1-20僕から見る二人
八月
僕から見る二人
世間は狭いとはよく言ったものだ。
たまたま助けた人が、そのあと結婚相手の親だったりする。
温泉旅館で仲良くなった夫婦と、息子の結婚での顔合わせで会うなんてよくあることだ。
自分の目線で見てみると、「わぁなんて偶然だ」なんて思ってしまうが、少し離れてみると今まで何度ニアミスしているのかよくわかる。言ってしまえばそんな偶然いつもでしょ?っということかもしれない。
それでもなんでかわからない。
僕自身運命を思うことはあるが、それもそうなのかもしれない。
なるほど、人によって立場が違う。それで見えている景色が違うのか。
そもそも世間が狭いのは、交友関係を中心に世界を考えているからであって、知らない人とすれ違うのと、知人とでは違うことを思えば、わかるかな。
だからかな。こうして初めて足をのばすところで知った顔を見る。
人の顔をあまり覚えない僕でもあの人がだれかはわかる。
アカネさんにゃ。
おっと、油断油断。つい猫語がでた。そういえば、まだ僕の事を言ってなかったね。
僕はなーこ。白い毛並みの飼いねこにゃ。
「あーー!なーこ!こんなところでどうしたのぉ」
「んなーー!なー!(アカネさんにゃーー!気づいたにゃー!)」
僕はアカネさんが大好き。ハヤトくんも大好き。今だってこうして、ふにゃ~。のどを、はにゅぁ~。なでて、にゃ~。
「はぁ、なーこかわいいね。…かわいい、………」
「ふにゃー!(アカネさん、目が怖いにゃ!落ち着くにゃ!)」
「アカネさーん。レジ入ってくれるー」
「…、はっ、はーい。行きます」
ふう、いったにゃ。時々あーなるのは怖いものにゃ。にしてもアカネさんがバイトしているのは知っていたが、こんな処とは知らなかった。
普段僕がうろつく商店街とは、ずれた通りでお弁当屋さん。ハヤトくんも通らないところでバイトしているのは偶然かな?
店の正面にこうして座っていると、店内がよく見える。アカネが赤いエプロンつけてレジを打っていた。
「あー!!猫さんだぁ!ねー、ママ。猫さんだよぉ」
声がして耳がつい反応する。直ぐ後ろには手をつないだ親子がいた。小さな女の子が僕を指さしてお母さんを見上げている。
振り向いてニャーと泣けば、また女の子が笑った。アカネさんもあんな頃があったんだろうか。
それとは裏腹にお母さんは触らせないように手を引いている。汚いからという声も聞こえてきそうだ。さすがの僕も少し傷つくから。
そうしているうちに親子はいなくなる。そしてアカネさんのレジ打ちも終わって、お客さんが出てきた。
アカネさんが見える。こっちを見て笑ってくれる。尾っぽが反応する。うれしさを隠せないにゃ。
さて、そろそろ行くかな。あんまりご飯を扱うお店の前にいても迷惑だろうし、何よりアカネさんが怒られることになるのはいやだから。今、アカネさんが裏に行った間に行こうか。
実は今日、ハヤトくんの所にいこうと思っていたから、今からそっちに行くことにしている。結構離れているけど、僕は猫だ。直線で進めるのさ。
さぁ、ハヤトくんが見つかった。
公園のベンチで何しているんだこのバカたれが!
「な―!!!!」
「うおぉぉ!なーこ」
ベンチにもたれて、投げ出している左手にかみつく。
この日はもちろん平日だ。つまりはハヤトには仕事がある。なのにこれは何ごとだ!たまたま昨日この光景を見つけてしまって、まさか今日はちゃんとやっているだろうと思ったのに。思ったのに!
「いや、なーこ。これはな。営業の途中で少し休憩してな…」
「ふしゅうぅぅぅ…」
ベンチにたって、牙を見せる。もっかい噛むぞコラ!
ハヤトは居直って、まじめな顔を見せる。
「なーこ、猫のお前にこんなことを言ってもしかたないかもしれないけど。俺には、思うところがあるんだ」
「なー(聞こう)」
「今の仕事は、俺なりに現実を見て選んだ仕事だ。そのおかげでアカネとの時間が取れているのは間違いないと思う。でもこのままじゃいけないと思うんだ。最近はこうしてそのことを考えている。なーこ、お前も他人事じゃないぞ」
やけに真剣な話だ。まさか仕事を変えるとか。そうなると確かに生活の問題がある。
いまだに真剣な表情。
「俺は今、わざとこうしているんだ。こうしてサボっている風にしていれば、すぐには昇進しないだろ?」
ん?
「ほら、俺って結構優秀だからさ。仕事できるからすぐ上の話がきてね。嫌なんだよ。責任重くなるし、時間なくなるし。はぁ、まじやだ」
え、つまり仕事したくないからサボってるってことでしょう?
ハヤトくん、アウト~♪
ガブッ!!!
「いっっってぇぇぇーーーー!」
「なー!(仕事しろ!)」
「わかった!仕事する。働くよ俺!」
ハヤトくんが仕事に戻るのを見送る。働きたくないのは人間の本音だろうけど、働いてくれないと僕もアカネさんも困るんだ。
ハヤトくんが去った公園のベンチで僕は思う。
ハヤトのいいたいことはわかった。変な言い方しているけど、ハヤトくんはアカネさんのことを大事に思っていることだった。二人の時間を削りたくないというのは、理解できる。
だから今こうして送り出したのは間違いかもと思う、でも僕は猫だ。そんなことはわからない。
おっと、もうご飯の時間だ。家に帰ろうかな。アカネさんもバイトが終わって帰っているだろうし。猫は家に付くっているけど、僕の場合はハヤトくんとアカネさんについているんだ。もう二人なしじゃだめかもしれない。
今日は二人の意外な姿を見られたりしたけど、心の底はいつもと変わらなかった。アカネさんはハヤトくんを助けるために、バイトしているし。ハヤトくんはアカネさんのために時間を大切にしようとしている。
僕から見る二人はいつもそんな感じで、それを僕はにやにやして眺めているんだ。
猫だから、にゃーにゃーしながらの間違いだったかな。それじゃあ家に帰ろう。アカネさんが寂しくならないうちに。




