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夏の日の夢 5


「ユルグ兄様の出発は、朝食の後ではなかったの? ほんとうなの? エマ」 


 いつもより少し寝過ごしたとはいえ、まだそれほど遅い時間ではない。ふだんどおりであれば、朝食の時間にもなっていない。それなのに次兄のユルグが既に出かけた、と侍女のエマから知らされたフランソワは、身支度もそこそこに寝室から出ようとして、侍女たちに引きとめられた。


「はい。なんでも急に第一王子様の狩りのご案内を、シャルル様にかわってユルグ様がお務めになることに決まったとかで。お父上様からの急使が三十分くらい前にありまして、先ほどあわただしく出発されました」


 なんてこと! 夜中に何度も目を覚ましては、朝になるのを待ち焦がれていたというのに。肝心なときに眠ってしまって、お兄様たちがお出かけになる物音でようやく目覚めただなんて!



 フランソワが目をやった先、紫檀の小机の上の盆には、ふたつの花冠がのっている。

 ひとつは、フランソワのもの。シャルルと一緒にいるときにつくっていたもの。ジャスミンの白い花をメインにブルースターのとりどりの花をあしらって、清楚で愛らしいイメージに仕上がった。

 もうひとつは、シャルルが帰ったあとに、シャルルのためにこしらえたもの。庭園で山査子の枝を採ってきて、その葉とブルースターの青い花をメインに、ところどころにジャスミンの白をきかせて仕上げた。

 フランソワ自身のそれより、ずっと頭を悩ませて何度も試行錯誤を重ねて時間をかけてつくりあげた。

 ――――渾身の、フランソワから、シャルルへの贈り物。






 テラスから室内の客間へと場所を移してのお茶の席からは、次兄のユルグも同席した。

 長兄のシャルルとフランソワが母親似なのに対し、ほかの三人の兄弟は父親似である。ユルグは長兄ほどには能弁なほうではないのだが、その彼が、昨日はじつによく王子のシャルルに話しかけていた。


 だが……。

 一見和やかに会話が進んでいるようでいて、事実はそうではない。シャルルの希望でその場にとどまり花冠づくりを再開したフランソワは、妙にぴりぴりとした気まずい空気を肌で感じて戸惑っていた。



 お茶も殿下のお好みのものを淹れ方も申し分なく、ケーキも果物のシロップ漬けをふんだんに、上品な味わいのクリームとのバランスも絶妙で、最高に美味しかったわ。


 ケーキをひとくち含んで目を輝かせたフランソワに、シャルルも相好を崩してうなずいていた。

 お互いの好きなケーキの話題で盛り上がり、なんともよい雰囲気ではじまったお茶の時間。

 それが今は……。

 フランソワは、シャルルがたたえている微笑ほどには楽しんでいないことに気がついていた。


 お兄様が殿下のお相手をしてくださるおかげで、お茶をいただきながらの作業でも、さっきよりはずいぶんはかどるようになったけれど…。殿下、お兄様とお話をなさりながら、ちら、ちらとこちらをご覧になってる。わたしも少しはお話にくわわったほうがいいのだと思うのに……。


 その隙がない。フランソワがはいっていくタイミングをつくらせまい、としているかのように、ユルグはもっぱら明日の狩りについての情報を、えんえんとシャルルに披露し続けていた。



 途中くしゃくしゃにしてくたびれてしまった箇所をほどいて編みなおしたこともあり、結局シャルルがいる間にフランソワは花冠を完成させることができなかった。


 そのことをシャルルは残念そうにしていたし、別れ際の寂しそうな笑顔がフランソワをたまらない気持ちにさせた。


 …………また。わたし、殿下をがっかりさせてしまったのだわ。殿下には、ちゃんと綺麗にできあがったものをお見せしたくて。……ヘンにこだわるよりもとにかく完成させてしまったほうが、よっぽど殿下に喜んでいただけたに違いないのに……。



 花冠を完成させたあと、フランソワはしょんぼりと自室にこもっていた。

 自分でも、よくできたと思う仕上がりだった。

 ユルグもエマたち侍女も、出来栄えをほめてくれた。それだけに……。


 殿下のお目にかけることができたなら、どんなにかよかったのに!


