1-4 5月11日
この日といえば何がありますかね。
私はカーネーションを送った思い出がありますね。
懐かしいなぁ。
5月11日
土曜日の今日は、アカネと一緒に近くの商店街に来ていた。 いつもよく来るところだが、活気があってなかなか好きなところでもある。
タイル張りの道を二人で歩いていると、子連れのお母さんたちが、集まっているのが見えた。
「アカネってこういう商店街的なところは好きだっけ?」
「うん、好きなほうだね。何か昔から変わらないところはほっとするんだよね」
「入れ替わった店も多いけど、昔から知っているのもまだあるからね」
「ほら、あそこにいこうよ」
人の波をかいくぐりながら、俺たちは今日向かう予定としていた店に飛び込む。
5月11日。今年の4月は寒い日が続いたが、やっとあったかくなってきた。いつもよりも薄着でいる。俺はいつも着ている上着を置いてきていて、アカネに至っては夏服を出してきていた。
硝子戸を開くと、昔に聞いたことがある呼び鈴が鳴る。
小さいお店。でも好きな品がそろっている。明日の母の日のために二人で買い物だ。
雑貨屋のような店には、女の子向けなのか、かわいらしい商品が多い。
「アカネさんアカネさん。女の子の目線からこれはどうですか?」
「ハヤトくんハヤトくん。これはお母さんにプレゼントするにはかわいすぎではないですか?」
俺が手に持ったマグカップを見せながら、少しふざけてもしっかりかぶせてきてくれた。
アカネの乗りの良さが、俺は好きだ。
あれこれと悩んでいたが、結局は最初に選んだマグカップを買うことにした。俺とアカネのお母さんにふたつ。
レジに行くと、来るときに人だかりができていた理由が分かった。
「福引券、もらったね」
「うん。二枚もらったね」
今日は商店街全体の協賛で福引をやっていた。お母さんたちが集まっていたのはこのためだった。
「行きますか。お嬢さんよ」
「行きましょうか。お坊ちゃんよ」
並んでみると、たくさんの子供たちがみんな飴玉をもらって帰って行った。おかげというかなんというか、一等や二等はまだ残っているようだった。
「順番にさ、どっちがいいのとれるか。勝負だ!」
「乗った!」
アカネには後ろを向いてもらって、手持ちの音楽プレーヤーを大音量にして耳をふさいでもらった。
次にアカネが福引をして、おれは列を抜けてアーケードの中央まで出ていった。
「さぁ、アカネ。今ならさっきの勝負に賭けを追加できるが、どうする?」
「いいねぇ、ハヤト。いくらにする?」
二人してにやにやしていた。はたから見たら、気持ち悪い二人にみえただろうが、今はそんなことを考えている暇はなかった。
早く!早く見せたい!
「みろ!俺は二等の温泉旅行だ!」
「見なさい!私は二等の温泉旅行よ!」
「「…え?」」
確かに、二等は当選枚数五枚となっていた。だけど実際二人がかぶる事なんて考えもするわけないだろう。
いや待て、とにかくだ。現状把握をまず先決にしよう。ここにはペアの温泉旅行が二枚あるということだ。
相変わらず人通りは多い。アカネも俺と同じことを考えているようだ。
当たった時は、一緒にいこうと思ったけど、ペアのが二枚あっても意味ないしな。
どうにも考えがまとまらなくて俺はうつむいていた。ふと目に入ったのは俺がさっき買った袋。
「俺に考えがあるから、とりあえずかえろうか」
アカネはまだ、どうしようかと考え、何とも微妙な顔をしていた。
翌日、打って変わって天気は悪くなる。とても寒く、何か温かいものでも飲まなきゃやってられないくらいだ。
「ねぇ、ハヤト。早く…それ」
アカネはうちで布団にくるまっていた。俺の部屋は残念なことにもう暖房器具は収めているからこうでもしないとつらい。
俺は湯気が上るカップの一つを渡す。
昨日かったプレゼント用のマグカップだ。二人で熱いコーヒーを飲みながら体を温める。
結局プレゼントにはあの温泉旅行はそれぞれの両親にプレゼントした。
「寒いね」
「寒いわぁ」
「こんなに寒いんなら温泉つかればよかったかな」
「さすがハヤト。私とおんなじこと考えるね」
コーヒーをすすりながら、布団にくるまりながら声をそろえてため息をつく。
母の日だから。たまにはいいんじゃないかな。
うっわ、さむっ!