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2-24HandA

HandA



「『雛萌』これって何て読むんだろうな」


「ひ、ひなも、もえ?」


「正解は『あくあ』だそうだ」


「……違うよね」


「これは、おかしいよな」



 キラキラネームというものだ。テレビでよく見ていたが、ランキングを見てみると中々受け入れられないものもある。


 パソコンとにらめっこしながら二人で名前の呼び方を考える。アカネからは気が早いとはやされるのだが、俺は今、子供の名前を考えるのが楽しくてしょうがないのだ。


 もう冬だ。部屋はとても暖かい。それでも外は風が冷たいし、十二月を目前に商店街も沸き立っていた。


 アカネは日に日にお母さんらしく変わっていく。もちろん俺の主観だけどね。俺も気持ちはパパなんだけどな!マタニティーヨガとかなんとかの、通いもの為か、アカネは編み物を始めて部屋には赤ちゃん用の小さい帽子や手袋も増えた。アカネ自身も温かく着込んで今は、炬燵で肩を並べている。


 結論。


 はしゃぐ俺にアカネが付き合ってくれている形です。子を授かると女って変わるんだなぁ。



「『立花』だって。なんでこれキラキラネームのランキングに入っているんだろうね」


「わからないな。きれいな名前だと思うけど」


「なんだか、あんまりこういうキラキラネームとか見ない方が、ちゃんと名前つけられそうな感じになってきたよ」


「それもあるな。この先こういう名前を付ける親に出会ったらどうしようかと身構えてしまうし」


「幼稚園とかで一緒になった子の名前が読めないなんてことにならないといいねぇ」



 ありそうで、怖い。



「さて、アカネ。夕飯の買い出しに行こうと思うけど、一緒に行く?」


「もちろん。病人じゃないんだからね!行くよ!」



 いつもの商店街まで。


 なじみのお店もたくさんあって、子供ができたことを言うと、栄養のあるものをっていろんなものをたくさんくれる人もいた。俺もアカネもここが好きである。


 その商店街はクリスマスに備えてイルミネーションを飾りつけ、店前でケーキの予約を受け付けている。主婦もサラリーマンも学生も、ここを通るものは笑顔が軒並み溢れていた。


 外は寒い。しっかり着込んでアカネは特に寒くないようにさせた。



「今日は昨日よりも寒いから温かいものが食べたいな」



 八百屋さんにて、食材を見定める。白菜がおいしそうだった。



「そうだねー。ていうか、私のこと気遣ってか、ほとんど家事はハヤトがやっちゃってるかね。私もやりたいのに」


「いや、重たいもの持たせられないだろ?やけどしたらいけないだろ?」


「ハヤトは極端だよ!みんな普通に料理したり家事するってば」


「んー、まぁそれでも俺ができるんなら俺がやった方がいいと思うけどな」


「ハヤトはなんだかんだで、何でもできるから……。私はバイトもやめているんだから暇なの!料理くらいさせてよね!」


「うう、わかったよ。……あ!それじゃこれな。鍋な」



 白菜をもって籠へ入れる。すまんな、俺、白菜大好きなんだ。漬物も好きだし豚と合わせるだけでも好きだし、鍋も好きです。



「ハヤトが白菜好きなだけだよねー」



 はい。ばれてます。



「いやでも鍋いいでしょ!?簡単にできるし、二人で出来るし」


「そーだね。そうしようか。じゃあ精肉店と鮮魚店に寄っていこうか」


「よっしゃ。何鍋にする?キムチ?キムチかな!」


「なんでキムチにこだわるの!」



「……」


 うまいじゃん。アカネは笑って一蹴する。いろいろ話しながら食材を買い、豆乳鍋にすることになった。体にも優しいし、なんだかよさそうじゃん?


 お店を回っていく中で、二人で夕飯を考えるのはもうあと少しのことになるのかなと、不意に考えた。


 今もとても楽しい。きっと子供ができても楽しいだろう。それでもなんだか物寂しいのだろうか。アカネを独り占めできるのも今だけ。この楽しい時間も子供生まれてからは子供が最優先になるだろう。


