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1-24始まり3


  始まり3



 山の中にあるその家は、森の中ではなかった。


 私の勝手なイメージで、山といえば、緑で辺りがいっぱいというものだった。初めにハヤトが山のほうに両親が住んでいるといったときは、小さな小屋のようなものか、田舎の懐かしい風が吹く家を想像した。


 でも、そのどちらも違って、いわゆる別荘といった感じの家だった。


 道中は、車こそ通れない幅だが、木製の足場がきれいに整地された斜面に固定され、よく手入れされている木々が並ぶ。プロの仕事が一目でわかる。


 田舎道なんかではない。立地は他に人家などないような場所だが、つい最近も手入れされた木々や、歩きやすく、しかし風景を乱さないように舗装された道は、高級ゴルフ場のそれをイメージした。


 ゴルフなんか行ったことないけどね。


 到着した時の私の驚きはもう、一周回って、何も驚かなかった。


 いや、まぁびっくりしたけどね。


 下の駐車場から見えていたロッジはほんの一部。木をメインにした風景に溶け込む、言葉を知らない私はなんて説明したらいいのかわからないが、何か高そうな家だった。


「ほんと、私はボキャブラリーがないなぁ」

「え、なに?」


 私の声はあんまりにも小さかったようだ。それでも、聞こえるように言ったわけではないけどね。


 ここまできれいな道とはいえ、結構急な道で長かったものだから体力もそれなりに使った。


 荷物なんかはハヤトが持ってくれたし、手すりをつかんで上ってこれたし、暑いけど木陰だったから涼しいちゃ涼しい。それでも。


「疲れたよ」


 疲れたんだ。



 門をくぐったところで、庭を前にしていた。そこから石段の道を通った先に玄関が見える。きれいなところ、私は息が上がって、はぁはぁ言っていた。ハヤトが鞄からペットボトルのお茶を出してくれる。


「いやぁ、今日もあついわぁ」

「だね」


 ハヤトはそれ以上は言わない。暑い暑いばかりじゃ暑いだけだもんね。


 それともあれか?こないだみたいに緊張してんのか?おお?かわいいやつめ。


 背の高いヒマワリがぴんと上を向いている。それを私は見上げる。ハヤトはその横で私を見ている。


 ここまで来たけど、ここでゆっくりしていたけど、もう向かおうか。


 ハヤトのご両親のところへ。



 そう、結婚のご挨拶に!



 めっちゃ緊張する。



 だがしかし!報告するのはハヤトだ。私じゃない。そんなわけで、私はハヤトを見る。ハヤトもそんな視線に気づく。そして私は、笑顔を送ってあげた。


「よーし行こうか」

「ああ、ちょっと無視はやめてよ」


 ハヤトはそのまま、道を進み、玄関をあける。私は自分の荷物をもってすぐ後を追い、開けていく様子をすこし離れてみていた。


「ただいま、親父。おふくろ」


 ハヤトの後ろから、玄関の内側の様子を伺った。誰もいない。ただ、帰ってきた時に言うみたいに、ただいまといったみたいだ。


 長い間、一人暮らしなんかしていると、帰ってきた時のただいまといえなくなるというが、そういうことはないようだ。



 ハヤトが私のほうを向いて、中へ行くように目で言われた。



 まだこの家の主に挨拶をしていないのに、勝手に上がらせてもらうのは抵抗があるが、ハヤトに従う。荷物をあげて、とりあえず玄関わきに置いておく。それで、身軽になったところで、中へと歩いていく。ハヤトの後ろについて。


 外観は洋式風だったが、中では、縁側のようなところを歩き、和式も感じた。ハヤトはその廊下を知ったふうに進み、さっきの庭が見える。ちょうど、玄関とは反対側にほとんどがガラス張りの部屋がある。ハヤトが扉を開けて、中へ。ガラス張りの外から見えた中の様子では一人、きっとそれは…。


「ただいま、おふくろ。帰ってきたよ」

「え?ええ!?ハヤト!おかえり~。どうしましょう、どうしましょう」


 お母様は、ハヤトが帰ってきたことにとても驚いている。事前に連絡していなかったのかな?


 大きなキャンパス。部屋のあちこちに絵画が飾られ、それの道具も乱雑に置かれている。


「おふくろ、こっちを見て。こちら、アカネ」

「は、初めまして。アカネといいます」


 部屋の様子を見ていたので、ハヤトの紹介に少しびっくりした。



 その紹介にお母様が私を見る。部屋に入った時の様子から、少しおっちょこちょいな雰囲気があったけど、私を見る目に迷いはなく、まっすぐ見つめられた。


「あなたが、アカネさんね。はじめっ!あぁーーーーー!!!」


 ハヤトが少し横によけてくれていたので、その間を通ってお母様は私に手を伸ばしてくれたが、やはり初めに想像した通り。床においていた、画材を蹴飛ばして、水洗をこぼしてしまった。


「母さん、落ち着いて!いつもいつも、そんなんだから」

「え、お母さん?さっきはおふくろって…」

「あ、…」


 ハヤトは両手をあげて、まいったなって感じのポーズをとる。いやいや、説明してよ。


「ハヤト、お父さんを呼んでリビングに先に行ってて。これ片づけたら行きますからね」

「ああ、うん。じゃ、アカネ行こうか」


「うん、で。何?」

「…、いやさ、アカネの前だからさ、ちょっと、カッコつけようとして…」

「それで、おふくろといっていたわけですか」


 かっこつけるなら最後までだよ?ハヤトくん。


 私たちはお母様を置いて、来た道を戻る。途中で上の階に上る階段を上がり、さっきのガラス張りとは違う、木製の密室のような部屋に来る。今度はハヤトがノックして、中から扉が開けられる。


「おお、ハヤト。おかえり。元気だったか?」

「ただいま、親父。大丈夫、健康そのものだよ。こちらは、アカネだ」

「そうか、君がアカネさんか。よろしくお願いするよ」


 お父様は部屋から出てきてハヤトと話をしていた。それから私に握手を求める。さっきのお母様とは対応が全然違って、もっと緊張した。


 そういえば、お母様も私を知っている風だったが、ハヤトが何か連絡していたのだろうか。それよりもきになるのは、親父と呼んでいること。今度はぎこちなさもなく、呼びなれている様子。こっちはいつもそうなのかな?


