2-13一周年
一周年
「七夕だよ。ハヤト」
「わかってるよ。アカネ」
七月六日。七夕ではない。
七夕は明日だ。ではなぜこんな話をしているのか。
去年のこの日、俺は。ハヤトはプロポーズをした。
プロポーズ記念日というやつだ。
去年は仕事を休んでお義父さんの病院に向かったが、今年は二人で過ごそうと思う。外食でもと、話をしていた。
しかしだ。今年の七夕は月曜日とあって、ゆっくり時間が取れない。だから前日にお店とかすべて決めて、明日、一緒に行こうということにしているのだが。
「残念だけど、今回はキャンセルしようよ。ごめんね」
「まだ分かんないだろ。アカネならすぐ直るさ」
二人の部屋。俺はお昼ご飯におかゆを作って、リビングのアカネの所へ持っていく。アカネは、テーブルの上に置いたクッションに頭を埋めて、呻く。
なーこはというと、ここ最近、あまり家にいない。外に友達でもできたかな?
見て取れるほど、アカネの調子は悪い。だから先ほどから、アカネは明日の食事は無理だからキャンセルしたいと言っている。俺はいやだ。アカネと記念日祝いたい。
こればっかりは譲れない。というか、こんな理由で辞めるわけにはいかない。
「大丈夫だから、すぐ直るからって」
「いやだよ。無理だよ。こんなの、もうだめだよ、死ぬしかないじゃん……」
「……、アカネ、いい大人がわがまま言うな」
「だって、無理だもん」
「なぁ、歯医者行こう?すぐ直るから」
「いぎだぐ、ないもん~。わぁぁぁぁん!!」
虫歯ごときで、せっかく予約したレストランを逃してたまるかよ!
「ガキみたいなこと言うなよ!ほんと、大人が情けない」
「だって、だってさぁ。痛いじゃん!怖いじゃん!ぎゅいーーーーーんって」
「それでもいつか直さなきゃならないんだから。さっさと行けよ!」
「心の準備が……」
「もう三日前からだよ!!!」
いい加減にしてほしい。
ことは結構前から兆候があった。俺より食べるアカネが食べなくなって、口数が減って、初めは何か怒らせたかなって思ったが、すぐ虫歯って白状する。あんまりアカネがしおらしくすることなかったから、甘くしていたが、さすがに駄々をこねすぎだと思って、今日は頑張るぞ!ぜってぇ行かせるからな。
うぅーって、呻いても、足ばたつかせてももうしらねぇ。
とか言っても、俺はどっか、甘いんだよな。おかゆ作っちゃうし。力仕事代わっちゃうし。
クッションに頭を落としたまま、アカネはこちらを見ようともしない。しかし、虫歯のある右ほほには何も当たらない様に、空間を確保してやがった。
そこに俺は、氷を一つ当ててやる。
「ひゃあぁぁー……、うぅ痛い。なにす!……うぅ、のよぉ」
「ばーか。このまま歯医者に行かないなら、いつまでもこうやっていじめてやるからな。レストランもそのまま連れていくぞ。目の前でいっぱい食ってやるぞ」
「やだぁ」
なんか、アカネ可愛いな。これはこれでいいかもしれない。が、まぁ生活には差し支えるので。
「なぁ、アカネ。なんで歯医者行きたくないんだ?」
ここで、やっと、顔を上げる。うわぁ。腫れてやがる。突っついてみたい。
「歯医者は……行った記憶がない」
「行ったことないってこと?」
「いや、たぶんすっごいちっちゃい頃に行ったことあるんだけど、それから一回もないから」
「あれは?乳歯の生え変わりの時は」
「あれは、治療しないから」
「はぁーん。つまりは怖いってことか。何されるかわかんないから」
「まぁ、そう」
「ビビり」
「な!!!」
「ティキン」
「なんで、キモイ発音なのよ」
「それは、失礼した。チキン」
「言い直さないでよ」
ちょっと涙目になってきたな。もう一息。
「お母さんがこんなだと、将来子供に何も言えないなー。立場ないよなー」
「ハヤト……、ほんとに行きたくないんだよぉ?」
「アカネ。行かなきゃ一生痛いし、他の歯も全部だめになっちゃうよ。それにさ、今直したら」
「うん」
「明日、黒毛和牛のステーキが食べられるんだよ?」
「!!!!」
顔が変わった。
そりゃそうだよな。アカネにはどこへ行くのか教えてなかったんだから。かねてから言っていた。おいしいお肉を食べるチャンスを目の前に垂らしているのだ。これで食いつくだろ。
「いやでも、やっぱり……」
「わかった。今ちゃんと直したら、あれもつけよう」
「あれ?」
耳元で、ごにょごにょ、と。
「わかった。行こう。歯医者。あれが食べられるのなら、行こう」
「よし行ってらっしゃい」
「え……、一緒に、来てよぉ」
「わかってるよ冗談だから、そんな服掴むな。のびる」
そうして、俺はアカネと近所の歯医者へ向かう。着替え始めるアカネは俺の目を気にしない。いや夫婦だから、そんな普段から気にしてないみたいだけど、今のはアカネは俺なんか忘れているだろう。魔法の言葉をかけたのだから。
「じゃあハヤト行くよ。帰ってきたらちゃんと作ってね!」
「わかっているよ。治療している間に買い物してくるからな」
「えっ!!……しかた、ないね。我慢する!だから絶対だよ!手を抜くなよ」
「はいはい。じゃ、いってらっしゃーい。俺も買い物終わったらすぐいくから」
アカネは俺を睨むような、お願いするような、なんとも言えない目をして玄関を出る。さて、俺も行くかな。
アカネが大好物の、ハヤト特製チーズケーキ。
「食べ過ぎて、また虫歯になんなきゃいいけど」
俺は、財布と、エコバックをもって、材料となるフィラデルフィアのチーズを買いに出かけた。
次回更新は明日19:00です。