 できあがった花冠を手に取ったシャルルの喜ぶ顔を、フランソワを手放しでほめてくれるその笑顔を想像したところで、フランソワは赤面した。


 …………わたし、殿下にほめてもらいたくて、がんばってた?


 ――――そんなことは、と即座に否定してみるが、一度頭に浮かんだ考えはそうやすやすと消えてくれない。

 思い出しては赤くなり、そわそわとして気持ちが落ち着かない。そのうちじっとしていられなくなったフランソワの足は、庭園へと向いていた。

 庭園でフランソワは、山査子の枝をひとつひとつ、枝についた葉の形や色を吟味して、花も既に揃えてあるものより、もしやいいものが残ってはいないかと、朝よりもずっと熱心に探してまわった。


 ほかでもない、シャルルのために――――。


 殿下も欲しいと仰っていたし。明日の朝、ユルグ兄様にお願いして狩場で殿下にお渡ししていただければ。一日遅れになってしまうけど、それでもきっと喜んでくださるわよね?



 冷たい水を含んだ布で環の部分を何度も湿らせて、夜中に花がしおれていはしまいかと何度も起き出しては、確認して……。






「お嬢様! どちらへ?」


 厩舎で愛馬のドミニクをひき出そうとしていたフランソワを見咎めた厩番が、あわてて駆け寄ってくる。

 

「狩場の小屋へ。お兄様へお渡ししたいものがあるの。大丈夫よ。ジャンたちも一緒だし、狩場へはわたしもドミニクも何度も行ったことがあるもの。それに、急げば途中でお兄様たちに追いつけるかもしれないわ」


 狩りが終わるまで、とても待ってはいられない。そんなに長く花が持ちはしないし、なにより狩場へ向かえば、もしかしたらもう一度シャルルに会えるかもしれない。

 そんなほのかな期待を胸に、フランソワはドミニクの腹を軽く蹴ると、屋敷の門を飛び出していった。







「……どこか、この辺りで休めるところはないか?」


「ですから、合流先のヴェントで、ユルグ殿が到着なさるのをお待ちになればよろしかったのです」


 侍従の容赦のない一言が頭に突き刺さる――――。


 リーヌの森の狩猟小屋へと向かう間道をまだ半分も行かぬうちに、十騎の主従が先ほどから立ち往生していた。

 この国の第一王子アンリは、馬上でもうずっと二日酔いで痛む頭を押さえていた。酒気が抜けきっていないせいで、もともとは端正な美貌が、見る影もなくだいなしである。


「あの兄弟は好かん」


 吐き捨てるように呟いて、アンリはさえない色をした顔をますますゆがめた。

 今日は狩りをするとわかっていながら、限度を超えて飲みすぎた。王子としての体面を保つためにも酔いがさめるまで、ごまかしようもないこのひどい姿を国王やほかの貴族たちには見られたくない。しかし、予定どおり出発の刻限まで屋敷にいたのでは彼らとまったく顔を合わせないようにするなど、とうてい無理な話である。

