無線LAN
《登場人物》
徳永 真実 (35) 警視庁刑事部捜査第一課警部
高山 朋美 (30) 同 巡査部長
加藤 啓太 (35) 警視庁刑事部鑑識課係長
沢渡 幸次郎(34) ライトノベル作家
沖田 稔 (34) フリーライター
殿倉 純一 (46) オンラインゲームプロデューサー
事件発生から1日が経ち、徳永、高山の両名は加藤がいる鑑識室に来ていた。
徳永は、白い手袋をはめて、沖田の残した遺品を再度調べ始めている。
「被害者の死亡推定時刻は9時から10時の間」
加藤は二人の姿を見ながらそう告げる。
徳永は遺品のPCを見つめながら、加藤に向けて言った。
「死亡推定時刻が9時ならば、ある事があり得なくなる。高山君は分かるよね?」
隣で一緒に遺品を探る高山が答える。
「被害者がゲームをしていたという事実ですね」
徳永は首を縦に振って反応した。
「そう。被害者のPCでゲームの世界にログインされたのが、9時13分。この時点で死亡推定時刻の時間に入っているから。操作しているのが被害者ではなくなる事実が生まれる。死んだ者が動くわけないからねぇ」
「そうだな。となるとあれか、犯人は被害者がゲームをしていたと見せかける為にログインしたって事か……」
「おそらくそうだろうね。これであの妙な状態が納得できたよ。ゲームをしているのに音量がなかった事」
「でも、どうして犯人はそんな事を……?」
徳永は腕を組み、彼女の言葉に頭を抱えている。
「そうなんだよねぇ。そこが分からない。全く。考えてみればおかしな行動だよね」
「うーん。ますます分からなくなってきましたよ」
「そうだねぇ」
PCの画面を見つめている加藤が二人のやり取りを見て呟いた。
「なんか手掛かりが必要なわけだな」
警部は加藤の言葉に首を縦に振って反応した。
「そう。で、手掛かりはこの無線LAN」
そう言って無線LANルーターを箱から取り出す。高山は徳永の手に持っているそれを見つめた。無骨な黒色モデルの長方形。
「あーそれ。最新型でしたっけね」
「これの登録情報って調べられるの?」
加藤はデスクの引き出しから一枚の紙を取り出し、徳永に手渡した。
「そう来ると思って調べておいた。ほれ」
「仕事が早いねぇ。鑑識係長」
「へーへー」
徳永の心のこもっていない誉め言葉を加藤は軽くあしらった。一枚の紙には、ログインのリスト。
KASHIBA 3425 17:15
Many 21-AT 21:15
「リストを見てもらえれば分かるけど、奴さんの使っていたPCとは別のPCがログインしている。可能性としてノートPCが高いだろうな。被害者が使っていたのは、カシバ電器工業のPCでもう一台は、マニー・インダストリー製のノートPCだった」
徳永は、加藤が作った報告書を読みながら、自分の脳内で情報を整理していき、把握し始める。
「なるほどね。このノートPCが何を開いてたかは調べられるかい?」
加藤は首を横に振り否定した。
「いいや。それは無理だった。ログインの痕跡だけは調べられたんだが、流石に何を開いてたかは無理だな」
「そうか。ありがとう」
徳永は礼を言って遺品を入っていた段ボール箱に戻し始める。
「高山君」
高山は片づけをしている徳永の言葉に反応した。
「はい。何でしょう?」
机に置いた箱に遺品を戻し、着けていた白手袋を徳永は外す。
「今日はもう1度、あの沢渡って人に話を聞いてみようかね?」
「沢渡さんですか?」
その言葉を聞きながら、彼は腕を組み、深い深呼吸をしている。
その姿を見た後で高山は、訊く。
「もしかして何か引っかかったんですか?」
徳永は口ごもりながらも答え、曽於後で鑑識の職場から出て行こうと出入り口のドアに向かった。
「うん。ちょっとね」
「あっ、待ってください!」
高山は徳永の後を追う。2人が出て行った後、机に置いたままの遺品の箱を見て加藤は深いため息をついて頭を抱えた。
「おいおい。だから遺品の箱は棚に戻してから行けって!」
加藤の声が鑑識の部屋一面に響き渡っていく。そんなことも知る事無く、2人の刑事は、再び沢渡の元へ向かう事にした。
第7話です。 話は続きます。