1-17悪いのは誰?
いたずらをするときは用意周到に。計画を練って、ダメージの大きい方へと…
悪いのは誰?
少し前のことを話そうか。梅雨入り前かな。そもそも梅雨ってあったけ。なーこがきてから直ぐだったと思う。
ハヤトは、おっちょこちょいな面がある。落ち着きがないのか、天然なのか。
私ことアカネは今現在、仕事に行っているハヤトの部屋で、掃除をしている。
久しぶりに朝から晴れ晴れとした天気でこの機会だから一度に掃除しようと思った。
猫の毛も結構散らかっている。そこのところはなーこ自身に注意する。何をやっておるかと思うかもしれないが、これで合っているのだ。
私が言うと、なーこはしぶしぶクッションから抜け出て、自分の毛をなめとり始めた。
相変わらず天才な猫ね。
私はエプロンをつけたまま、引出しから掃除機を出す。布団はさっき干した。六月下旬のこの時期、もうこんなにしっかり干せる日はそうないかもしれない。もしかしたらこれから一か月ファブリーズで乗り切らないといけないかもしれないのだ。
私は、いつもの部屋着の上にエプロンをつけ、簡単に拭き掃除をした後だ。普段あまり掃除が行きわたっていないのか、ちょっとしたところに埃がたまっている。部屋の明かりをけして、窓を大きく開け放って、部屋全体の空気も変えていた。引出しから掃除機を引っ張り出すときは、奥のものが崩れないように慎重にやらなければならない。
うまく出して一息付く。さて、やっと掃除機掛けだ。
掃除機のコンセントをつなぎ、テーブルなど邪魔なものはどけて一気に掃除機をかける!
おっと、ハヤトに言われてたんだ。フローリングだから掃除機は優しくかけろって。まったく、ちょっと傷が入っただけで大げさなんだから。そんなに私はおおざっぱ?いいえ、ハヤトが細かいだけなんだよ。
「ねー、なーこ」
「なー」
なーこは自分の毛をなめとったあと、いつものクッションを持ち出して、ベランダで横になっていた。それで、相槌を打つ。
この怠けた感じ、ハヤトにそっくりだ。飼い主に似たのね。
がーっと掃除機をかけ終わったところで、大体十二時になっていた。そろそろお昼にしようかな。
かたづけるのは面倒なので、まだ掃除機は置きっぱなしだ。テーブルだけ元の位置に戻している。その後の、ペタペタと台所へ向かった。
まずは冷蔵庫を確認。すばらしい。野菜と卵、めんつゆぐらいしかない。今日もそうめんか…。
肩を落としたとき、奥のほうに容器が見えた。
“プリン”
「うわぁ、おいしそう…」
隠しているのか知らないが、冷蔵庫の前で立ったままではぎりぎり見えない位置に置いてある。しかしちょっと肩を落とすぐらいのしゃがみで、見えてしまった。ご丁寧に、パッケージが正面を向いて。
タイミングよく、そこで携帯にメールが届く。エプロンのポケットに入れていたのですぐに気が付いた。
『例底のプリン食えな』
え、何この地味な暗号文。
ハヤトからのメールだったが、その内容はおそらくこのいま見つけたプリンのことだろう。
この名探偵アカネにかかれば、わからないことはないのだ。ふふふ。
きっとこの暗号文は『冷蔵庫のプリン食え』だったのだろう。では遠慮なくいただきます。
私がそのプリンを冷蔵庫から出したとき、さっきまでベランダでくつろいでいたなーこがここまで来ていた。なんて勘の鋭い猫だ。これを狙ってなーなーないているのか。
冷蔵庫の前、プリンをもって猫と睨めっこ。私のおなかが減っている限り、これは渡さないよ。
しかしいくら待っても、プリンを狙って飛び掛かってくる様子はない。どうやらなーこの訴えたいことは違うようだ。
この名探偵アカネに判らないことはないって。もうね。分かっているよ。
「このプリンは食べちゃダメって言いたいんでしょ?」
わざわざ私にメールがあったなんて、ぞれがプリンを食べてもいいよなんて内容なわけがない。でもそれがわかっていて、あえて私はたべてみせよう。ハヤトが何か言ったら、「ごめんなさい。わからなかったわ」っていえばいいでしょう。