 そこでアンリの一行は、皆が食事をはじめる時間に、わざと皆より早く屋敷を出発したのだ。

 国王には、せっかくカトリーヌに来たのだから、狩猟小屋への道すがらこの地の朝の自然を満喫しながらゆるゆると向かいたい、と侍従をとおして許しを得て。 


 それであるのに、あのシャルルの弟に、醜態をさらすなど……。




 昨夜の宴で久しぶりに会ったダニエル子爵は、妻を連れてきていた。

 昨年の春に、彼はティエリー公爵の二番目の息女と結婚していた。

 ――――アンリの妻、イザベルの妹と。



 ……思えば、何事につけ、俺たちは比較され続けてきた。


 年齢が近かったこともあり、幼い頃からたびたびシャルルは第一王子の遊び相手として王宮にあがっていた。


 そしてその都度、第一王子の俺と、たかだか一臣下の嫡男にすぎない男とを、同列に扱うとはなにごとか? と、憤ってきたものだ。

 それがすなわち、彼にはかなわないと認めているようなものだ、ということすら気づかずに。



 それに、彼の父エルガー伯爵は、一臣下どころではない。国王の信頼もあつく、この国の宮廷で一目おかれる存在だった。

 一度はカトリーヌの降嫁先の候補として、名前のあがったことのある大貴族ならなおさらである。

 ――――もしもエルガー伯爵が受けてくれていなかったら? 己が彼と同じ目にあっていたかもしれない。そう考えて身震いし、彼に感謝するものたちがいるいっぽう、そのあたりの細かい事情を知らない貴族や、若いものたちのなかには、伯爵のことを国王の寵愛をかさにきて偉そうに振る舞っている、と陰口をたたく輩もいた。

 嫡男の名前の件にしたって実のところは、エルガー伯爵のほうで、不憫な愛娘に甘くなっていた先王にこっそりねだったのではないか、と噂する者も少なくない。

 アンリもシャルルへの反発の延長線上で、エルガー伯爵に陰で辛辣な批判を浴びせるものたちのうちの一人だった。



 そうした勝手な噂がついてまわるのがわずらわしいのか、近ごろ伯爵は公務と公式行事以外では、王宮にめっきり顔を出さなくなっていた。

 そんななかであるから、カトリーヌ領をおとずれ、エルガー伯爵夫妻から歓待を受けた国王は上機嫌である。

 国王と伯爵、王妃と伯爵夫人ことカトリーヌ侯爵、そこにダニエル子爵夫妻がくわわって歓談する姿は、鬱屈していたアンリの神経を波立たせるには十分すぎる刺激となった。




 国王の隣に並んで鷹揚な笑みを浮かべる王妃は、アンリの実の母ではない。

 アンリの母、前王妃が若くして病で身罷って三年の後、国王は新しい妃を迎えた。


 …………母上のときとは、違う!

 

 まだ幼かったアンリにもそれとわかるほどに、父王は母とともにいたときとは違う顔を若く美しい王妃の前では見せていた。国王は、王妃を溺愛した。


 いつも立派だった父上が……。あのような、だらしのない顔をして!


 それから間もなく王妃は懐妊し、弟のシャルルが産まれた。

 シャルルが成長するにつれ感じ続けていた既視感がなんであったのか、あるとき気づいてアンリは、なんという皮肉か、と愕然としたものだ。

 兄弟である自分より、「二人のシャルル」のほうがよく似ていたのだ。


 だがおかしなもので、美貌では弟のほうが優っていたことに、王家の血筋が上なのだと彼に知らしめることができたような気がして、アンリが密かに溜飲をさげたのも事実である。


 

 夕べの宴にアンリはひとりで出席していた。

 そもそも今回の旅行に、イザベルは同行していない。一人娘のセリーヌが直前で風邪をひき、大事をとって娘とともに王宮に残ったのだ。



 昨夜の子爵夫妻は、終始とても仲睦まじいように見えた。


 ――イザベルの妹と結婚するなど、苦労するぞ。うまくいきっこない!


 子爵の結婚前、アンリがたてた予想は、みごとに外れた。

 イザベルとよく似た面差しをもつ夫人の、夫である子爵を見る眼……。

 どこまでもあたたかく、ゆるぎない熱を帯びたその眼差し――。

 イザベルから、アンリへ、ついぞ向けられたことのないものだ。


 いったい、なにが違うというのだ? 奴と、俺と?