 握手した手は固く柔らかい。指先がとても固く、手のひらは柔らかい。ペンだこができていた。


 それがおわってから、二人は少しそのまま話す。そして、動き始めた。リビングに行くようだ。ハヤトとお父様が前を並んで歩き、後ろにつく。そこでハヤトがお父様とお母様のことを話してくれた。


「親父の仕事はな、作家なんだ。母さんは絵描き。なんだかんだ二人とも売れっ子らしいよ。子供の俺が言うのもあれだけど」

「ハヤト…、父さんだって母さんだって頑張っているんだ。そんな言い方は」

「わかっている。わかってるよ。ただ俺は二人みたいにそういう才能はないからわからないんだ」


 そういって、またハヤトは私に教えてくれた。離れて暮らしているので、こまめに連絡していたらしい。それで私のことも話してくれていたみたいだ。


 そうしているうちにリビングにつく。なんだろうこのソファはえらく大きいな。


 お母様はすでにそこにいて、氷を入れた麦茶を注いて待っていた。


 そこにお父様が座る。向かいに私とハヤトが座る。左手でハヤトと手をつなぐ、ご両親にも見えたかな。


 久しぶりに帰るハヤトの話を二人は微笑んで聞いていた。そしていずれ、私の話になる。夏前からいろいろなことを話し、七夕の事を話し、ついに、そのことを話した。



「二人に話があるんだ。大事な話。アカネの話なんだ。



 この夏、俺はアカネのご両親に会った。そこでは、どれだけアカネが愛されているのか、特別な人なのかを再確認できた。それまでも大事な人に思っていたけど、もっともっとそう思えたんだ。


 いつも、いつかはと考えてきたけど、ご両親の前にいるアカネを見ていると、どうにも今の俺じゃ、今の考えじゃ甘いのだと悟った。だって、形だけのことばかり考えてきていた。ご両親に本気で愛されているアカネを目の前で見ると、なんか、俺は、恥ずかしくて、悔しくて。でもそれが俺を本気にさせたというか。…。



 言い過ぎかもしれないけど、俺はご両親以上にアカネを愛したい」


 だから、とハヤトが言ったとき、さらにギュッとした。



「俺は、アカネと結婚する」



 暑い…。



 あつい…。



 顔が熱い。



「ハヤト、ほんとに?」



 お母様がゆっくり聞く。それにハヤトは深くうなづいて、大きな息を吐く。お父様は変わらず笑顔を見せたまま一言。


「ハヤト、おめでとう」


 そこから、お母様は何を叫びながらかわからないが、とにかく大声をあげて部屋から飛び出していった。


 その間私は真っ赤な顔が見られないようにうつむいていたが、ハヤトがそれをからかうように両手で顔をつかんで上げさせる。


 笑い。



 笑い声が出てくる。それは、私、ハヤト、お父様の順に発せられる。そして部屋から出ていったお母様が戻ってきて一層大きな笑い声が生まれる。


「ははははは!アカネさん。ご飯は食べていくんだよね。お父さん!赤飯。赤飯を炊きましょう」

「そうだな。ハヤト、どうせなら泊まっていきなさい。私とお母さんでお祝いさせてくれ」


 私たちをおいて、お父様とお母様は二人で盛り上がる。その勢いに圧倒される。そして気づけば、夕飯の席についていた。


「ハヤトとご飯を食べるのも久しぶりなのに、そのお嫁さんとも食べられるなんて、生きててよかったよ。本当に」

「親父、言い過ぎだって」

「うれしすぎるわよハヤト。何度でもこの家に帰ってきなさいね。孫も待ってるから」

「母さん、それは早すぎるって」


 そんな話をしながら、おいしいごはんをいただいた。お母様が赤飯を赤い絵の具で色付けしようとしたって話もあったけど、いくら抜けているお母様といってもそれないでしょう。


 夜も深まり、たくさんの話をしたところで、そんな時間も終わりになった。


「いろいろなことを聞かせてくれてありがとう。私たちはもう十分。二人ともゆっくり休んでね。もう行きましょうか。ねぇ、あなた」

「うん。今日は来てくれてありがとう、ハヤトも、アカネさんも。本当にありがとう」


 長い間リビングで話していて、二人はその言葉を残して行った。私はその言葉がとても耳に残り、感慨深いものを覚えた。


「よし、そろそろ行こうかアカネ」

「うん」



 ハヤトがまず席を立つ。私は少しおいて立つ。


「どうした?アカネ」

「うん。ちょっと待って」

「うん」


 一つ、二つ。深呼吸。



「よし、行こうか。ねぇ、あなた」



 ハヤトは驚く顔をする。私は慣れないことをしてまたまた赤くなった。


 私はちょっと、あこがれていた。お母様がお父様をあなたと呼ぶ姿に。十年、二十年とたってもあんな風に仲良くしていたいなと、思った。


どうなんでしょう。


両親へのあいさつのしかたとかどこかで習えるんですかね?たとえばゼクシィにのってたり?


私は縁が全くないので知りたいばかりの妄想です。

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