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1-11神がない

ついてるとか、ついてないとか。そんな話です。


 神がない



 みなさんはこんなことはないだろうか。途轍もない孤独感に苛まれることは。


 ある日の話をしよう、ある日のハヤトの話だ。


 夏前になって冷房をかけて寝るようになったのだが、あの日は油断していた。おなかを出したままにして寝てしまったのだ。あれだけお母さんには言われていたのにやってしまった。ここまで言えば、賢明な皆様はお分かりだろう。そうです。おなかを下したのです。



 今俺はトイレで格闘中なのだ。



 もう何時間になるのだろう。かなりの時間をここで過ごした。アカネが来るのをトイレの中で聞いたし、外でいいとも増刊号が終わる音も聞こえた。


 いつまで考える人のポーズをとらねばならぬのだろう。


「うおぉぉぉぉぉ…」


 もはやアカネに聞かれて恥ずかしいと思うこともなく、いや考えることもできないくらいで、全力でただ一つのことのみ集中していた。



 痛い…。



 お母さんに言われたことはちゃんと守ろう。口うるさいと思っていたが、今思えば、おなかを下すことがこんなにも苦しいことを当時なめていた。母の呪いはすごし。


 しかし母のいいつけを守らなかったことの罰はこれだけでは済まなかった。


「…?…ん?ん!?うわぁああ!?」


 か、紙がなくなった。


 朝からずっと使い続けてきたのだ。なくなるだろう。しかし予備においているはずの紙もないのは予想外だった。


 今になって思いだす。


 確か、この間アカネが大胆にトイレを詰まらせたんだった。そのときあふれた水が予備のトイレットペーパーにかかって捨てたんだった。


 いやしかし!俺に紙がなくとも神はついている。


 そとにはアカネがいるのだからとってもらえばいい。


「アカネ、ちょっと来てくれ」

「うん、なに?」

「紙が切れたんだ、とってくれないか」

「おっけー。探したよー」



 早いな。



「ないみたいだねぇ」


 俺の今の心持ち、体勢は言葉で説明するより想像に任せたほうが容易だろう。


 仕方ない、ティッシュでなんとかするか。


「じゃあアカネ…」

「任せてハヤト!すぐに買いに行くから!」


 そういってどたどた音がした後、バタンといったきり、アカネの声が聞こえなくなった。

というか、出ていきやがった。



「うをおぉい!まじかよ!」



 こっちは切羽詰まって身動きすらできないのに勝手に行きやがった。俺はどうすんの。待てと?こんなに心細い気持ちで待たねばならんのか。


 そわそわする。けつ丸出しで紙を買いに入っているアカネを待つのだが、トイレという個室の中、情報が遮断されているので何ともそわそわする。


 玄関のカギはちゃんと閉めたのか。テレビはつけっぱなしではないか。俺の大切なコレクションを嫌っているアカネは俺がこうなっているすきにごみに捨てていないかと心配でならない。


 それでも、こんな状況にも関わらず、俺のおなかは快活な活動を続けていた。


 トイレには時計はおろか不必要なものは何もないので、何もできない。ケータイも置いてきたので時間もわからない。アカネが出てどれくらいだろう。


 このままアカネが戻ってこなかったら、俺はここで一晩過ごすのか…。さすがにないな。その時が来たらもうあきらめてトイレから出るだろう。最終手段だが。


 くっ、大人としていいのかそれは!


 アカネが出て体感時間で二時間。何とかアカネが帰ってきた音がした。


「ただいま、ハヤト。買ってきたよ」

「おお、待ってたよ。早くください」


 少し前からおなかもひとしきりで終わった感じだった。


「おっけー、じゃ、カギ開けて」

「…ん、うん」

「ほら早く」



 まぁ、仕方ないよな。このさいだし。



 ガチャっと手を伸ばして回した途端、勢いよく扉は開かれた。


 目の前でトイレットペーパーを差出し仁王立ちのアカネ。その眼はしっかりと俺をとらえてそらさない。そして口元が開く。



「ぷふっ…」



 トイレットペーパーを受け取り扉を閉める。



 あいつ、笑ったな。



 受け取った紙を怒りに任せて引きちぎる。しかし拭くときは優しく…俺は今敏感なんだ。仕方ないだろう。


 やっと俺はトイレから解放された。檻から放たれた獣のようにアカネの前に向かう。


「アカネ!笑ったな。俺の惨めに苦しんでいる姿を見て笑ったな!」

「だって、わざわざ買ってきたんだよ。それぐらいいいでしょ。あんなに面白いものを見逃すわけにはいかないじゃん?」


 テレビを見ながらアイスを食べていた。うちにおいてなかったから一緒に買ってきたんだろう。


「だけどなぁ!俺は勝手に出ていったアカネのせいでどれだけ…う、うおぉぉぉ!」


 ま、また来た。


 仕方なく俺は再び檻の中に戻る。


「ごめんごめん。そんなに怒ると思わなくって。おわびにさ、ハヤトの分のアイスも買ってきてるから。ね?ゆるして」


 今の俺にアイスが食べられると思うのか!?


「うおぉぉぉ」



 思ったことも口に出せず、俺はただうめいていた。


 今度からどんなに暑くても冷房をかけっ放しでは眠らないことをこのトイレで誓った。







「うおぉぉぉ」


 トイレって、風呂みたいにはこだましないんだな。



今更ですが、話はそれぞれ多少前後していたりします。

これは暑い暑い夏の日の前にあたる話です。


熱中症になった理由は結構しょうもないですね。

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