1-3愛key
ハヤトくんのチキンかつ、ビビりな面が出てきます。
決しておっちょこちょいというわけではないです。たぶん…。
愛key
今日はいい天気で、ちょうど用事もあるから駅まで歩くことにした。
アカネも今日は来ないからゆっくりできるだろう。こんな日はなかなかないものだ。
部屋を出てから十分。駅までの中間地点には商店街的なものがある。がやがやしている、それなりに活気があるところだ。アーケードのようになっていて太陽光が遮断される。
タイル張りの道を歩いて、意気揚々と出てきたから少し汗ばんできた。もう五月か、なかなか日差しも強い。そういえば今日は祝日。人通り多い気がした。
薄着にしたつもりだが、それでもまだ暑く感じるのはこの人の多さも起因しているのかも。少し落ち着くためにジュースでも買おうかな。
ベンチ的なものは比較的多い気がする。もちろん、自動販売機も。財布から小銭を出して、冷たい缶コーヒーを。ベンチに座ると、向かい側ではバルーンアートをやっていた。
器用に作るもんだな。
子供たちがしきりに出来上がったものを取り合っている。アニメのキャラクターとかいろいろなものを。
あれ。
あれは面白いな。鍵?一昔の錠前に使う鍵を大きくしたものだ。ああいうのも作れるんだな。
「あれ…、鍵かけたっけ」
ん?
とりあえずコーヒーを置くか。とりあえず頭を抱えてみるか。とりあえず、とりあえず。
あれぇぇぇ!?かけたっけ?
なぜ人とはこれほどまでに自身の記憶を疑うのだろうか。まさか、たった十分前の出来事を忘れてしまうほど哀れな記憶ではあるまい。ほら、ハヤトよ。ゆっくり思い出してごらん?
「やっべぇ。まじ思い出せねぇ…」
家の鍵が開いているんじゃないかと不安でたまらない。
鍵は持っている。ただかけたかどうかが問題なのだ。
いいや、この際問題はかけたかどうかではない。家に帰るかどうかだ!幸いといえるかわからないが、目的地までのちょうど中間地点。幸い…行くも帰るも地獄だな。
今日はアカネも来ないといっていたし、どうにか自分でなんとかしなければならないか。
ここで考えている間も時間はどんどん過ぎていく。早く、進むか戻るか決めなければ。
鍵をかけている確率を五分五分とみる。としても進めば目的を終えるまで三十分はかかる予想はつく。今から走って帰れば五分で戻れるかもしれない。
俺が泥棒に入ったとして、…いやどれだけ時間があるかは関係ないな。金目を見つけてすぐに出るだけだ。要は俺の気持ちの問題か。開けたままでも耐えられる勇者か、自分を疑い帰ってしまうチキンか。
ふっ。そんなのは決まっている
「おれはいつだってチキンだった」
だから帰る!全力で帰る。早く鍵を確かめなければ辛抱ならん!
空いたコーヒーをごみ箱に投げ捨て、上着をはためかせながら歩き出す。
六分後
鍵が、開いている。
やはり俺が正解だったか。勇者はバカと紙一重なんだよ。一応中を確認してみるか。
「おい、なんだこれは」
「おう、ハヤト。早かったね」
「なんで、アカネがいるんだよ!」
「ほれ、合鍵」
のんきにアイスを食べていたのは、泥棒ではなくアカネだった。合鍵を使って入ったのか。
走ってきたからめっちゃ暑い。
「俺の分は無いの?」
「ないねぇ、だって私が買ってきたもん」
「気が利かないな」
「仕方無いじゃん。こんなに早いと思ってなかったし」
「そういえば、アカネって今日は来ないって言ってなかったか?」
「ちょっと時間が開いたからね。寄ってきたんだよ。ハヤトがいない時間を見計らって」
「わざわざなんだよそれ。アカネがいたんじゃ、取り越し苦労だったな」
「なになに?なんかあったの?」
俺も疲れたので、ゆっくり座る。その時いっしょにいきさつを話した。もう一度言うがちゃんと鍵はかかっていた。
アイスはないので冷蔵庫からお茶を一杯。
「なぁ、アカネ。やっぱりそれ一口くれないか?」
「だめ」
「ケチ」
「自分で買ってくれば?」
「…そうするわ」
「それと、言ってたじゃない?行くとこがあるって」
「…行ってくるわ」
「何?いったい何しに行ってきて帰ってきたの?」
「…なんだろうね」
なんかめっちゃ悲しくなってきた。やっぱり俺はチキンなんだろう。
もう一度家を出るとき、今度はしっかりアカネに戸締りを頼んで出ていった。