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1-18子供に

この話は8月に入ってからの話です。


  子供に



 今日はアカネとともに、休日町に繰り出していた。


 町といっても、いつも行っている方じゃなくて、少し人の少ない廃れた方。


 目的地は古本屋。電車に揺られながら、いっぱいの紙袋を膝に置き、閑散とした車内で到着を待つ。


 八月ももうすぐ。少し手狭になった部屋の整理をしようということになった。揺れる車内では紙袋の中身が落ちないように気を付けなければならない。


 一番上にはいつ買ったのかわからない新書がある。片手で何とか抑えるようにしている。


 隣ではいつの間にか寝息を立てているアカネが、俺の左手をつかんだままでいた。起こさないようにしてあげたい。ここ数日バタバタと忙しかったからな。


 アカネはいつもの白いワンピースを着ている。最近暑いからか、風通しのいい服ばかり好んでいるようだ。まぁ、当たり前か。


 俺はというと、七分丈のパンツとシャツの簡単な感じ。あんまり服装には無頓着なのかもしれない。


 そういえば休日だというのにこんなにも人が少ないのは少し気になる。車内には俺たち以外にはこの両に五、六人しかいないな。まぁ、暑くなくて歓迎すべきことだろう。


 まだしばらく電車に揺られ、そのうちアカネが目を覚ました。



 外の風景はようやく街並みが出てきて、緑に挟まれる川が反射しているのが目に入った。


「ん、ふわぁ…。ハヤト、着いた?」

「まだだよ、もう少しだからもう起きてな」



 まだ意識がはっきりしていない。



 腕に寄りかかって眠っていたから俺の左手はかなりしびれている。起きた後も頭を肩に置いたまま、もう一眠りしそうな感じだった。


 寝させてあげたい。でももう俺の腕が限界だった。


 無理矢理引き抜いて、その手でアカネの頭をなでる。いや、なでるという表現はおかしいか。髪をぐしゃぐしゃにしてやった。


「んあぁ、もう。起きてるから」


 ちゃんと座りなおして髪を直す。むくれた顔を見せるが、その頬には真っ赤な跡があったので、可愛いばかりだ。


 そのうち、電車は目的の場所に到着した。そこで俺たちは荷物を抱えて降りる。今日の目的の場は古本屋。そこでこの本たちを整理するのだ。


 ホームの日差しは強い。電車を降りた直ぐそこから、照り付けている。アカネは大きなストローハットをかぶり、後ろをついてくる。影になっている場所を選んで歩き、改札まで向かった。とにかく暑い。早く建物の中に入りたい。


「昔はここもよく来てたんだけどね」



 俺は街並みを眺めながらいう。錆びたポストや街灯を見ると、ここが廃れているのがよくわかる。


「ハヤトが昔住んでた近くなんだよね」

「そう、今じゃ思い出だけどね。あそこの古本屋に行くのも久しぶり。聞いた限りじゃ、今は息子さんが継いだらしいし」


 セミが鳴く。車も通らないここじゃ、セミの声がより一層大きく聞こえる。アスファルトの照り返しもひどいが、大きな街路樹らしきもののおかげで影が多くて助かった。


 そのまま緑生い茂るひび割れたアスファルトの道を進んで、ようやく目的のお店に到着する。


 汗が滴るというよりもとめどなく流れ落ちていく。アカネもそうだった。


 うれしいことに店主さんは俺のことを覚えていた。本当に久しぶりで連絡もしてなかったのにうれしい限りだ。それでお茶をもらい、アカネと二人中で一休みさせてもらう。



 店主は俺よりも年上、昔はお兄さんと慕っていたと思う。



 持ってきた古本の買取りをお願いしたら快く了解してくれた。ちなみに俺と店主さんが話している間、アカネはおとなしくお茶を飲んでいた。本当につかれていたのか、気を利かせてくれたのか。外のワゴンセールをしている横で、椅子に座り外を眺めていた。


 店主さんは紙袋ごともって奥へ行く。


「アカネ。ありがとう。気を利かせてくれたんだろう」

「なに?外眺めてただけだよ」


 にひひと笑った。俺たちはコップをカウンターに置き、店内の本棚に目を向ける。


 たくさん本がある。俺もアカネも「おお」としか言えていない。こんなに本を読まないので語彙力がないんだ。なんてね。


 ほとんどが知らない本。中には漫画本や雑誌もあるけど、辞書みたいな分厚い本がほとんど。ふと、俺はアカネの横にあるワゴンに目を向ける。そこには安売りになった本が雑多になっていた。


 うれしいことにそこには知っている本がたくさんあった。その中から特に思い出深い一冊を取り上げる。


「アカネ、これ見てみてろよ」

「これ、『あらしのよるに』だね」

「そう、『あらしのよるに』」



 昔よくと呼んでいた絵本。おおかみとひつじがお互いの姿を見ないまま友達になる話。そして、許されない友達と最後まで一緒に…。


 子供のころに、読んでいて子供心に何で周りの仲間たちは理解してあげないんだと思っていた。



 久しぶりに見て、そんなことを思い出す。



「私なら、最後のひつじのメイが言った言葉を絶対に言わない」

「『出会わなければよかった』か」

「そう、どんなことになったって、出会ったことは間違いじゃないんだって思いたい。だから、どんな結末になっても言いたくない」

「アカネも、読んでたんだね。これ」



 今内容を思い返すと感慨深い思いになる。


「ねぇ、ハヤト。これ買おうよ」


 同じことを考えていた俺はそのままうなづく。


「お待たせ、ハヤトくん。査定が終わったよ。お、その本、買うの?」


 奥からカウンターに戻った店主さんを待って絵本を差し出す。カウンターの前、やけににやける二人がいる。店主さんには俺たちが何を考えているのかわからないだろが、いや。俺にもわからない。ただ、笑顔になってしまうんだ。


 査定の額から本の代金を差し引いてもらい、古本を売った代金をもらう。数千円と大したことはないがもっといいものを得た。


 『あらしのよるに』


 いつか、子供ができたら読ませよう。俺とアカネはそう思って、二人の思いもあるこの絵本を買ったんだ。


 帰り道、電車から見える景色は赤みかかっている。


 二人で並び、絵本を開く。



「私がひつじのメイで、ハヤトがおおかみのガブよね」

「そうだね」

「でもハヤトはおおかみって感じじゃないよね。強くないし」

「アカネだってひつじって柄じゃないだろ。弱くないじゃん」


 一ページめくる。そのたびに俺たちはこうして言い合うことを楽しんでいた。


 いつか、三人、四人になったときに同じように言い合うことを、夢に描いて。


 きっとその時、こんな風に電車に乗ると、二人の間に挟むようにして座らして…。



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