6話
「う……ここは?」
「あ……大丈夫……ですか?」
やたらと重い瞼を上げるとシズクの顔がアップになっていた
……頭には柔らかな感触
「……シズク」
「はい?」
「……膝枕?」
「あ……」
ドンドンと紅みを帯びていくシズクの顔を見て俺は決意した
「まだ、頭痛いから寝させてくれ」
少しずれてしまった頭のポジションをゴソゴソと動かす
「ひゃ……カ、カズヤさん……その……ローブが……捲れ……」
「……」
聞こえないふりをしてさらにゴシゴシと頭を擦るように動かす
「んぁ……か、……カズヤさん……」
やばい、みたい
超みたい
何がってそりゃナニをだよ
そこに夢があるのに掴まない男がいるだろうか?いやいない!
「チョーーーーップ!」
「ふげぇ!」
「きゃっ!」
ゴソゴソゴソとやっているといきなり手刀が顔面に飛んできた
「……あんた何シズクちゃんにセクハラしてんのよ」
仁王立ちでご立腹なフレイさんが魔法陣出しながらこっちを見ている
「……ふ。撃てるものなら撃ってみろ!」
「……ほほう?この私にむかっていい度胸ね」
「……だがな!これを見ろ!」
俺は即座に身体を起こしシズクの後ろに隠れる
「俺を撃つとシズクも巻き込むぞ!」
ふはははははは!どうだ。撃てまい!
「ひぃ!う、撃たないで……」
「……あんた最低ね」
フレイが手を下ろすと魔法陣が消える
「今だ!光跳躍!」
「あ!」
一瞬の隙をついて光跳躍を発動し距離を取る
即座にカードを取り出しスキルを習得させる
「フレイ!お前の杖を貰うぞ!盗難!」
このまま逃げてもどうせ宿で見つかってしまう
そうなった時の自衛のため奴の攻撃手段を奪う作戦だった
右手から薄い光が発光し一瞬フレイの身体が光る
「こなくそ!」
……が、フレイは杖をがっしりと両手で掴み身体ごと抱えるように杖を胸に抱いた
スキルレベル1の盗難が指定したモノを奪う確率はやはり低確率なのだろう
光が収まったフレイはしっかりと杖を抱いていた
……ちぃ!逃げるしかあるまい!
街なんてすぐそこだ
街に入りさえすれば逃げ隠れるぐらいでできる!
光跳躍で逃げようとした時、右手に異物感があるのに気がつく
「……ん?」
「え?……あああああああああああ」
その右手には女性の大事なモノを隠し、男たちを惑わす漆黒の布
ブラジャーが握られていた
「……光跳躍!光跳躍!光跳躍!」」
一目散に退散を決めこみ街へとダッシュをかける
光跳躍による急激な加速に身体のバランスを取られ転けそうになるがなんとか耐えながら着地しては光跳躍を発動させ距離をドンドン広げていく
「待ちなさいカズヤああああああああああ」
「はっはははははは!脱ぎたてホヤホヤの神様のブラジャーーじゃああああ!ギルドでオークションに出すぞおおお」
「いやあああああああああ!カズヤ絶対殺すうううう!ファイヤーランスー!」
「うおおおお!?あぶねぇ!」
「何で避けるのよ!」
「当たり前だろ!ブラジャー燃えたらどうすんだよ!」
「言い切るな変態!ベッドには潜り込まないチキンの癖に!」
「べ……ベッド?」
「おおおおい!?俺が本気出したらお前、余裕で襲うからな!?いいのかぁ!?」
「やれるもんならやってみなさいよ、口だけ男ぉ!フレイム!」
ファイヤーランスよりも広範囲な炎が飛んでくる
光跳躍によりさらに飛び炎を避ける
「ははははは!当たる気がしねえぜ!光跳躍!」
「ブラジャー返してええええ……ああ!?カズヤ!ストップストップ!後ろ!」
「へ?うあああああ」
追ってくるフレイに意識を集中しすぎていたため、街から出てくる人に気がつけなかった
このままではぶつかる!
