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閑話  それは父子の争いからはじまった! ※

※今回、シャルル視点の一人称のおはなしです。


 父上は、母上のことをそれは大切にしておられる。


 俺が最近読んだ本で覚えた言葉を借りてたとえるなら、いわゆる「デレデレ」というやつだろう。

 小さいころ、間近でくりひろげられるソレを、俺はごく普通に見て育ってきた。


 そのうちすこしずつ、俺と母上と父上の世界に、知らない大人のひと達が入ってくるようになって、父上と母上の違う顔を見かける機会が増えていった。


 ――どうして、よそよそしくしているんだろう? 


 不思議に思って戸惑っていた俺に、これは「よそゆきの顔」というやつで、俺たち王家の人間は他人の前では通常装備していなければならない、それがたとえ殿下のようなお子様でも、――と守り役の侍従が耳打ちして教えてくれた。


 でもまだそんな場面に俺が居合わせることは珍しかったし、俺はよく母上のお膝の上にのっかって本を読んでもらったりしていた。

 ところが俺が母上のお膝の上で気持ちよくまどろんでいると、いつの間にか父上がやってきて俺をどかして母上をひとり占めしてしまう。


「後からやってきて、父上ばっかりズルイ!」


 俺が抗議すると、父上は決まってこうおっしゃった。


「シャルルの母上は俺の奥さんなんだから、これが当たり前なんだよ。それに俺は忙しくてなかなか母上に会う時間がとれないんだから、今は俺が母上を独占する。……ほらほら、そんなふくれていないで。じきにシャルルだって結婚してお嫁さんをもらうことになるんだから。そうしたらそのコを思いっきり大切にして甘やかしてもらうといい」



 ――――俺、このときいくつだよ?

 思いだせる一番ふるい記憶にすでにコレがある、ってことは、三歳にもなってなかったんじゃないのか?

 


「そんなの、ずっと先のことじゃないか!」


 ただ泣き出すだけじゃ効果がないと悟った俺も、知恵がついて食い下がるようになっていた。




 ほぼ毎回繰り返される俺たち父子の口喧嘩に、母上も呆れて困り果てておられたある日のこと――――。

 父上がそんな俺をじっと見つめ、に~~っこり、極上の笑みをたたえて宣った。


「シャルルのお相手の女の子は、決まっているよ」


「!?」


「シャルルより二歳下の女の子でね、まだあんまり幼いから、と今まで黙っていたんだけど……」


「…………」


「そのこの母親は、絶世の美女だ。父親は男くさいヤツだが、きっと母親に似て美人になるぞ~。……おそらく」


 ちょっと待て! その言い方だと、会ったことないんじゃないのか?

 それでどうして、そんなこと……。


 ――――と、頭では思うのに。



「……それ、ほんとう?」


「うんうん。今ちょうど二歳かな~。かわいい盛りだな~。シャルルがいいこにしていたら、そのうちに会わせてあげよう」


「ほんと?」


 父上の口車にのせられて、俺ほんとにこのときは素直だったな……。


「ああ、もちろん! 相手はシャルルより年下だからね、シャルルは年上の男としての振る舞いを身につけなくてはならんな。いいか、他の女に目をくれるなど、言語同断だぞ! 女の子はヤキモチ妬きだからな。たとえ、母親であっても、だ!」


 …………なぜこれで、いいくるめられたんだろう、俺?



 俺は母上にべったりと寄り添う父上が、うらやましくてうらやしくて……。

 俺だって母上を大切にしたい。そうしたら母上のうっとりと父上を仰ぎ見る眼差しを、いつか俺にもと……。



「…………」



 俺だって、そのこを父上よりもっともっとも~っと、大切にする!

 大切にして、甘やかして……。


 俺は目の前でいちゃつく両親を横目に、いつか出会う女の子の姿を夢見て、ぐっと堪えたのだった。

     





 …………アレンには、口が裂けても言えない。





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