2-22邂逅
邂逅
「「「あの……」」」
開口一番、全員の言葉が被る。
喫茶店で、言い大人が三人そろいもそろってらしくないことをしていた。
カチカチに固まって青いシズクと。ひきつってへらへらしているアカネと。状況に耐えられずに、もう泣きそうな俺がいた。
紅葉もいい具合いに染まり始め、温かい飲み物を注文している。
今日ここで三人そろうことになったのは、やはりあのことについてである。俺が引きあわせた。
「あ、あの!アカネさん……すみませんでした!わ、私」
「あ、いやあのね。うん。……何から聞けばいいんだろうか」
自己紹介を済ませてからはこんなやり取りが何度も続いている。いつになく低姿勢なシズクは目新しく面白い姿だが、自分が関わっているので逆に見ていられない。目をそらしたいくらいである。
「シズク、一応アカネにはあの日あったことは大体話したつもりなんだ。だから、今日はその」
俺も言葉に詰まる。何を話せばいいのか。正直どこかに地雷でもあるのはうすうす気が付いている。そしてアカネに至ってはもうパンク気味なのだろう。口がパクパク動くくらいだ。
「聞いてください。アカネさん。私、ハヤトさんを誘惑して不倫させようとしました。本当にごめんなさい!」
「ちょっと!その言い方は……」
「ハヤト、彼女の話を聞かせて。やっぱり、気が済まないところはあるもの」
「だって、あのいい方は違うし。第一そんなつもりじゃなかったはず……」
「先輩。全部話そうと思うので先輩も聞いててください」
そう言って、彼女は一人語り始める。ホットコーヒーやカフェラテがテーブルの上にカップだけ残っていた。
「私は大学を辞めて、先輩のいる会社に入れてもらいました。その時、この町に戻ってくることを考えました。ほんの少し思い出がこの辺りには残ってたからです。
先輩がいることは知りませんでしたが、名簿と実際に会って、そうなんだなって分かったんです。実はとてもうれしかったんですよ。たった一人でここに戻ってきて、あの人がいるんだ!って。
この町で暮らすのはまた最近になってからでしたが、それでも何度も来てました。その時は先輩はいなくて、いや当たり前ですよね。実際に戻ってって場所は今住んでる最初の町なので、先輩や会社があるこっちの町ではないんですから。それでも、あのアパートに戻ることにして全部捨ててこっちに来たのに、先輩はいるんですからね。
で、好きになりました。なんかあっさりしていてごめんなさい。好きになったというのは違うかもしれませんね。……助けを求めたって言うか、結婚しているだっていうことはしってたですが。ちょっとだけ、なんでとは思ってましたが。
ごめんなさい。ちょっと、つらくなって。大丈夫です。泣いたりしませんから。
私が戻ってきたのは……、お母さんが死んだからなんです。もう頼れる人が誰もいなくなって、あ、お父さんはずっと前に離婚したんです。
もう私、わがままに生きようって決めたんです。お母さんは頑張って無理して死んじゃったから、私が一番なんだって考える様にして生きようって、決めたんです。それでも人の人生に手を出すべきじゃないことはわかっていたつもりだった。でもこの人すごく優しいから、突き放そうとしなかったから。甘えました。
要領得なくてごめんなさい。何話しているんでしょうかね、私。あー、こんな感じじゃなかったんですけどね」
この話、まじかよ。
俺は顔を伏せていた。
「よし!シズクさん判決を出します。これはハヤトが悪い!」
ええ!?俺ですか!?
「シズクさん何も悪くないもん。頑張ってるじゃない。それに何も知らないままよくない態度をしていたハヤトが悪い」
「いや、でも」
「だめだよ?あなたが悪いんだよ?」
「はい、すみませんでした」
アカネはいつもの調子に戻っていた。
シズクは、ああ、なんか泣いているっぽいな。
「シズクさん、私がいうことじゃないかもしれなけど、大変だったんですね。ハヤトのことも、私のことも頼ってください。それでもハヤトはあげませんからね?」
アカネは席を立つ。横目でちらっと俺を見た。後は任せるということだろうか。
二人きりとなってもシズクは顔を覆っていて落ち着くのを待つ。
「お前は随分と強い奴だったんだな。よく頑張ってきたよ」
「先輩なんかに言われたくないです」
「おお、そうかい。アカネはあれで、シズクのことを気にいったと思うぞ。でも俺はアカネと一緒だから、そこはすまんな」
「はいはい。もうわかりましたよ」
化粧が涙の後でにじんでいる。横顔を俺に見せる形でそっぽを向いていた。なんというか、俺から見てだが、少しは晴れた顔になっているのかな。
「……ありがとうございました」
会わせてよかった。シズクにとって、古い友人と新しい友ができたことになる。よかったよかった。
「奥さんとも仲良くなれましたし、これからもっともーっと仲良くなってくださいね?先輩」
小悪魔のように笑う顔を見て、俺は開口。開いた口がふさがらなかった。




