2-3ただいま
ただいま
「たっだいまー。帰ってきたよー」
「アカネおかえりなさい。ちょうどよかったわ、お父さんにも挨拶してきなさい」
「うん。またあとでね、お母さん」
久しぶりに実家に帰ってきた。今暮らしているところからは駅二つ離れたところなんだけど、意外と帰ろうと思えるタイミングが見つけられなかった。
私の名前はアカネといいます。最近顔見せられなかったから、ちょっと親不孝なのかなぁ……なんてね。
今日はなかなかいい天気で出かけるときに干した洗濯物もすぐ乾きそうだ。あ、あとでお母さんの洗濯物も入れてあげよう。大変だもんね。
私の実家は洋風一戸建て。ハヤトのあの家にはかなわないけど、立派な家だと思う。お父さんが頑張ったんだよね。それにしてもハヤトの実家は現実離れしてるよ。また遊びに来てって言われてるけど、車じゃないといけないしなぁ。どうしよう。
いろいろ考えながら、部屋々を回っていると、一回の日当りのいい部屋にお父さんを見つけた。
「お父さん、帰ったよ。ただいま」
「ああ、アカネ。おかえり」
お父さんはウッドチェアに座ったまま私に優しく微笑んでくれる。前まではなかった丸くなったやわらかい雰囲気がある。あの事故で変わったんだ。体が今までより細くなっている。前のようなガチムチって感じじゃないのだ。
足を悪くしている。
お母さんを運ぶ時の事故で病気のお母さん以上に心配しちゃった。
意識はすぐ戻って大丈夫そうだったんだけど、足の、膝がよくなかったらしくお父さんは、警察を辞めた。定年まで現場で働き続けてやるって言ってたのが嘘のようだ。嘘になっちゃったんだ。
お金は退職金とこれまで貯めてきたので全く問題ないって。ちょっと早い定年を楽しむんだってその時お父さんは笑っていたけど、私から見ても絶対警察続けたかったんだろうなってわかる。
本当のことを言うと、杖をつくお父さんなんて見たくなかった。
ま、生きてるだけで丸儲けっていうしね。前向きにポジティブに生きましょう。
「平日だから、ハヤトくんは仕事か。家の方は大丈夫なのか?」
「うん。来る前に全部やっているからね。それに家にはなーこもいるから心配ないよ」
「お前らの猫への信頼はいったい何なんだ……」
「何物だろうね」
「……」
「……」
うん。大丈夫そうだ。私が何か気に病むことなんて何もないみたい。
「じゃ、私はお母さんの手伝いに行ってくるから。あ、これお土産。この間お花見に行ったときに買った奴だから、食べてね」
ちょっと小さな返事が聞こえたところで、部屋を出て、二階のベランダに向かった。この時間きっとお母さんは洗濯物を取り込んでいるだろう。
お父さんの部屋を出てすぐ階段がある。薄茶色の階段を上がってすぐに私がこの間まで過ごしていた部屋がある。荷物はあらかた持って行ったけど、残したものもあって、例えば匂いとか……そんなわけないのに、何か懐かしくて落ち着くにおいが残っているんだよね。他にもアルバムとか机とかいろいろ残っていて、お母さんがまめに掃除してくれているんだろうな。
ベランダに出てみると、お母さんがゆっくりとした動作で取り込んでいた。
「お母さん、手伝うよ」
微笑んでありがとう、大丈夫よっていうけど、無理しているんだろうな。もともと体は弱いんだから、お父さんのリハビリしている間は絶対無理している。お父さんが日常生活ができるくらいに回復するのはまだ先だって聞いている。
できる限り私も手伝いに戻ってきたいと思っている。
というわけで一気に手伝いまーす。
「お母さん任せて!まとめて行っちゃうよ」
「ふふ、ありがと。でもちょっと大雑把すぎるわよ?ハヤトくんに嫌われないの?」
「う!ちょっとは気にしろって言われている」
お母さんと、ハヤトは似たところがあるみたい。細かいのが好きなところとか?玄関の靴をそろえろって言うハヤトは、お父さんを叱るお母さんに似てるかも。
考えながらも手は動かしていたから、洗濯物の取り込みはもう終わり―。これなら家のも乾いてそうだね。
あー、そういえば風が強いんだっけ。春一番とか言うやつか。冷蔵庫の中もないなぁ。食材買って帰らないと。なーこもごはんどうしたのかな。
ダメっ!今はお母さんのお手伝いに集中しなくちゃ。
「アカネ。もう帰りなさい。家のほうが気になるんでしょ?それに、なーこちゃんのごはんあげなきゃ」
やっぱりお母さんなんだよね。洗濯物をかごに抱えて背を向けていてもお母さんだからわかっちゃうんだろうなぁ。
「だーいじょぶよっ!取り込みはアカネがやってくれたし、もう今日は大仕事ないからね。それにお父さんも実は手伝ってくれるの。あんな体してるくせにねぇ。優しいんだから……。だから、大丈夫。もう行きなさい」
両手でバンバン背中を叩いてくる。ぶっちゃけ前よりたくましくなってない?
