2-5 4月1日
4月1日
これは4月1日の出来事である。
その日の夜。俺とアカネは食後にあったかいお茶を入れてゆっくりしていた。
俺はハヤトといいます。新婚生活半年ってところかな。
「ねぇ、ハヤト。実はちょっと話があるんだよね」
いつも少しおちゃらけているアカネがテーブルの前に背筋をしっかり伸ばして座っていた。
トイレから戻った俺にいきなり言うもんだから驚いた。そのまま座ってというのだから、恐る恐るにその正面に座る。
湯呑が空になっていたからテーブルに置いてある急須から継ぎ足す。少し冷めているのかな。それを待って、アカネは伏せた目をあげて話し始めた。
「結婚してから結構立ったね」
「……う、うん」
言葉を切りながら話すので、相槌を入れながら聞くことになりそう。
全然、お茶に手を出してないみたいだな。
「すごく楽しいし、落ち着いてきてるから、うん。幸せだよ」
「俺もそうだな」
「もっと、幸せになりたい?」
「……」
ん?
あー、お茶が足りねー。足りねーよー。
「でき、ちゃったみたい……」
おい、地震速報まだか。こんなに揺れてんだぞ。まだかよおい。俺だけか……。
「本当なのか……?」
アカネの顔を見ようとすると、見えないくらいにうつむいていた。それで黙ったままである。
「……ちょっと、外出てくるな」
「え?あ、ちょ……」
アカネと今いたら、変な誤解をされかねなかった。まずは自分の気持ちをしっかり整理するべきだろう。アカネにつかまる前に、急いで家を出た。
この町は夜遅くまで営業しているお店は少ない。そりゃコンビニとか行けばあるけど、そんなところ行く気になれない。一人がよかったから、向かった場所は公園。桜のない公園だから夜桜を見に来ている人もいなくても、本当に誰もいなかった。
「できちゃっただと?それはつまり、子供がってことだよね?」
俺は幸せだ。そう思うに決まっている。でもね、大人はそう簡単に喜んじゃいけないってことも知っている。特に今は家計のことを考えてきたときだ。
こんな時に金の勘定なんかしてるんじゃねーって思うことももちろんある。
子供って、赤ちゃんってお金が必要なんだ。物をそろえることや予防接種を受けさせたり、予想外の病気とかもあるだろう。
子供が欲しくてしていたはずなのに、いざその時となると。俺はダメなやつだなぁ。
公園のベンチは冷たかった。それが俺を冷静に考えさせたのだろうか。
冷静さ=金の計算って考えるあたり、がダメなのかなぁ。
「ほんと俺はダメなやつだなぁ」
「何でハヤトはいつも一人で抱え込むかな!」
「アカネ……」
足元にはなーこがいた。そういえば、アカネはこの公園を知らない。俺の仕事場の近くだからな。なーこにいつか説教されたっけ。
「……そ、だから」
「はい?」
「嘘だから!!できたって言ったの嘘だからぁ!!」
「……!まさか、お前っ!」
「だってエイプリルフールだったからぁあぁ!」
でたぁぁぁぁ。やりやがったぁ。しかも妙にリアルなの選んだあたりがアカネの悪いところだわぁ。そういや、からかうときの癖出てたわ。すらすら言葉が出るから、飲み物の飲まないんだよな、アカネは。
俺今どんな顔しているだろう。ちなみにアカネは半泣きしている。なーこは……いつも通りか。俺は、俺は多分笑っているんだろうな。安心して。
「ハヤトごめんね。行き過ぎた嘘だったもんね。ごめんなさい。だからそんな悲しそうな顔をしないでほしい」
「え、悲しそう?」
俺が?
「うん。たぶんだけど、最初に話したときすごくうれしそうな顔してたから、赤ちゃんできてうれしかったのかなって」
それからアカネは自分の考えを続ける。
初めは面白かったんだけど、俺が出ていっていけないことしちゃったと気づいて。怒られるの覚悟でなーこと一緒に探しに来たんだ。
そうか、俺はうれしそうにしていたんだ。それを聞いてなんだか俺自身うれしいよ。
「アカネ。とりあえず謝れ」
「うん。ごめんなさい」
「はい。許した」
「え、いいの?自分で言うのもあれだけど、結構ひどいことを……」
「いい。それにこの際だからはっきり言っておく。アカネは俺たちの子供は欲しいか?」
「もちろん!そんなの聞くまでもないよ」
「ならよかった。今はお金がないんだ。だから作れない」
「うん。ちゃんと避妊しているからそれはわかってた」
「でも俺だってできるなら欲しい。今すぐだってほしい!だからきめよう。ここで」
「何?何を決めるの?」
「もう少しだけ我慢してほしい。俺、一生懸命働くから。お金貯めて準備ができたらその時は……。
俺の子供を、生んでくれますか」
4月1日。エイプリルフール。
アカネのために馬鹿になる決意をした俺がいた。
馬鹿みたいに前向きで、ひたむきに生きようと思う。二人の将来のために。
これが俺の、四月馬鹿の日だった。
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明日19:00




