1-25ハヤトくんとアカネさん
ハヤトくんとアカネさん
もう九月になる。
式の予定は、来月末だ。
ふふふ、これまでアカネになんだかんだ、言われてきたが、しっかり準備してたんだ、すごくね?
招待状も無事まとめられて、あとは発送するのみ。披露宴会場の話し合いもちゃんとできた。
アカネと二人で、一緒にやった。
思えば、こういう式の準備が初めての共同作業っていえるんじゃないのかな?なかなか苦戦したし、きっと結婚式には及ばないだろうけど、すごい思い出になった。
そういえば、親戚に挨拶へ回った時に、籍はいつ入れるのと聞かれた。
今はまだ入れていない。いつがいいのだろう、でも大丈夫、届はもうもらっているから、いつでも大丈夫。一生の記念になる日だ。できれば思い出に残る結婚記念日として残したい。
もう一つ聞かれた。
こどもは?と。
うん。俺は、欲しいと思っている。アカネもそういっていた。そういうことを考えると、俺はもう俺一人の自由にできる人生じゃないと思えた。アカネを大切に、子供ができたら守らなきゃ。
子供の話をして、家族というものを考えることになったんだ。
大人ってこういうものなのかな。
そうそう、新生活はいまのまま、俺の部屋で暮らすことになる。あの時、アカネのお父さんと話をしてからアカネは俺の家で暮らしているが、結婚してもそのまま一緒に今の部屋に暮らすということだ。若干手狭なのはご愛嬌。でもいづれ、いいところへ移ろうと思う。ま、当然か。
今、俺たちは何をしているのかというと、今度式を挙げる式場に来ている。
教会はなかなか広くてね、ここしばらくで大人になったと思っていた俺に、まだ若輩者だといっている様だった。それでも、優しく包み込む雰囲気が漂う。
「準備ができましたので、お入りください」
アカネとは別室、俺はやはりここも白を基調とした部屋で窓際の椅子に腰かけていた。
式場の方が扉を開けて、俺を呼ぶのでそちらへ向かう。
「ねぇ、ハヤト。きれい…かな」
扉の両脇、お辞儀をする女性係員には目もくれない。
すぐに目に飛び込む圧倒的光景。
顔を赤くし、柄にもない照れ方をして、それが一層生えるような白の、純白の衣装のアカネがこちらに振り向く。
きっとそのウエディングドレスを世界一きれいに着こなせるのはアカネだろう。
「うん、もちろんきれいだ」
「ハヤトも、うん。すごくかっこいい」
俺もタキシードで身を包み、アカネと互いを見つめあう形になった。
「お二人とも、大変お似合いでございます」
少しお年を召した女性係員が言う。
「本日お召しになられたものの中で一番よく似合っていらっしゃいます」
若い女性係員も続いていう。
アカネと二人で、大鏡の前に並ぶ。自分で言うのは恥ずかしいが、絵になっていると思う。
今日衣装合わせした中でも、一番見惚れてしまった。
教会に来たのは、式の時の衣装を決めるためだ。いわゆる衣装合わせをしに来ていた。
本番でも着るはずなのに、今は合わせているだけなのに、それでも緊張してしまうのは、それだけこの衣装が格式あるということなのだろう。
「じゃあ、あの、私は当日これをお願いします」
「僕も、これでお願いします」
かしこまりましたと、係員の一人がいい、退出する。
俺は唇をきゅっと噛んで、胸の鼓動を鎮めようとしていた。
「あの、写真。写真を撮ってもらえたりできませんか?」
アカネは、扉の前にいる残った若い方の係員に声をかける。それを聞いて、係員は少し大きな写真を笑顔で取り出してくれる。直ぐに現像できる奴だ。
それをアカネが受け取り、当日、きっともっと高鳴る鼓動があることを想像して、俺たちは教会を出た。
「たっだいまー。ハヤト、材料買ってきたよー」
「はいよー。それじゃ、もうぶっこんじゃってて」
「あらあら、皮のままでいいのかい?」
「そんなわけないだろう!ちゃんとやってからってこと」
「はいはい、わかってますよ」
俺は風呂場から声を張り上げる。鍋にはカレーが入っているから、足りない具材を入れたら大丈夫なはず。俺はその間に掃除だ。
出来上がったカレーは、おいしく仕上がっていた。アカネのカレーは辛口が苦手な俺に合わせてまろやかにしてくれている。料理もずいぶんうまくなった。
「ハヤト、この写真見て」
「今日とったやつか。こう見ると、もう少し俺の印象よくならないかな。髪切るか」
夕食後、片づけたテーブルの上で写真を見返す。
アカネはペンを出して、書き込む。
「…、あ!ミスった」
「おおう、しかも俺の名前の方かよ。…こうすればいいんじゃない?」
「なるほどね!ローマ字か。それじゃこっちも。あ!こうしよう」
「いやぁ、まだ早いんじゃないか?うれしいけど」
「良いじゃん良いじゃん」
アカネはマイペースに書き込んでいく。
アカネの様子を横で見ている。とても楽しそうにしていた。
きっと、きっとだろう。
これからも変わらない生活が楽しく続くんだろう。それに、俺たちは結婚式前夜でも同じことをしているはずだ。のび太の様に逃げたりはしない!たぶん…。
アカネのお父さんにも言われた。幸せにしなければならない。それは義務であるが、アカネのためにではない。俺のためだ。俺が幸せになるためにアカネを幸せにする。そして、いつかできる子供を幸せにする。
「よっし、書けたよハヤト。みてみて!」
「うん。なるほどね。いろいろ書いていると思ったらそれもやってたのか」
「えへへ、まだかえてなかったでしょ」
『
Mr.HAYATO
Mrs.AKANE
』
「表札は盲点だったわぁ」
「でしょ?これで、ハヤトとアカネだね」
「いやしかし、Mrsは早いって、さっきもそうだけど」
「良いじゃん良いじゃん」
アカネは、少しずつ寄ってきて俺の肩に頭を置く。
「ねぇハヤト、幸せにしてくれるんだよね」
「もちろん」
「じゃあ、ハヤトは私が幸せにしてあげる」
「うん」
「一緒に幸せになろうね」
今年の夏は、そもそも今年は大きな一年になった。これからも大きく記憶に残る。
これからの俺たちはどんな顔をするのだろう。絶対見ていられない顔をしているだろう。見せられないだな。そんな顔は二人だけのものでいいだろう。そうさせてくれ。
これからの生活、準備、結婚式、それから…。俺はアカネとゆっくり楽しもう。
いつかまた話す時が来たら、いい思い出としていっぱい話そう。その時、子供がいたら、お父さんとお母さんがどんなふうに結婚したか話してあげよう。
その時が楽しみだ。いっぱい話せることが楽しみだ。じゃあ、その時、また会う日まで。
「うーん?ねぇ、ハヤト。どうしたの」
「ううん何でもない。ちょっと考えていただけ」
「また会う日まで、って。誰に言っているだろうな」
俺は小さく声に出してみたりした。
きっとまた会う日というのは、小さな声が生まれた時だろう。
俺とアカネの。ハヤトとアカネの小さな小さな声が。
たった今芽吹いたこの声を。
いったんおわりです。
良かったですね。誰も不幸になってないです…本当によかったですね。
でも大変なのはここからですよ。人生まだまで始まったばかりですから。
頑張ってくださいハヤトくんとアカネさん。




