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1-15転換2

Will you marry me






 転換2



 理知的な考えを取り戻そう。そうした結果、俺はアカネを慰めるという行動を思いつく。


 しかしながら、どの言葉をかけるべきか検討できなかったから、ただ俺は正面から抱きしめるだけしか方法はなかった。


 アカネは依然、取り乱すかのようにしている。


 俺たちが本当にすべきことを理解するのにはもうしばらくが掛かった。



 部屋は、暗いままだった。



 冷房が運転する音だけが聞こえる。明かりはつけていなかった。そんな静かな部屋は、どこか違う世界のようにも思えた。


 この時間がよかったのか、むしろ時間がかかりすぎたのか。ようやく俺はアカネを連れて病院に行くことを考えた。


「お父さんの病院へ行こう」



 わかっている。行かないわけにはいかない。そんなことはわかっているのに、なかなか言い出せなかった。


 アカネも同じだ。むしろ、俺よりも強い思いだ。当然。

これ以上、惨めな姿をさらすつもりはない。アカネが頼りどころを無くすことになってしまう。今は俺が助けてやらねばならない。


 そんなことを思い、俺はアカネの手を引き、外へ連れ出した。

タクシーを捕まえ、病院まで乗り込み、通されたその場で俺たちは、お父さんに会えなかった。結果からいえば、会うことはできなかった。



 昨日の話はここまでにしよう。





 あのあとは大したことはできていない。それに俺のうろたえる姿もアカネの弱弱しい姿も、もう語りたくはない。


 今はそう、病院の地下。特別待合室のようなところに、俺たちはいた。


 治療中のお父さんについて、同意書を記載している最中。もしもの際にとの、ことだ。


 昨晩、この病院についたときから、アカネのお父さんは手術台に乗せられていた。今現在はICUに移され、窓越しにしか様子を確認できない。そんな中、アカネに求められたのは、治療についての説明、同意だった。



 ほかに選択肢はない。そう判断したところで、サインしている。


 俺はその様子を横で見ているだけだった。


 丸状の机に、向かい合って座っている。他には誰もいない部屋だった。いただいたコーヒーを飲んでいると、時間的には朝になっていることに気が付いた。



 アカネは落ち着いている。



 医師の説明を聞くときも、そうだった。


 長くなった同意書を読み、サインを書き終えて、俺たちはようやく部屋をでる。エレベーターにのって、上の階にある病室を目指した。


「アカネ、無理しないでくれ」


「わかってる。今は私がしっかりしないと」


「そういうことじゃない!一人で全部を負わないでくれ…。俺もちゃんと頼るんだ」


「うん。わかっている」


 立った二人の密室だが、それでも少し遠慮して話してしまう。あくまで病院ということ。それもあるが、アカネの家のことに俺が関わろうとしているから。



 また会話はなくなった。



 そうしているうちに目的の階に到着する。


 エレベーターを降りてすぐ、ナースステーションがあったので、目的の病室まで案内してもらう。名前を告げると、丁寧に対応してくれた。


 案内された個室のドアにアカネの名字があったので、間違いはない。そこで看護師さんは会釈をして戻っていった。


 俺はそこへ入るべきか、そんなことを考える間もなく、アカネは俺の手を握り、もう片方の手で扉に手をかけた。


「あら、アカネ。来てくれてありがとう」


「うん。体調はどう?お母さん」



 そこにいたのは、アカネに顔立ちがよく似た女性。しわが濃く、苦労を感じるが、それ以上に弱弱しく思えた。


 一歩離れたところで俺は見ている。部屋に入ったところで、手は放していた。とてもその中に割ってはいることなどできないと思ったからだ。


 お母さんについてはあまり聞いていない。お父さんのことで俺自身がいっぱいいっぱいになりかけていたからだ。


 お父さんが事故にあったのは、本当に病院の目と鼻の先だったらしい。普段から彼らを知っていた病院の人たちが手早く病院内へ運んでくれたようだ。その時、お父さんはそのまま手術室へ、お母さんは担当医が状態を確認し、安静にするためこの病室に移された。


「お父さんは?どうなの?」

「まだ意識は戻らないみたい、緊急手術ではできることしかやれていないから、その後の治療についての同意書を書いた。お母さんは今、書けないだろうし」


 アカネはベッド前の椅子に、お母さんはベッドに腰掛け、対面する形で話していた。他のこともいろいろ話している。


 ずっと緊張していたアカネの顔にもやっと笑顔が見えた。


 俺はというと、そんな二人の様子を一歩引いたところ、扉の前で見ていた。一通り、話し終えた、お母さんが俺のほうを見る。笑顔で「お話しませんか」といっていくれた。


「初めまして、ハヤトといいます。アカネさんとは…」

「いいのいいの。堅苦しいのはなしにしましょうね。それにあなたのことはアカネからもいつも聞いているわ。私があなたたちの関係にとやかく言うことはないと思ってるの。お父さんはどうか知らないけどね」



 お母さんはまた笑った。よくしゃべりよく笑う。ここはいつものアカネととても似ていると思った。


「それにね、私はあなたと初めましてじゃないの。さっきの様子じゃ覚えてないだろうけど、四年前のこの頃、私はあなたとあってるわ」


 俺はアカネの顔を見る。ただ笑っていた。俺には理解できない。


「ハヤト。記念日の事覚えている?」

「もちろん、アカネが話してくれた日の事だろう。俺にとって大したことじゃないのに、なんでまたそんなことを覚えて、記念日にしているだろうと思った」



「あの日の人が、お母さんなの」



 口を開けたまま、だらしない顔で二人を交互に見る。



「ハヤトくん。あの時はありがとう。こうしてお礼を言えてよかったわ」



 あの日のことについてはもうあまり覚えていないかもしれない。



 大学三年の俺だったはず。その日俺はバスで困っている女性を一人助けた。


 なんてことはない。降りるとき、よろけて危なそうだったから、手を引いただけだ。そのあと、荷物をもって、病院まで付き添っただけだ。



 それだけのことだったと思う。



「ハヤトはそれを当たり前のように、いつもできるのが、素敵なところ。初めてハヤトという人を知った日。それが記念日。もちろんお母さんにも言ったわ。同じように素敵な人ねって言ってくれたよ」


 すっかりだまされた気分だ。ため息ばかり出てくる。それでも不思議と笑えてくるのは、俺自身うれしいからだろう。


 窓が開いていたのか、風が入ってくる。今日はいい天気だ。そんなことも分からないくらい切羽詰まっていたのか。


 きれいな部屋だな。こんなにもまぶしい二人が俺を素敵だといってくれる。今の俺の気持ちはサイコーだ。



「お母さん。アカネさんと結婚させてください」



 このきっかけを、逃すわけにはいかないだろう。



日常を描いていくこのH&A

なんだか次第にざわざわしてきました。別に私がプロポーズしてるわけではないけどね…


一話完結の日常パロディーなんですが、どうしても二人の間を進めたくてこの「転換」を書きました。


続きます。

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