対面
《登場人物》
徳永 真実 (35) 警視庁刑事部捜査第一課警部
高山 朋美 (30) 同 巡査部長
加藤 啓太 (35) 警視庁刑事部鑑識課係長
沢渡 幸次郎(34) ライトノベル作家
沖田 稔 (34) フリーライター
沢渡は作業場兼自宅の作業場でPCを駆使しタイピングをしていた。締め切りが迫っている作品が一つあるので、それを完成させるために指を動かし文字を生む。
「ふむ。このセリフはもっと軽い感じの方がいいかな?」
1人ごとが作業場に響く中、玄関から甲高い機械製の呼び鈴が鳴った。
「ん?」
インターホンの音が鳴ったのを耳にして、席を立ち、インターホン応対機の所に向かって対応する。
「はい?」
映像には、2人のスーツを着たセールスマン風の男女が立っている。男性は丸眼鏡を着けていて、どこか独特な雰囲気をか持ち出していた。
【なんだ? 誰だよ?】
内心、沢渡は怪訝そうにしながら2人の姿を見つめている。
すると彼が言った後で、2人の男女のうち男性が言葉を発した。
「あっ。すいません。警察の者ですが、沖田稔さんについてお話がありまして……」
男性の言葉を耳にした瞬間、軽い驚きと焦り、不安が心に現れる。
【もう!? 意外と早いなぁ。時間がかかると思っていたんだが……。これは出ないと怪しまれるな】
「はい。お待ちください」
沢渡は少し重くなった様な足を玄関に向けて動かしていく。玄関のドアを開ける気のりはしない。ゆっくりと玄関に辿り着き、ドアを開けた。
ドアを開けると、インターホンの映像の通り、2人の男性と女性が立っている。スーツの男性が、沢渡に訊いた。口調は丁寧。
「あ、すいません。沢渡幸次郎さんでお間違いないですか?」
彼はすぐその質問に対して答えた。
「ええ。そうですが……」
「すいません。我々、警視庁刑事部捜査一課の徳永と申します」
その隣で、女性が警察手帳を沢渡に見せる。
「同じく高山です」
警察手帳に飾られたお馴染みのマークが沢渡の目に強く焼き付けるように現れた。彼にとってこの瞬間は、とても衝撃的で、思わぬ質問が口から出てしまう。
「本物の刑事さん?」
徳永はその質問に即答した。
「ええ刑事です」
綺麗な微笑みと不釣り合いな丸眼鏡が妙に沢渡の心に不安と焦りを提供している。そんな徳永の答えを耳にした後で、彼は、すぐに我に返って、2人が現れた事について訊いてみた。
「あ、ところで、何でしょう? 沖田の事で話があるんでしたよね?」
「ええ。実を言うと、沖田さん、遺体で発見されまして……」
沢渡にとって分かり切った事実。しかし、厄介な事に今、話している相手は警察官。到底、自分がやりましたなんて言うわけがないし、言えるわけがない。言えば、何もかもがバレる事になってしまう。
【まずいな。とりあえず疑われない様にしないとな】
彼は、自分に疑いがかからぬよう、ふるまい始めた。
「そんな……あいつが……一体なんで?」
気が動転している沖田を目にして、徳永は気の毒そうな表情で返している。
「お気持ちお察しします」
「と、とりあえず、話は中で聞きましょう。どうぞ」
「あ、すいません失礼します」
「失礼します」
沢渡を先頭にリビングに入り、応対用のソファに2人を案内した。
「どうぞ」
2人の刑事はゆっくりと腰を掛ける。その後で、その対面側のソファに、沢渡が座った。なるだけ2人にはショックを装った表情でいる。
「1週間前にあった時は、あいつ元気だったのに何で……」
高山は少し苦い表情で答える。
「沖田さんは事件に巻き込まれた可能性があります」
「え?」
沢渡の反応をよそに徳永が高山の言葉に説明を加えた。
「実を言うと、殺害されたんです。ご自宅で何者かに鈍器で後頭部を殴られまして……」
「まさかそんな……」
高山が続けて説明する。
