加藤の電話
《登場人物》
徳永 真実 (35) 警視庁刑事部捜査第一課警部
高山 朋美 (30) 同 巡査部長
加藤 啓太 (35) 警視庁刑事部鑑識課係長
沢渡 幸次郎(34) ライトノベル作家
沖田 稔 (34) フリーライター
それから二人の刑事は被害者に関わっている人たちに事件の聞き込みに向かったものの特にてがかりになる物を発見することができず車を走らせていた。
その車の中で高山は徳永が運転する愛車の助手席に座り、移り行く街並みの風景を見つめていた。隣で警部がカーナビの音声案内を聞きながら目的地に向けて車を運転する。
目的地はPJワークスというゲームの開発会社。
被害者が死ぬ前にしていたオンラインゲーム「WORLDWEST」を開発した会社で、二人はそこに向かい、被害者のゲームログイン記録を確認する為に向かっていた。
徳永にとって、沖田が死亡する前、本当に行っていた事はゲームなのか、それとも別の行動を行っていたのか、それが分かるだけでも重要な根拠が浮かび上がると考えていた。
「高山君。被害者は本当にゲームをしようとしていたのかな?」
「私もそこは妙に感じました」
徳永は話しながらフロントガラスを見つめている。前の車列少し長い様子が目に写る。
「もし、仮に、彼がゲームをする前に殺されていたら?」
「犯人がログインさせた……って事は……」
「計画的な偽装工作をしようとしていた事になる。でもなぜ、ゲームなんだろう? ましてや、物取りの犯行ならこんなところまでやらないね」
高山は徳永の言葉に頷いた。
「確かに……」
そう話している途中で、車内で映画音楽が流れた。
「おっと」
振動を発しながら彼のスマートフォンが電話通知を徳永に知らせる。電話の相手は加藤からだった。
彼は、それの画面を右手で操作。通話ボタンを左へとタップする。
「はい。徳永」
加藤の声が接続されたスピーカーから聞こえる。
「捜査の進展はいかがですかい? 警部さんよ」
徳永は運転しながら、答えた。
「あんまり良くないね。でもそっちから電話するという事は、何かいいニュースでもあったかい?」
加藤は自分のデスクpcにある記録を見ながら警部に話す。
「ああ。奴さんの通信記録を調べたんだが、電話はほとんど使っていなかった。打ち合わせぐらいでしか使ってなかったみたいだ」
「それは興味深いね。沢渡 幸次郎っていう名前はあった?」
そう訊く徳永の隣で、高山は彼らのやり取りをメモ帳に書き連ねていく。
警部の訊き返しに対し、加藤は机の上にある通信記録報告書を見ながら反応した。
「ああ。事件の1週間前に連絡してあるみたいだ。でも話に行ったんだろう?」
彼の問いに徳永は頷いた。
「ああ。特に良い情報もなかったよ。あ、それで無線機器については何か分かった?」
「勿論。被害者が使っていた無線LANルーターは5日前に発売されたばかりの最新商品だった。後でメールと共に画像を添付しておくぞ」
「ありがとう。助かるよ」
「んじゃ。忙しいからきるぞ。もしかしたらこのpcの中に記録が残ってるかもしれんからな……」
「ああ」
徳永は、通話ボタンをタップして、加藤との通話を終了する。
「犯人はよほど、pcとゲームに関してご執心のようだったみたいだね」
そう言ってる間に、徳永のスマートフォンから着信音と振動が2人にメールが届いた事を知らせた。
メールの送り主は加藤。メールの内容は、徳永の電話で言っていた被害者が使っていた無線LANルーター機器について。
それの商品名と製品表示と製造番号、そしてそのルーターの写真画像が添付されている。
「新型らしいね」
「そうですね。でも私には何が何やらで分かりませんよ」
メールを見た高山は首をかしげながら反応した。
「ははは。僕もだよ」
そう軽く徳永は笑い、ハンドルを左に回してカーブを曲がる。
カーナビが目的地の付近であることを音声表示で知らせた。
《およそ200メートル先、目的地です》
「そろそろ着くよ」
徳永はそう告げた後で、カーナビの映像指示に従いながら車を運転していった。
第5話です。話は続きます