光跳躍で方向を!
……発動しない!?
まさかMP切れ!?
やばい!
衝撃に備えて目を固く瞑る
直後ドスンと背中に硬い何かが突き刺さったような痛みが走る
「いってぇええ!?」
さらにドンっと地面に叩き落とされ顎を打ち付ける
「げふぅ」
「何だ?私に何か用か?……む?下着?」
「すいませーーん!そこの戦士の人!その痴漢を捕まえてくださいーーー!」
「痴漢か。それはいかんな。そんなに暴れるな……ふん!」
痛みで転がりまくる俺を上から押さえつける謎の女性
そして腕を掴まれ、ボキンっと……容赦なく腕をとんでもない方向に曲げられた
「っーーーーー!!」
「ちょ……!カズヤ大丈夫!?」
「何だ?知り合いだったのか?すまない。痴漢だと言っていたからてっきり」
銀髪が鎧にまでかかる長髪の女性がすまなさそうに走ってくるフレイに言っている
「いや、確かに痴漢っていうか下着泥棒はされたんですけどね……一応こんなんでも仲間なんですよ……」
「それは悪いことをした……すまない。大丈夫か……腕を軽く折ってしまったぞ」
「あ。大丈夫です。ヒール掛けて治しますんで」
「人を玩具のように扱うのはやめてくれ……つうか……マジで痛い。ヒール出来るなら頼む……」
「あんたが悪いんでしょうに……助けてくださいフレイ様ごめんなさいって言えばかけてあげるわよ?」
「助けてくださいフレイ様ごめんなさい!」
「プライドってのはないのね……はぁ……ヒール」
「……あの……痛いんですけど」
「……ごめんカズヤ。MP切れちゃった」
「……マジで?」
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「本当に申し訳ないことをした」
「あー……いや、大丈夫です。明日になればこいつにヒールして貰うんで……」
ギルドで先ほど俺の腕をポキリとやってくれた銀髪の女性が頭を下げてくる
あの後自分の責任だと病院に連れて行かれ、こうして晩ご飯までご馳走になってしまっている
正直稼ぎがない俺達からすれば非常に助かる
あのままだとまたシズクに奢っていただく事になっていただろうし
「そうですよ。それに、自業自得ですし、シルさんが気に病む事ないですよ」
フレイがモグモグと肉を食べながら言うが……そう思うならもうちょっと自重しろよ
その肉料理、このギルドの料理で一番高い品だろ
シルさん……この銀髪の人はシルフィというらしい
フレイはいきなりシルさんと呼ぶ……
曰くシルフィの立ち振る舞いは思わずさん付けをしてしまうそうだ
……確かに見た目も整っていて、堂々てしており、誠意ある行動をしている
うむ、俺とは正反対だな
「お肉……おいしい」
幸せそうに肉を頬張るシズクを見ながら俺はやさぐれた心を回復させるのであった
「そう言って貰えると心が少し軽くなる。カズヤは食べないのか?」
「いただきます……」
これでシルフィが男だったらあまりの差に卑屈になって断ってしまうところだ
「ところで、カズヤ達は今日は狩りに行っていたのか?」
「いや……俺たちは駆け出しでさ。今日はスキルの練習……みたいなのをしていたんだよ」
「練習でブラジャー取られるなんて最悪な気分よ」
「悪かったよ……」
「そうか……カズヤが盗賊、フレイが火魔道士、シズクが召喚士と言っていたな」
「ああ……見事に前衛がいなくてな……」
「……なら、私が狩りに同行しようか?これでもレベルもそこそこで戦いに自身はあるぞ」
「いいのか!?」
「ああ。こちらとしても助かるしな」
「?」
「ふふ。それよりも、もっと食べていいんだぞ。酒も頼むといい」
「ほんとに!?お姉さん!ジョッキ頂戴ー!」
「ほんとお前は自重しろ!」
そう、俺はこの時、もっとちゃんとするべきだったのだ
そんな事を後になって後悔したのだった!