 宴でアンリは、王子としてつとめて陽気に振舞い、踊りあかし、会話に花を咲かせ、すいぶん飲んだ。


 へべれけに酔って、それでも酔いきれず、どこか醒めた頭の片隅で思い出すのは、かつて自分をあのように見上げてくれた優しい眼――――。


 …………シルヴィ……。





 木立の間から、懐かしい色を見つけたような気がして、アンリは未だかすむ目をこらした。

 アンリたち主従は間道をはずれて森のなかへはいり、小さなホール状に開けた場所を見つけた。馬をおりた彼らはそこで遅い朝食をとることにして、しばしの間くつろいでいた。

 アンリは屋敷で用意させてきた軽食にわずかに口をつけただけで、いっこうに食欲がわかず、かすかに聞こえるせせらぎの音に安らぎを見いだし、酔いがさめるのを待っていた。


 ここよりさらに森の奥を流れる川は、狩場と森の深奥とを隔てる自然の境界だ。川より先へ踏み入ってはならないと、前回も、そして今回も、伯爵側から繰り返し注意を受けている。

 ひとの滅多に立ち入らぬ「魔の森」には、危険な獣も多く棲む――――と。



「殿下、どうぞ」


 さしだされた手巾は、冷たい川の水で湿らせてあった。ありがたくそれを受け取り顔にあてながら、アンリは眼下の間道を行く一行を見やる。

 アンリたちが来た道とは別の道を進む一行は、四騎。うちひとりは、女だった。

 ひとつに編んだ長い髪の色が、アンリの目をとらえて離さない。



「夕べの宴で見なかった顔だな」

「はい。昨夜は近在の主だった家の娘は皆呼ばれておりましたが……」

「狩猟小屋へ向かっているらしい。……見目もよさそうだ。小屋で働く侍女ならちょうどいい。ここへ呼んできて、俺の世話をさせろ」

「なにを仰せです、殿下? あのたたずまいは、それなりの身分のあるかたとお見受けいたします。……殿下。どうか妙なお考えはお慎みください」 

「わめくな、頭に響く。それになんの誤解をしている? 俺は、無骨なおまえたちの世話などうっとうしいだけだから、…………と。思ったより早いな。このままでは行き過ぎてしまう。追うぞ」

「っ殿下! お待ちを……」





 狩猟小屋へ急ぐのなら、ユルグ兄様はきっとこちらの抜け道を利用するはず。


 フランソワはユルグのあとを追いかけているつもりで、じつは兄がフランソワの目指す森の狩猟小屋ではなく、方角のまったく異なるヴェントへ向かっていたことを知らなかった。


 フランソワ付きの侍女であるエマには、急なことであったし、そこまで詳しくは伝えられていなかった。

 留守を預かる侍従にしても、一度言いだしたら聞かないところのあるフランソワを無理にとめようとしてかえって無茶をされるより、手練れのジャンたち三人をフランソワの供につけて送り出したほうがいい、と判断した。王家が滞在するもうかなり前からこの近辺を通行するものには、伯爵が特に厳しく目を光らせていた。まして今日は、王家が狩りを楽しまれる当日である。不審なものが、狩場へと続く道をうろついていようはずもない。

 さらに侍従は、そのうえに万全を期した。この日の人員の配置からも、ヴェントへ向かったユルグを追うよりは、ここからまっすぐ狩場へと向かう道のほうがより安全と考えた侍従は、あえてその情報をフランソワに秘したのである。


 しかし――――。



 先を急ぐフランソワたちの百メートルほど前方で、間道の右手の木立から騎馬が現れる。屈強な男たちの乗る騎馬はつぎつぎと増えてゆき、その数、十騎。いずれも馬首をこちらに並べて、立ちはだかった。


 行く手をふさがれたフランソワたち一行は、フランソワの後ろについていた二騎も彼女をかばうようにして前に出て止まった。


 ジャンたちの緊張がフランソワにもひしひしと伝わる。手綱を握りしめ、彼らの背後からものものしい騎馬の一団を見渡したフランソワの目は、ある一点で凍りついた。

 ひときわみごとな馬にまたがり立派な身なりをした男が、フランソワをじっと見つめている。


 ――――ぞっと、した。

 

 …………なに? あの目?