私は悪くない。こんなところにおいているハヤトが悪いんだ。いつもいつも不用心だなぁもう。私は悪くないからね。
私は、足でなーこを追いやり、立ったままスプーンをとっていただいた。
クリーミーだねぇ。腹ペコのおなかに染み渡るようだ。
そのあとはさすがにお昼がそれだけでは足りないので、そうめんを湯がくことにした。ゆであがるのを待つ間、ほかの具材も調理して、さらになーこのお昼も準備した。
最近なーこも太ったかな。減らしたほうがいいかもしれない。
鍋の前で、そんなことを考えながらもう数分待つ。エプロンを掃除の時から同じものをしたままだった。ここ最近、一週間近く同じことをしている気がする。
「そうめんも飽きたかも」
それそろいいかな。もう大丈夫そうだ。
ざるに取って簡単に水を通す。そこで氷を入れて、しっかり水を切っておこう。それで、リビングまでさっきの具と一緒に持っていく。
テレビをつけるとちょうどタモリさんが出てきたところだった。それじゃあいいただこうかな。
「おっと、めんつゆめんつゆ…」
夜になって、ハヤトが帰ってくる。
こうして、おかえりって言うのも慣れたものだ。初めは恥ずかしくってとてもできなかったんだよね。
いつも通り、そこから一緒にご飯を食べて、テレビを見て談笑して。ハヤトがあのことについて口を開く。
「ねぇ、アカネ。プリン食べた?」
来たな。
「ごめん、ハヤト…」
「ふふ、食べたんだね」
ハヤトの様子がおかしい!いつもみたいに怒るとか嘆くとかそんなそぶりが一切ないよ。
「ど、どうしたのよ。ハヤト、おかしいよ」
なーこがハヤトの膝の上からベランダに逃げていく。
「今日まで一週間、俺がただやられっぱなしでいるわけないだろう?初めは驚きあまりのショックに泣きかけたが、今ではアカネにその罰を与えられることができる」
まさか、私がハヤトの手に踊らされていたの!?バラエティー番組で芸人が笑い声をあげているのすらうっとおしい。私を笑わないでよ。
しかし、ハヤトのくっくっくと気持ち悪く笑っている。胡坐をかきながら私の顔を見て笑うのだ!
「お、教えて。私はいったいどんな罰を味わうの?」
「まぁ、そう焦らないで。まずはこれをプレゼントしよう」
そうしてハヤトが出してきたのは、大きな段ボールの箱。どうやら中身は、最新の体重計のようだった。
「さぁ、確かめて来いよ。自分のその眼で。納得のいくまで!」
う、嘘でしょう。まさか…そんな。
うろたえながら確かめずにはいられないこの心理。私は、錯綜する頭のまま、それをもって洗面所へ向かう。
そこで私は、現実という名の罰を目の当たりにした。
「さぁ、アカネ。どうだった?」
戻ってきた私の顔を見れば、結果は一目瞭然でしょう。もうげっそりしているでしょう。いや、げっそりなんかしていない。やっぱりふっくらしているんだ。
「ありました…」
「何が?」
「…お肉が」
「どのくらい?」
「!…手でつかめるくらい…です」
「数字で言ってよ」
ひどい人だ。ほんとにひどい。
わたしは未だにリビングの入り口で立ったままだった。ハヤトはまっすぐ私を見据えてそらさない。
「3キロ太ったよ!!」
ここ一週間と少し、毎日甘いものを食べていた。それがハヤトのだと知っていて、わざと食べていたのが、まさかこんなことになるなんて、今日の「濃厚生クリームなめらか口どけプリン」もまさか、私のお肉へのエサのなるなんて。
「思い知ったかアカネ!これに懲りたらもう…ってあれ?泣いてる」
「うわぁぁん、こっち見るなぁ…。こんな私を見るなぁあ!」
私はその場にうずくまり、ただ泣くばかりになっていた。
悪いのは私だ。
「ごめんね。アカネ。今のアカネもかわいいよ?」
「バカっ!!!」
しばらく甘いものは控えよう…。




