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2-20家族

家族


 俺がシズクと和解してから家に帰ると、部屋の前にお義父さんがいた。


 アカネのお父さんだ。


 お義父さんも俺のことに気が付いてた。もう日も長くない時期になっている。日は暮れていた。


 急いで駆け寄り、ひと声挨拶をして、部屋へ案内した。


 長い間待っていただろうから、すぐお湯を沸かし、お茶を入れる。近くに車が止まっている気配はなかったから電車できたのだろう。足はまだよくないだろうに。今の足を崩さない。誠実で一本気な男だ。



「お茶です」


「ああ」



 二人で話したことはないな。


 そういえばまだ帰ってきたばかりだった。スーツの上着だけ脱いでおこう。



「ハヤトくんは、ちゃんと仕事に行けているのか」


「はい。仕事はできています。一応」


「そうか、心配していたので気になってな」



 誰がとは言わないか。嫁の父親にまで心配かけることになるとは。後先考えずに行動したわけではないが、責任のすべては俺になるのだから。



「いざ、君に会いに来たはいいが、面と向かうと話しづらいものだな。そもそも私はそんなに話が堪能な方ではないがな」



 お義父さんが酒でもあればと、こぼしていたので、俺はすぐにウィスキーを取ろうと立ち上がったが制される。それはいらないと。



「アカネの、調子はどうですか?」


「うむ、いつも通り、とは言い難いな。とはいえ私たちには何も話してくれないので、こうして来たというわけだが」


「本当に申し訳ございません。俺が悪いんです」


「それは、……知らない。私の知ったことではないからな」



 俺はここですでに平手でも構わないと思っていたので、拍子抜け、いや呆気にとられる。



「私もいろいろ家内とはあったからな。夫婦の問題は夫婦で解決するべきだ」


「お義父さん、失礼ですが。お義母さんに何か言われていたのですか?」


「君は……、鋭いな。そうだ。……余計なことはするなと釘を刺されてしまった」



 背筋をきちんと伸ばしたままだったお義父さんが少しだけ崩してぽつぽつ言った。



「私が、怪我をしてからというもの。以前よりも強くなってしまった。いや相変わらず体のほうは弱いだろうが、なんだが、手綱を握られたような感じになってな……」



 腕時計を見て、いけないと話を戻して、またお義父さんが言う。



「まぁ、私たちは君たちに何があったか知らないということだ。それでも多少なりとも言いたいことがあって、ここへ来た。


 貴様。


 アカネの幸せのために結婚したんじゃないのか。アカネがうちに帰ってきたとき思ったぞ。貴様を殺してやろうかと」



 言葉もない。



「しかしな、アカネは貴様の話を楽しそうにするんだ。楽しかったと。これからも楽しみだと。アカネはお前のことをよく見ているんだと、聞いてもいないのにわかる」



 そうだなぁ。


 アカネはいつも俺のことを見ていた。だからこそ、シズクのことにも気が付いてしまった。俺はアカネのわずかな変化にも気が付かなったのかもしれない。


 俺はいつも行動が遅い。考えすぎていたのかも。可能性を捨てきれずに明確な立場や判断を示せていなかった。


 目の前のお義父さんの行動原理はもう明確だ。


 家族のため。それに尽きる。


 俺はアカネのためにを徹底しきれなかったのだ。アカネは俺のために……。


 俺だって家族のために生きる人間の素晴らしさを知っている。でもそれがなかなか難しいのだ。でも難しいからって。それは理由にならない。



「ハヤトくん。私の元部下が車を貸してくれている。すぐにアカネを連れ戻しに行きなさい。今、付いたと連絡が入った。さぁ。私は所詮、親。これからの長い人生、アカネを支えるのは君の役目だ。私はそれを後ろから見ている。また道をたがえそうになったら今度は容赦なく殴ってでも道の真ん中に戻してやるから、安心しなさい」


