1-12お買い物
おっ買い物♪おっ買い物♪
っていうキャッチ―なCMがあったような…
なんか耳に残っているんですよね。
お買い物
今月もやってきた。
月に一度の大安売りの日。
この町の商店街が総出で意味不明なくらい安売りしてしまう。何かの病気だと疑う日がついにきた。
まぁ、あやかっている立場からはうれしい限りなんだけどね。
近年、さびれていく商店街が多い中、この町の商店街が未だ熱いのはこういう企画がたくさんあるからだ。不定期開催される福引大会も毎回景品が豪華すぎるし、町長さん、頭のねじ五、六本吹っ飛んでんじゃない?インパクトドライバーとか買ってこようか?
しかしこういうものをうまく活用していかないと、私たちの慎ましい生活は成り立たないということだ。
別に、死活問題とまではいかないけどね。
たまたまこの日はハヤトが仕事になったので私だけが向かった。いつもは二人で行くものだが、しかたがないでしょう。殺されないようにうまく引き際を見抜かないと。
お金とエコバッグをいくつも持って、ハヤトの部屋の鍵をかけた。なーこはどこか出かけているみたいだけど、裏のベランダの窓が二段階ロックで猫一匹だけが通れるようにしているから大丈夫でしょうね。あの子頭良いし。
カンカンと外階段を下りて、少し歩けば駅に向かう道にその商店街がある。なんだろう、熱気が…。
おばさまたちはすでに戦闘態勢。世間話をしていてもあちこち目を光らせている。高校生や大学生もたくさんいた。彼らの狙いは半額以下になるブランド品のセールだろうか。あぁ、私も欲しいな。あんまり高い服は最近買えていないからなぁ。でも仕方ないからね。そして今月はいやな団体がきているな。
近くの大学のラガーマンか。
他にもいろんな人が商店街、所狭しと詰めかけていた。皆が皆が同じものを狙っているわけではないが、これだけの人が集まればもはやその惨状は予想に容易いだろう。
アーケードの上に固定されている大きな時計が十時の針を指したとき、はじけるように皆飛び出した。
あちこちから叫び声が上がり、押し倒されてもものともせず目的のために突っ走っている。それを私は一歩離れたところで見ていた。これはそうだね、惨劇というのだろうか。前回も同じような状況を見ていたがその時そこへ向かうのはハヤトだった。それが今回は私なのだ。それを考えるだけで足はすくむし、吐き気がする。
それでも今日はハヤトのために頑張らなくちゃ。
挑んだのは食品売場。屈強なラガーマンと屈強なおばさま方がしのぎを削る激戦区だ。当然華奢でか弱い乙女な私は…、そんな私!は勝ち残れるわけもなかった。集団の中に突撃しても売場まで届かず、はじき出される。それでもなお、私は向かった。
今日だけは、譲れない理由があった。
ハヤトはもう忘れているんだろうけど。今日は記念日なんだ。もうずっと前、大学生の頃。まぁ、大したことはないんだけど。私の中では印象に残っている事。口に出すのは恥ずかしいから言わないけどね。これは口実に過ぎない。ほんとはいつものお礼をしたいだけだ。
だから頑張るんだ!
私の幾倍もある体格を押し退けて、潜り込むように抜ける。その先で我こそはとバッグにものを詰めていく人々の中、商品棚の前まで何とかたどり着いた。やっとのことで、何か袋に詰める。最初考えていたような通りには何一つうまくいかなかったが、少しはハヤトを喜ばせることもできるかもしれない。
息もしにくい肉詰め状態の中から今度は一歩一歩と抜け出る。大事なバッグは体の内側にしっかり持って、あと少し。やっとのことで這い出た。
やっと解放されたその時、違和感を覚えた。
右に、ピアスがなくなっている。
汗が流れる。私はバッグを抱えたまま、うずくまる。どこで落としたかは明白だ。今の真後ろだろう。でも、それは。
「どうしよう。どうしよう…」
あれはハヤトがくれた。大切なピアス。
涙が出てくる。でも、どうしようもない。そもそも私がここに来たことが間違いだったのかな。
腕の中のバッグをのぞき込む。ちゃんとある。
私の顔はぐちゃぐちゃだ。涙が止められないのに、笑顔になる。
腕で、ぐしぐし顔を拭いて、立ち上がる。いつまでもこんな処にいたら邪魔になる。直ぐ後ろではまだ皆が商品を取り合っているんだから。
立ち上がった足でそのままお店のおばちゃんのところに行く。皆が騒いでいるのは、店前だからそこを横から抜けて、店の中に入る。そこで精算を済ませるのだ。そこで何か言っている様だったが、耳に入らなかった。直ぐに帰りたかった。
柄にもなく走って帰ってしまった。日はもう、傾いて七時は回っているのだろう。部屋が見えてからは一層早く走ってしまった。ハヤトに会いたい。早く会いたい。
そして謝りたい。
玄関の鍵を開けようとして、ハヤトが帰ってきていることを知った。
扉を開けると、ハヤトは笑顔でおかえりって言ってくれた。
でも、私の汚れた恰好をみて顔が険しくなった。
それを見ると心がズキズキした。
「ハヤト、ごめんね。ごめんね!私、ハヤトがくれた…」
言い切る前に、抱きしめられた。
「アカネ。大丈夫?怪我とかしてない?」
ハヤトは優しすぎるんだ。しっかり怒ってくれたほうがよかったのに。一度止めた涙がまた出てくる。ハヤトの腕の中では顔がぐしゃぐしゃになっていく。
そのあとは恥ずかしいことに泣き疲れてねむってしまったようだ。せっかくの記念日に渡せもせずに、大切なピアスもなくしてしまう。私はサイアクだ。
私があのまま寝てしまったのだと知ったのは、翌朝、ハヤトの部屋で目を覚ましたからだ。でも、ここにはハヤトはいなかった。代わりに二つ置いてあった。
ここからは私の推測。
ハヤトは私が寝てしまった後、荷物を見て、どこに行ってきたのかしった。そして私の様子を見て何を謝ろうとしたのかも分かったのだろう。
だからハヤトは行ったんだ。商店街に。
テーブルの上には汚れたピアス一つ、そして空になった缶ビールが一本。メモにはごちそうさまって。冷蔵庫を確認しにいくと昨日のバッグから出された二本の缶ビールの内一本が無かった。
「ちゃんと飲んだんじゃん」
昨日が記念日だって気づいてたのかな。
テーブルからピアスを取り上げて、右耳につける。ひとのびして、キッチンからこっぷを二つ出して冷凍庫で冷やす。
ハヤトが帰ってきたら、残った一本を半分こしよう。その時私はちゃんとありがとうっていわないと。そしてちゃんと二人で記念日を祝おう。でもその前に、昨日がなんの記念日にだったか教えてあげようか。その時のハヤトはどんな顔をするのかな。
テーブルに頬杖をついて、そんなことを考えながらハヤトに感謝の思いを募らせていた。
ごめんなさい。でも、ありがとう。




