2-6ゲーム
ゲーム
久しぶりに何もない休日だと思う。アカネは友達と遊びに行き、俺は仕事が休みだから家にいる。なーこは、知らない。いつの間にかいないな。
俺はハヤトと言います。今はぼけーっとしているつもりです。
いつくらいだろう。一人きりの休みというのはもうずいぶんなかったと思う。
一人の時間の潰し方を忘れてしまった気がする。
俺はリビングでテレビをつけたままクッションを背もたれに足をのばす。耳には音が入ってくるが聞き取らない。目ではもちろん見ていない。じゃあ消せよって思うかもしれないが、俺は意外と繊細で無音状態が耐えらんない性質かもしれない。
外の天気は良かった。
日当りのいいこの部屋では電気をつけなくても十分明るい。といっても散歩に出る気はない。この間まで桜の花見客がごった返す中頑張ってアカネについていったんだ。一人の時くらいゆっくりさせてくれ。
「何しよう」
あれ、今のって今日初めてしゃべったんじゃない?ヒキニートっぽいなぁ。
というかほんとに何しよう。俺って大学の時とか何して暇つぶししてたっけ。
そうか。車だったな。
ずっと車いじってた。大学か、借りてたガレージでずっといじってたわ。そういえば。車がまたほしいなぁ。アカネ許してくれるかな。
無理だな。
おおう。いつの間にか横になってしまっていたぜ。このクッション恐るべしだな。寝るところだった。いや、寝てもいいのか。
寝るのは最終手段だろ。
「なんか探すか」
そうして俺は、リビングの端にある物置の扉を開けた。ずいぶんと物は少なくなっているがまだ俺の昔の私物があった。
いいものがあった。
「おお、プレステ2か。懐かしい」
懐かしい。俺がいつの頃に買った奴だろう。大学の頃も使わなかった気がする。しかもご丁寧に、すぐそばの袋にコントローラーとか電源ケーブルとかいるものは入っていた。
やるか。
「はて、しかし、ディスクが一つも見当たらないのだが、もしかしたら、中に入ったままなのかもしれないしつけてみるか」
「お……?お!」
カーン!実況。パワフルプロ野球―!
「パワプロじゃん!!」
動いた。しかもパワプロ15だった。結構やりこんだ覚えがあったが、メモリーカードにデータは残っていなかった。が、そんなのは関係ないくらい俺の心は燃えていた。
だって、やりたいんだもん!
「ほう、この時はサクセスに栄冠ドリームがあったのか。高校野球だからなー。難しいよなー。まぁ、今はやらないけど。やるのはサクセスだよな。ああ、なるほど。社会人野球か。くくく、今の俺にピッタリじゃないか。社畜となりながら夢を追うなんて……、いや、何でもないわ。もう始めよう。うわ、初めからだから、ストーリー全部初めからか。長いな」
ぶつぶつ言いつつ、俺はのめりこんでいた。パワプロ15は高校の時にやっていたのか。いろいろ思い出して懐かしかった。
そして、ゲームのよくないところ。時間を忘れるということ。気づけば朝から日が暮れるまでやっていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!ダイジョーブ博士失敗したぁぁぁぁ!夢の100マイルがぁぁぁ!」
「何かと思ったら、何してんのよ」
「ううぅぅぅぅ。う?アカネ。おかえり」
ああ、夜だから帰ってきてたのか。気が付かなかった。くそ、せっかく神楽坂グループで最初から試合出てたのに。ジャイロボールとれたのに。くそ。博士め!何度やったら成功するんだ。何が失敗ハツキモノデースだよ。
「何やっているのかと思ったら、パワプロ?もしかして今日ずっと?」
「うん。探したら出てきてさ」
「見せてよ、え!?作ったの全部投手とか。あんまり能力よくないし」
「そんなことないだろう。これとかこれとか」
「ううん。ダメね。そもそも全部速球派にしようと見え見えよ。変化球投手も作らなきゃ」
「これは?変化球3つだし、総変化量11あるし」
「カットボールにSFF、ハイシュートってやっぱり速球投手じゃん。しかも143キロって絶対失敗しているし」
アカネがこれほどまで知っているとは思わなかったが、まさか、俺よりこだわりが強いとは。
それから、俺からコントローラーを取り上げてアカネがプレイする。
「まぁ、ストーリーは神楽坂グループ一択ね。働かなくて済むし。他のはアルバイトとかでお金貯めないと練習機材がいいのにならないのがつらいからね。練習も少なくなるし。はてさて、初期能力値はっと。……ふぁ!?」
「な!!」
138キロ、コントロールDスタミナE変化球フォーク2スライダー1センス○
「「天才キタ―――――!」」
「おいおいおいおい、今日初だぞ。かなり来てるぞこれ。大事にな。慎重に行けよアカネ」
「うるさいわね。わかっているわよ。任せなさい、化け物作って見せるわ」
アカネはうきうきしている。わかる。わかるよその気持ち。本当は俺がプレイしたい。でもそれは禁忌だ。せっかく出した天才型を他の人がプレイするなんて絶対の禁忌だもんな。
そこからあれやこれや議論をかわしながら順調に進んだ。
一年目、昇格試験で結果を残してしっかり公式戦出場。二年目、レギュラーで結果を残し、初めの大会でも準優勝。秘書さんも彼女にできた。能力もかなり良くなっていた。
そして最後の大会全国出場を決めた時の能力は申し分なかった。
158キロ、コントロールBスタミナA変化球スライダー4フォーク3チェンジアップ3ノビ4キレ4緩急○その他諸々……
すげぇことになりそう。
「順調だね」
「うん。完璧に近いわ。まだ経験値もあるし、試合での結果でも上がる。彼女の好感度も高いからプレゼントも期待できるわ」
「よし、あとは優勝狙うだけだな。ほら、練習選ぼうぜ」
「うん。怪我もなし。大丈夫そうね」
「次がラストの週だな。あれ、イベントが」
「これ、初めて見た。何かしら」
「!!!これは!!!」
「「ゲドー君」」
「まさか!ここで」
「来たわ。来てしまったわ」
「改造手術だぁ!」
そう、俺が一人でプレイしていた時にさんざん失敗したあの忌まわしき手術。成功すれば全能力が軒並み上がるが、失敗すればダウンする。一か八かの賭けである。
正直俺はもうやりたくない。ここまで失敗が続けばやりたくない。それに全国大会ラストを前にして失敗なんて……もう十分な能力じゃないか。
アカネは迷わなかった。
一片の躊躇もなくアカネの選んだ選択肢は、YESだった。
「おい、ここまで来て失敗なんてしたら」
「大丈夫よ。絶対ね。私を信じなさい」
信じるも何もアカネはすでに進めてしまっているのだが。しかし成功すれば本当の化け物になる。俺は祈るだけだ。
アカネの背後、正座してその結果を待った。その結果は……。
実験ニ失敗ハツキモノデース
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
アカネは勢いそのままコンセントを抜いていた。
「さ、ご飯にしましょ」
その笑顔が怖い。優しい顔が怖いよ。
アカネは台所へ向かい、そのまま料理を始める。俺は……プレステを片付ける。そういえば、ずっと飯食ってなかった。かなり腹減っている。
「ハヤトー。野菜炒めでいいー?
「おー。なんでも、ダイジョーブっ!」
「……大丈夫なんて言わないでね?」
キャベツが飛んできた。丸ごと飛んできた。アカネの中ではなかったことにしたいのか。
今日は一日。なにもしなかった。そうだろうきっとそうだろう。
俺は持っていたものを押し入れにぶち込み、アカネの手伝いに行った。
次回更新は明日19:00デース。




