「ねぇハヤト。もうティッシュがないんだけど」

「ちょっとまちぃ」


 ゴロンと一回うつぶせになって、それから起き上がる。とても軽快とは言えない足で予備のティッシュを取りに行く。


「あ、…」

「どした」

「箱のティッシュもうねぇや。ポケットティッシュならあるけど?」

「ああー、まじかぁ」


 とりあえず、残ってるポケットティッシュをアカネに投げる。すぐ使い切る量だった。


「そういやさ、風邪薬もなかったっけ?」

「うん、今ちょうど切らしててね」


「…、ちょっと買いに行ってこようかな」


 アカネは一回鼻をかんでから立ち上がる。少しあるいて、洗面所の前で咳払いをし、たんを吐いてから出ていった。「そこの薬局いってきまーす」と言い残して。


 さすがに俺も外道ではないので。


 アカネがあっという間に出ていったが、俺はいまだ外に出れるような顔ではなかった。起きてから顔すら洗ってないのだ。


 ということで風邪のアカネを一人で行かせてしまった後にすぐ身支度をして追いかける用意をした。


 その時洗面所で顔を洗おうとしたところ、アカネのたんが流されずに残っていることに気が付いた。そもそもアカネはこういう時あまりしっかり流さない癖がある。端のほうに飛んでいたので、俺が顔を洗っても流れなかったようだ。


 まぁそこは気にせず流してすぐ追いかけるのが普通だろう。今回はそうはいかない。



 たんが赤黒い!



 まじかよ!これって血じゃないか!?


 何だ。風邪の症状で血痰っていえば、結核か!?結核って今でもあるって聞いたぞ。放っておくと危険な状態になってしまうのもあるって。


 俺は急いで、部屋を出て薬局に向かう。この近くでいつも使っているのはバス停近くのドラックストアだ。歩いて十分の場所だが、当然走っていく。もしかしたら今まさにアカネの身に何か起こっているかもしれない。


 入ってすぐアカネの姿は見えた。レジで精算している。


「アカネ!大丈夫か!」

「えええ!?な、なに。いきなり」


アカネの肩をつかんで引き寄せると、口の端に血が残っているのを見つけた。


「こ、これは…」


 俺が言うと、アカネも気が付いたようで、手で拭っている。


 アカネはやはり驚きを隠せないようで、しかし俺に笑顔を見せてくる。やめてくれ、強がるなよ。


「チョコが付いたままだったんだね。えへへ」


 店員が見ている前だったから、手を放して一歩下がる。それを見てからアカネは再び精算をつづけた。

 顔を、ゆっくりそむけてしまう。


「で、ハヤトは何しに来たの?」


 なんて答えるのが正解だろうか。家で血痰を見つけたから結核かと思って!とでもいうのか。まさかチョコと間違えるとは。


「アカネが心配で、それから俺も…買いたいものがあったから」

「え、なになに?」

「枕的な何かを…」

「あははっ。的なって何よ全く」

「今日、横になってて、リビングにもう一つそういうのがあってもいいかなってさ。アカネにはぬいぐるみがあるだろう。俺にも何かね」


 ちなみにクッションもアカネ専用のばかりである。


 完全に言い訳になっているが、ドラッグストアであるはずのない枕的な何かを探すふりをする。


 一つ助かったのはアカネが風邪で頭がぼーっとすることだった。


 うやむやにして、買ったティッシュと風邪薬を袋に詰めて帰り道につく。思ったよりもアカネの体調は悪く、足もおぼつかなかった。


 ただ、しっかり俺をからかう元気はあったようだ。


「あっ!もしかしてチョコを血と間違えてたの!?」



 ああ、的を射るからかい方だよな。




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