 およそフランソワには、あれがひとの目だとは信じられなかった。

 生彩を欠いた土気色の肌。

 落ちくぼんだ眼窩からのぞく、まるでよどんだ沼のように充血し濁った、異様な光と熱をはらんだ恐ろしい眼。


 フランソワはこれまで、酒に酔ったものの目を見たことがない。

 父も母も兄たちも、フランソワの前で酒をたしなむことは多々あるが、そんな姿を見せたことはない。

 子供のフランソワは、まだそうした大人の世界の汚いものを、垣間見ることもなく過ごしてきた。

 今日生まれてはじめて目にしたフランソワには、よけいに不気味に映ったことだろう。


「………………」


 粟立つ肌が、フランソワにしきりに危険を訴える。

 まんまんいち、「父も兄たちも一緒でない状況で不審な者と遭遇したと思ったら、とにかく急いでその場を離れるように!」と、それだけは強く言い聞かされてきた。



 いっぽう、ジャンたちは一目で相手の正体を見抜いていた。ジャンは今回は留守番に回ったが、前回の狩りではユルグの供をして、アンリ王子の姿も見ている。

 こちらが向かっている先の道をふさぐというあからさまな行動から、彼らの目的は明白だ。

 フランソワがカトリーヌ侯爵令嬢、すなわちエルガー伯爵令嬢であると明らかにして、それでことがすむのならよいが、それをきっかけにして相手の身分を明かされてしまって、かえって逃れる手立てが絶たれてしまう危険性もある。

 とてもまともな状態にあるとは思えぬ王子の目に、フランソワへの執着を見てとったジャンは、黙したままじりじりと馬を後退させた。

 他の二人も気づいているのだろう。誰何しようとする気配はない。


 いざとなれば三人とも、相手が誰であろうと、フランソワの身の安全が最優先であることに変わりはない。とはいっても、第一王子の一行を相手に力任せな真似におよぶような事態は、ぎりぎりまで避けたいところだ。




「……逃げましょう」


 静かな声が、この場を打開する策を求めて逡巡するジャンの耳を打った。


「こちらは四騎、あちらは十騎。……ジャンたちは来た道を引き返して、番小屋へ駆け込みなさい」


 うら若い主の指示に、三人が息をのむ。


「…………お嬢様?」


「わたしは、森へはいります」


「なりません! お嬢様を……、残してなど」


 ジャンはとっさに言葉を選んだ。フランソワは自分がおとりになる、と言っているのだ。それをそのまま言葉にするのはあまりに不敬なことだし、彼らはフランソワの護衛として供をまかされてきていた。承服できるはずがない。


 フランソワは困ったような表情を浮かべて、ジャンを見た。


「あなたたちの馬では、ドミニクの脚についてこれない」


 十三歳の少女にあっさり足手まといだと宣告されて、ジャンは言葉を失った。

 このわずかの時間に覚悟を決めたのか、フランソワの愛らしい相貌が凛としている。

 顔立ちこそ伯爵に似ていないが、フランソワの様子に武勇をもって知られるアルティエ家の血の片鱗を感じとったジャンたちは、複雑な思いを抱えながらも彼女の意見に従うことにした。

 




 アンリの傍に控えていた騎馬が一頭、フランソワたちのほうへ動き出そうとした。

 一行の前へ出ようとする侍従に道をあけようとして、彼らの気がそれた一瞬――――。



「――――はァッッ!!」


 一騎と三騎は、同時に二手にわかれて駆け出した。


 フランソワは勢いよくアンリたち一行に突進していく。

 後方へ遠ざかっていく蹄の音を聞きながら、不意をつかれて態勢を崩した彼らの前をすり抜ける。

 駆け抜けざま、フランソワは首からさげていた小さな角笛を素早く手に取り口に銜えると、木立のなかへと駆けこんでいった。




 

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