そのまま家の中までもって入って、他にやることはないか聞いたけど、もう帰りなさいの一点張りで……。
お昼も未だなのに帰らされちゃった。まったく、せっかく心配していってあげたのに。
電車に揺られながら、ちょーっと考え事。
絶対無理してるでしょ。安心させてあげたいな。
電車の景色は私が意識する前に通り過ぎる。何を見ても頭の中まで入ってきていないんだろうな。
そうこうしているうちに家についてしまった。そしてドアに手をかける。あっ、カギ開けなくちゃ。
「あれ?」
カギ開ける前にドア空いちゃった。鍵かけて出かけなかったの?私。中に誰かいるの?
「は、ハヤト!?何でいるの?」
「おう、おかえりアカネ。どこ行ってたんだ」
「お父さんと、お母さんのところ。それより仕事はどうしたの?」
「今外回りの最中でさ、昼御飯だけ食べに帰ってきた。近くだったからね。後うるさいのをまくためにな……。
それより、様子はどうだったんだ。アカネの顔見る限りお義父さん悪かったのか?それともまたお義母さんが……」
「それは大丈夫なんだけど、大丈夫そうなのが逆に不安になってね。あ、お昼まだだったんだよね、用意するから一緒に食べよう」
「ありがとう、やっぱりお義母さん無理してんだろうな。お義父さんもつらいだろう。あ、なーこの分も用意してくれ」
「簡単なものしか準備できなかったよ。一応帰りにスーパー寄っててよかった。できたよ。いただきます」
「いただきます」
「……」
「……」
なんか、ハヤトは考えているのかな。
テレビもつけてないから部屋の中はすごい静かだ。あ、洗濯物入れなきゃ。後でやろう。
「アカネ」
「ひゃい。……はい。何?」
「俺、午後から半休とるわ。それで俺が帰ってきたらアカネの実家に行こう。今日は向こうで泊まって安心させてあげようぜ」
「ふへえええ!ほんとに言ってるの!?それはハヤトに申し訳ないよ。私の家のことなのに」
「もう、俺のお義父さんとお義母さんなんだよ。俺だって心配なんだ。それにさ、俺が行ったらきっとお義父さんも元気になるって。ぶん殴ってやるってさ」
そういってハヤトは自分の頬に拳を当てて見せた。
ハヤトって人間はすごいなぁ。
「よっし、ごちそうさま。じゃあ、いったん会社戻って半休申請してくるわ。その間に準備してて」
「うん。私もやることあるからここで待ってる。あ、なーこも連れていきたいから籠用意しなきゃね」
「んじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「ただいま」
「あれ?アカネまた来たの?それに、ハヤトくんも」
「どうもです」
「お前、俺の前に顔出すとはいい度胸だな」
「お義父さんめっちゃ元気そうですね。殴るのは勘弁です」
「お父さん、今日はハヤトも心配してくれたんだから。手を出したらダメだよ?」
「ふん、まぁ、あがれ。……おかえり」
「アカネ。ハヤトくん。おかえりなさい」
「「ただいま」」
「やっぱ一発だけ殴っていいか?」
「お父さん、ダメ!!」
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