「……、はい。これからも、どうか。よろしくお願いします!」



 深く頭を下げる。その頭にポンを手を置かれ、お義父さんは部屋を出ていく。


 しっかり土地を踏みしめるように歩く姿は、強く男らしかった。リハビリを繰り返して、また歩けるようなるまで。


その姿に、もう一度頭を下げた。


 部屋を出て、階段をすぐ降りたところで、俺より少し年上の方から車の鍵をもらった。何も言わずに俺を送り出してくれる。いろんな感情が湧きあがるが、それすら置き去りにして、俺は迎えに行った。






 玄関のチャイムを鳴らして、出てきたアカネを何も言わずに抱きしめた。お義母さんが出てきたらどうしようだとか、アカネになんて話そうかとか、考えていたことはすべて飛んでしまった。これまでよりもずっと強い力で抱きしめて、アカネが何を言っても気にしない。今は俺の番だ。



「ちょっと、ハヤト。いきなりどうしたのよ。ここ玄関だよ」


「うるさい。黙って俺に抱かれてろよ」


「もう!何言ってんのよ―」



 しばらく会ってなかったというのに、こうも素直に言葉が出る。おお、アカネもなんだかうれしそうではないか。俺と同じなのかな。さみしくて、うれしくて。



「アカネ、アカネ!」


「なになに!これハヤトなの!?こんなに甘えているのが本当にハヤトなの!?」



 いやちょっと、嗅ぐな!と頭をはたかれ、やっとちょっと離れる。手は握ったままだが。アカネは少しぶつぶつ言っているけど、やっぱり嬉しそうな気がする。



「アカネ!」


「な、なに!ちょっと待ってよ。こっちも心の準備が……」


「わかった待つ!早く」


「せかすな!」



 一呼吸、二呼吸。胸に手を当てて気持ちを落ち着かせているようだ。顔は赤い。目を開けて俺を見て、よしっと一言。



「アカネ!俺の子供を産んでくれ!」


「ふえええええ!!!ちょっと!!何いってんのよ!!」



 あ、また真っ赤になった。


 俺も周りに目が行ってなかったが、ここでようやく場所が何処だったか把握した。というのも、産んでくれ発言のすぐあと、お義母さんからチョップをもらった。にこにこしながら、『中入ってやれや、この野郎』というジェスチャーを見た。こう、親指を立ててくいっと。


 キャパオーバー気味のアカネの手を引き、中へ入る。お茶を入れてもらって、座って落ち着いてきた。



「じゃあ改めて、アカネ。俺と子供を……」


「ちょっと待って!ちょっとね、今ね。わけわかんない感じだからね。何を思ってそんな結果になったの」


「アカネともっと家族になりたいと思ったんだ。お義父さんがうちに来て、話して。家族を守ることをもっと大切に感じたんだ」


「それで、子供を」


「アカネは俺の大切な家族だ。でもやっぱりアカネに甘えるところがあった。それが今回みたいなことになって俺はすっごく後悔したんだ。ごめんなさい。アカネともっと家族になるために」


「ううん。私が勝手に飛び出して、一人で抱え込んじゃったから。もっと話せばよかった」


「うん。いや俺が信頼してなかったようなもんだ。もうあんなことはない。俺は家族のために生きる覚悟ができたんだ」


「覚悟って、大げさだよ」


「いいや、そんなことはない。俺はパパになる覚悟ができたんだ。家族を守る大黒柱に」


「私は、そんな覚悟ないよ。赤ちゃんはほしいけど。守っていけるか不安で」


「俺が守るんだ。アカネも子供も。家族を守るんだ自信が付くまで待っていたらいつになるのかわからないだろう?見切り発車かもしれない。でも一緒に頑張るものだから、これでいいかもしれない。


 それにさ、ここから家族としての時間が始まるなら早い方がいいだろ」



 これから家族の時間をもって、たくさん話をして、アカネと俺。一緒に人生を歩んでいけたらいいなって。そう伝えた。


 アカネのほうから俺に抱き付いてきて、俺の耳元で、大きな声で『はい』ってさ。耳がキーンてしちゃったよ。


 家族になるのは難しい。だって一人ではなれないものだから。結ばれるのが難しいということは、その分だけほどくのも難しい。固く結ばれた家族に俺たちはなりたいと思う。


よかったねーアカネさん。

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