 親父もこんな風に考えたのかな。作家なんてやっているからもっと大変だったろう。


 なーんか。どう感じたらいいんだろう。やっぱり行きつく先は今を楽しむことになるのか。


 でもさ、よくよく考えたら、子供が大きくなって、三人で仲良く買い物に行くのもいいなって思った。それもいい。楽しみだ。


 やっぱり簡単じゃない。子供を持つってことは。……きっと楽しいことがたくさんになるだろう。こうして変わっていくことを楽しむべきなんだろうな。


 あっ!俺、女々しいかも。


 家族ってこんな感じなのかな。



「買い物は終わったね。それじゃ帰ろっかハヤト」


「ああ、荷物持つよ。よこしな」


「ありがと。じゃあ空いた手はこうしようかな」


「お、おい。手をつなぐのかよ」


「させてよ、今くらい」



 アカネも同じことを考えていたのかもしれないな。






「さ、なーべー♪なーべー♪なべ♪なべ♪なーべー♪」


「なによ、その気持ち悪い歌は」


「馬鹿にすんなよ。CDもあるんだぞ」


「え!!嘘!!」


「ああ、嘘だ」


「……!」


「痛い!たたくなごめん!」



 食材は台所で切って、リビングに鍋と一緒に持ってきた。炬燵に入りながらテレビを見て、一緒に作るんだ。



「この俳優最近バラエティ番組にもよく出てくるね。何で有名になったんだろう」


「あれ?ハヤト知らない?朝ドラに出てたんだよこの人」


「そうなんだ。そっか、アカネは朝はゆっくりだから朝ドラも見てるんだったな」


「朝ドラ面白いよー。見れたらよかったのにね」


「そうだな。蓋閉めてちょっと煮込むぞー」


「りょーかーい。ああーもう、おいしそう!」


「鍋作るとみんなでつつきたくなるな」


「そうだね。……ひゃっ!!」


「どうしたアカネ!」


「……びっくりしたぁ!なーこだ」


「なーこかよ。っていつから炬燵の中にいたんだよ」


「なー」


「もう、何も私の膝の上から出てくることないのに。おいしい匂いにつられてきたかな?」


「こいつはアカネに似て食いしん坊だからな」


「ハヤトに似て、むっつりだからね」



 口がうまくなったなぁ。俺もうアカネには口喧嘩できないかもな。てか誰がむっつりやねん!


 猫って鍋食べれるの?



「おい、なーこ。お前鍋食べるか」


「なー、なー、なー」


「あ、首振ってる。やっぱり無理なんだね。ネコ舌だもんね」


「なー」


「いつも通りの奴もってくるか。なーこも外でて自分じゃしないだろうし」


「炬燵から出る気がないもんねー。なーこ」


「なーご」


「はいはい俺が準備してきますよ」


「ついでに取り皿と箸もおねがーい」






「「いただきまーす」」



 丁度よい具合に出来上がった。真っ白な豆乳鍋である。二人分にしては少し多いかもしれない。


 しっかり食べれば栄養もつく。そう考えて大目にしたが杞憂だったか。アカネの食欲はすごかった。妊娠する前よりもすごいんじゃない?黙々と「うまっ」というだけで食べ続けていました。



「満足したわ」


「満腹になりました」


「ねぇハヤト。私すっごく楽しいよ」


「俺も」


「今更だけど、ハヤトが旦那さんでほんとによかったと思う。いろんなことがあったけど、絶対に投げ出さないでくれたし。でもシズクさんの件は怒ったけどね」


「結構いろんなことがあったもんな。結婚も急になってしまって。いろいろごめん」


「一緒に暮らしたのは、それこそ結婚してからだけど、付き合ってからはもう6年くらいになる。私はね、大学出てからはいつ結婚してもいいなって思ってたから、お父さんのことあってもうれしかったんだよ。すごく」


「これからも、よろしくね。アカネ」


「突然なによ。もう。ま、ハヤトよりは長生きするからちゃんと看取ってあげるわよ」



 鍋を片付け始めた。食器をアカネが洗っている間に、俺はお風呂の準備をする。一緒にお風呂に入ろうかとか、冗談をかわしながら、夜も深まって布団に横になった。



「お休みアカネ」


「お休みハヤト」



 俺は、二人きりの生活を惜しむように、しかし家族が増えることに夢を見て、ゆっくりと目を閉じた。



 楽しい日々というものはすぐに過ぎ去ってしまうものだ。そうでなくても時間というものは少ない。しかし、どうだろう。楽しみを待つ間はその時間が長く感じはしないだろうか?たとえばきっと、出産の間なんかはとても長く感じて、気が遠くなるかもしれない。俺にとって、この二年。いやもっと長くは一瞬のうちに過ぎた。まさに、あっという間だ。楽しくて仕方ない時も、悲しくて苦しい時も、アカネがそばにいたから一瞬のように感じた。七夕の日、アカネにしたプロポーズは決して勢いだけのものではない。俺だっていつか言おうと思って、練習していたんだ。お義父さんにはそれから何度か殴られることになったけど、それもアカネのためだった。シズクのことは一生悔いることだろう。あれほどアカネを傷つけることはこの先に一度としてあってはならない。お義父さんには感謝してもしきれない。俺の、両親もよくしてくれていた。困った時に電話や手紙で助けてくれた。


 この生活は決して一人のものでも、二人のものでもない。多くの人が関わって出来上がったもの。感謝を忘れてはならないだろう。俺はそのことを、俺の子供に教えてやることが役目であるのだ。俺のこの人生、まだ始まったばかりなんだ。


おわり

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