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2-8アルバム

アルバム



「私たちの写真ってあんまりないよね。アルバムも作ったことがないよ」


「そうだな。でもいきなりどうしたんだ?」


「これだよ、この写真」



 私がハヤトに差し出したのは厚紙のような装飾された大きな台紙に一枚の写真。二つ折りになる本のような形になったそれは、結婚式の写真だった。ホテルの用意したものが約半年経ってようやく完成したのだ。


 この日はレンタカーを借りてハヤトの実家に向かっている。前の時とは違う車で広々とした車内で私はゆっくりできた。その中で持ってきたその写真を広げる。


 親族用のその写真を、休日を利用して渡しに行くんだ。


 ホテルから連絡が入り写真を取に行って気が付いた。いやそれ以前からも分かっていたことだが、私たちは写真をあまりとっていない。二人とも写真を撮ることになれていないからだ……だと思う。前にハヤトのスマホの写真見せてもらったことがあるけど、ほとんど車の写真だった。大学の頃だったからかな。


 車の中で写真を見せて私はすぐに思った。流石にダメだろ。そう思ったけど、ハヤトはちらっとこっちを見て話を合わせてくれた。車を運転しているんだ。いくら高速道路で直線ばかりだからといって私が考えなきゃいけなかった。



「こうして、その写真……結婚式の時みたいな恰好していると俺もアカネも別人みたいだよな。まぁ、普段から写真撮らないからカメラ通してだと全然違うふうに見えて当然か」



 ハヤトは続ける。アルバム作ってみるか?って。


 どうだろう。作りたいのかな。あっでも、作りたいかも。



「私は、赤ちゃんができたら。作りたいかも」



 あれ?私は顔赤いかな。あ、窓開けてなかったよ。暑い暑い。



「……、最近アカネさ、何かと強くなったよな」



 ハヤトはあきれたふうに言ったのだろうか。その顔を私は見れない。私が目に入れようとしているのは車の外の景色だけだ。心を落ち着けよう。広いといっても車の中。ハヤトとはすぐ隣同士だ。近いよ。


 強くなるとは、大きくなること。大きくなるとは、大人になったということだ。


 私は最近ひしひしと大人になったと感じる。


 それは、結婚してからとか、お父さんのこととか。いろいろとね。


 この後は話はせずに、目的地に到着した。車を降りてからは、話さなかったというより、予想通り、疲れて話せなかったというのが、大正解。もうそろそろ五月とはいえ、山の中で少し肌寒い気がしたのが、むしろ良かった。去年、夏に来た時よりは疲れていない。いやでもしっかり疲れましたがね。





「ハヤトはね、昔から全然写真を撮らせてくれなかったのよ。アカネさん。でもね、私が絵を描かせてってお願いすると、頑張って笑顔を作ってくれたのよ」



 ハヤトのお母さんが話してくれる。もう、お義母さんと呼んでいいのかな。絵具で少し色づいた手を、式場が作った大きな写真に這わせている。子供をなでるお母さんのようだ。

  

お義父さんは横にいる。優しい目をしていたなって感じる。


なんだろう、私は自分の両親より、ハヤトの両親のような夫婦になりたいと思っているんだと思う。私の家の所はお父さんが強いからね。ハヤトにそんな雰囲気はないよ。


あ、でもどうだろう。ハヤトはそうは思ってないかもしれないな。



「どう?アカネさん。ちょっと私の部屋に来てみない」



 お義母さんがそう言ってくれた意味はもちろん、ハヤトの絵を見せてくれるという意味だ。私は快く承諾する。寧ろお願いするくらいだ。もしかしたらちびハヤトが見られるかもしれないからね。


 ハヤトはあまりお酒を好んで飲む人ではない。大学の頃に言っていたことだが、車が運転できなくなるからね、と。今日はお義父さんにつかまってすでに飲み始めている。今日はお泊りですね。


 部屋では何が何やらわからない状況であった。……汚い。


 ものが散乱しているとはこのことだと思う。積み重ねられたキャンバスの下から段ボールを取り出して、お義母さんが部屋の入り口にいる私の所まで持ってきてくれた。



「さぁ、見てみましょう。ふふふ、実は私も見るのは久しぶりなのよ」


「これが、ハヤトですか?なんだか、女の子みたい……」


「そうね、……いや、違うわよ!さすがにこれは違うわ。確か近所の女の子よ。こっちよ。あの頃のハヤトはちっちゃいのに正義感の強い子でね。でも臆病なの」



 普通に間違えてしまった。


 正直、絵に移っている子供は二人とも女の子といえるくらい可愛い子供だったのよ。ちょっと、面影ないんじゃないかな。うん。



「あ、この場所って、あの本屋さんがある街じゃないですか?」


「あらアカネさん行ったことがあるの?そうね。これはあの町に住んでいる頃に描いたわ。それでこの女の子がすぐ隣で住んでいていつもハヤトと一緒だったわ。裏にハヤトが書いた名前があったはずよ」


「これですかね。しーちゃんですか」


「そうそう、しーちゃんって言っていたわ。たぶんその子を描いたのはそれっきりのはずよ。あの子引っ越しちゃったから」


「そうみたいですね。他には写ってないようですし。にしてもお義母さん本当に絵が上手ですね!写真よりきれいじゃないですか?」



 絵の中で次第に大きくなっていくハヤト。大きくなるにつれてアングルが正面じゃなくなっているのは反抗期からかな。


 ひとしきり絵を鑑賞した後二人でリビングに戻るとソファに酔いつぶれて寝ているハヤトとお義父さんがいた。


 私はスマホを取り出してハヤトを写真に収める。


 フォルダの名前をアルバムと変えた。


 まだ一枚の写真は大きく口を開けたハヤトの姿だけ。これからが楽しみになりました。


次回更新は19:00です。

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