「我々は物盗りの犯行も含め考えております。で、今回その知らせを……」
「そうだったんですね」
「ここ最近、彼にお会いしたことはありましたか?」
沢渡にとって踏み抜けない地雷と言っていいほどの質問が高山の口から発せられる。それに対し、沢渡は口ごもりながらも冷静に返答した。
「いいえ。1週間前にあったのが最後です。仕事の打ち合わせで……」
「打ち合わせ?」
「ええ。新作の小説を共同執筆しようという矢先で、構想を練っていたところだったんです。執筆の予定は3,4月後で……」
続けて高山が訊く。
「なるほど、ちなみにここ最近、沖田さんのご自宅へ伺った事は?」
沢渡は腕を組んで、少し考えた後で、淡々と答えた。
「いえ。その1週間前はカフェで落ち合って打ち合わせしましたので自宅には行ってないですね……。かれこれ半年は経つんじゃないかな?」
徳永は高山の質問を彼が答えを言った後で、申し訳なさそうな表情で沢渡に訊きだし始める。。
「あ、これはあくまで形式的な質問でいつもよく訊いている事なので、普通に答えて頂ければいいんですが……」
「なんでしょう?」
「彼が死亡したのは、9時頃でして、その頃、何をされてたんですか?」
【ここで来るんだな。その質問……】
TVドラマみたいな展開がずっと展開されている中で沢渡は戸惑いと不安が募りながらもその質問が来た意外なタイミングに自身は慣れないでいた。
「え? 僕を疑ってるんですか?」
沢渡はショックな表情と同時に、2人に対して少し睨んだ。それに対して高山は、焦りながら発言する。
「いえいえいえいえ! よくそうおっしゃられる方がいて申し訳ないのですが、本当に形式的な事なのお気になさらないでください」
徳永も軽く頭を下げて謝った。
「申し訳ないです。本当に形式的な質問なので……」
少々、不安と不審を感じながらも沢渡は答える。
「そうですか。その時間なら自分は自宅でゲームを」
徳永は少し鼻先へ下がろうとする丸眼鏡を元の高さに上げて戻す。
「ゲームですか?」
「ええ。WORLDWESTっていうオンラインゲームなんですけど……」
「実は、被害者もゲームをプレイしている時に背後から殴られているみたいなんです」
「だからあいつログインしていたけど反応しなかったのか」
「ゲームの中で会ったんですか?」
徳永の訊き返しに、彼は首を縦に振って反応する。
「ええ。キャラですけどね。挨拶はしませんでしたよ。動いてなかったですから」
高山は頷いてメモを取っている。
「そうなんですね」
「ええ。とはいえゲームの世界でしたから」
「なるほど」
「それじゃ。高山君行こうか。我々は失礼します。あ、その前に最後1つ。5年前、何かご存知ですか?」
徳永の質問に対して、沢渡は首を傾げた。
「え?」
警部はさらに続ける。
「被害者の日記に5年前の事をやけに気にしていましたからね」
沢渡は、少し考えながらもすぐに答えた。
「いや、僕は知らないですね。沖田にしか分からないことかもしれないです。それ」
「そうですよね。失礼しました」
徳永は軽い微笑みを沢渡に向けて返し、彼はソファから立って、玄関へと向かった。沢渡は二人を見送る為に、立ち玄関まで見送りをする。
「もし何かありましたら、ご連絡をお願いします」
「ああ。分かりました。ご協力できるかはわかりませんが」
「大丈夫です。小さな情報でも事件解決につながる可能性がありますから。では失礼します」
ドアを開けて、二人の刑事は、彼の仕事場を後にしていく。
二人を見送った後で、ドアはゆっくりと閉まる。閉まっていく間に沢渡にとって、徳永の印象について、感じた事があった。
【何だ? あの刑事? 本当に刑事か?】
沢渡は首を回し疲れをほぐしながら、仕事場へと向かった。
第4話です。話は続きます。