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手紙   ~四通め~

サブタイトルを訂正いたしました。内容に変更はございません。

 戦争終結の後、サグレーには傀儡の王がついたが、イシュワンと内通していたとも手引きをしたとも噂のあるその王は在位わずか半年で暗殺された。

 王宮にひきこもり朝議すらも怠りがちだったという王と、イシュワン側の使節を手にかけたのは、王を護るべきはずの近衛の兵たちだった。

 この事件の調査のために、イシュワンからイシュワン王の叔父にあたる人物が調査団の代表として送り込まれ、事件の裁定にとどまらず、なにくれと難癖をつけては次第にサグレーの統治にも公に口をはさむようになっていった。

 あとを継いだ若年の王はその執拗で理不尽な大国の圧力に屈し――サグレーはその男の治めるイシュワンの自治領として一方的に組みこまれることとなった。

 これにより120年余り続いたサグレー王国は名実ともに滅亡した。



 こうしてかいつまんで報告書にまとめられてしまうと、ことはごく単純なことのように思える。


 ――誰が糸を引き、操り……得をしたのか。


 だが実際はどうだろうか? もっと複雑に糸は絡み合い縺れて……サグレー統合という一枚の壮大な織物タペストリーを織り上げるまでには――縺れた糸を解きほぐし、ときに切り捨て、あらたに糸を選りすぐり補充して――それこそ気の遠くなるような作業を要したのではないだろうか。


 なぜなら――フランソワと三度みたび会う……サグレー統合から考えたら取るに足りないたったこれだけのことが――しかしシャルルにとってはなによりも重大――まったくままならないのだから!



 アイリスが根付いた。――この朗報はシャルルを小躍りさせた。

 これを口実に、フランソワを王宮に招くことができる。そう考えたからだ。

 タリス子爵は周到に、レムの屋敷からその年できたアイリスの種を取り寄せることまで約束をとりつけていた。その分もあわせれば、来年にはそれなりの数が花をつけるだろう。

 いや。数なんてどうだっていい。

 レムのアイリスが王宮で花を咲かせた。――この一点こそが重要なのだから。


 シャルルはさっそく手紙を認めにかかった。

 カトリーヌ公爵宛の謝状に添えて……フランソワに。


 ――アイリスが王宮の庭に根付きました。来年の春にはきっと綺麗な花を咲かせてくれることでしょう。


 シャルルはふとペンをとめる。


 前回シャルルが出したレム滞在の折のもてなしに対する謝礼の手紙にも、フランソワからの直接の返事はなかった。


 ……その前も、その前のも……。


 ――あの感激の初対面の後、シャルルが初めて手紙を出した当時のフランソワは、まだ三歳……彼女の年齢を考えればそれも仕方のないことなのか……と、ムリヤリじぶんを納得させてきたのだが。


 ……もっと簡単な内容にしたほうがいいのかもしれない。


 長くなりすぎず、難しすぎず――幼い子供が読んでも、最後まで飽きずに読めるような。


 思えば最初に書いた手紙は、思いのたけをつづった長大なものになってしまった。その厚みをいぶかしく思った父王のチェックがはいり、書き直しをさせられてしまうほどに。


 ――いいか。手紙というものはだな、こちらが伝えたい内容が、きちんと正しく相手に伝わるように書くものなのだ。これではこのわたしでさえ、最後まで読み終える前に投げ捨てたくなる! ……とまで言われた。


 ……でも、簡単にって、どのくらい?


 王位から遠い三番目とはいえ、シャルルには一国の王子としてふさわしくあるよう特別な教育が課されている。それは、遊び相手としてあてがわれた貴族の子弟たちとの交流でも感じていたことだった。

 

 ましてやフランソワは、二歳下の女の子である。

 


 ――来年の春、王宮の庭にアイリスの花が咲いたら、ぜひ遊びにきてください。


 侍従が整理しまとめておいてくれた書簡を手にとり順番に目を通していたカトリーヌは、王宮から届いたその手紙に美しい空色の眼を細めた。


 だが。――最後の一文をみて、表情は一変する。



 ――僕のフランソワへ愛をこめて……あなたのシャルルより。



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