4話
「えっと……パーティ希望って言ったのかな?」
たった今それを取り下げようとしたのだが、何ということだろうか
まさか希望者が来てしまうとは
だが、聞き直したのはこの少女の見た目が余りにもその……幼いというか……
身長は140cmぐらいだろうか?
俺の胸ぐらいまでしかない身長
そして幼さの残る慎ましいその身体付き
とてもじゃないが、冒険者には全く見えない
いや、俺も正直全く冒険者には見えないけどさ、服装なんてただの寝巻きだし
「は!はい!召喚士の職について……ます。シズクです。よろしくお願いしまう!」
噛んだ!大事なとこで!
突っ込みたい!けど突っ込んだらこの子泣きそう!
「あぅ……」
恥ずかしそうに涙目でモジモジとしながら顔を俯けてしまうシズクに俺は……
「採用だ!」
「はや!?」
フレイがあまりの即決にツッコミを入れるが、俺は採用と思わずそう叫んでいた
「ひぃ!ごめんなさい!」
フレイの声がデカかったせいか怯えたシズクが頭を下げる
「あ、いや。謝らなくていいのよ?そんなに怯えなくても……」
「そうだぞ。とりあえず大声出したお前が悪い。えっと、シズクさん?」
「は、はい!」
「そのさ、俺たち……レベル1なんだけど、いいのかな?……と言うか、討伐歴0なんだけど」
「は、はい……その……私も……0なんで……スキルも……1個しかないですし……」
「……ん?」
もしかして、これはとんでもないPTが出来てしまったんじゃないだろうか
討伐数0の初心者3人
フラグだ
「あ、でも、何度かその……ほかのPTの人達と一緒に……討伐にいったことなら……あり……ます」
何度か行ったのに討伐数0?スライムとか最弱モンスターなのに?
……だんだんと嫌な予感が膨らんでくる
それは、そう。例えばMMORPGで経験値ブーストさせるスキルを掛けるから私は狩りせずに放置しときますねって言ってくるプレイヤーみたいな?
間違いなく何かある
そんな予感がしている中この自称神が立ち上がる
「大丈夫よ!例え二人がレベル1でも私がいるわ!この上位魔法職のフレイムウェザードのフレイ様がね!」
「言っておくがお前だってレベル1なんだからな」
「あら、私は火と水と聖魔法を習得済みなのよ?そんじょそこらのレベル1と一緒にして貰ったら困るわね」
不安だ……
いや、だってさ?フレイが魔法でバッタバタ敵を倒せたとして
レベルがあがるのはフレイだけなんじゃないだろうか
俺とシズクは全くレベルが上がらない……そんな未来が見えるんだが……
ま、まぁ相手はスライムだし?大丈夫……だよな?
「それに召喚士って相当レアな職業なのよ?ステータス外の資質が必要で召喚により多くの味方を生み出すスキルトリッキーな職業なのよ」
「へぇ!そいつは凄いな」
「そ……そんな大層な事は……できませんよ……?」
……ん?でもさっきスキル1個しかないって言ってたよな?
というか、ステータス外の資質とかもあるのか
裏ステータス見たいな奴か?運とかみたいな?
「さぁいざ!初討伐に出発よ!」
……
始まりの街スタートから徒歩約1時間!俺たちは遺跡跡地にやってきた!
「……なぁシズク?」
「は、はい」
「何で、剣とか弓とか杖とか短剣持ってきてるの?全部支給品みたいだけどさ……召喚士って杖と……まぁ後は短剣とかあるぐらいでいいんじゃないの?」
「い、いえ。これは一応どんなのが来てもいいようにって……ことで……ご、ごめんなさい!」
「い、いや!別に怒ってないから!大丈夫だから!ほら!俺って初心者だからさ!どんな敵にも対応ってすごいと思うよ!」
「あーまたカズヤがシズクちゃんを怯えさせてるー」
「またって何だよ……ええっと」
慌てて取り繕いながら話題を変えることにする
「遺跡の跡地……かぁ」
「うん。魔王との全面戦争でぶっ壊れたのよ」
「……何だって?」
「ここに魔王が潜伏してたのよ。冒険者達もビックリよね。スライムとか初心者御用達の遺跡の地下に魔王が潜んでいるんだもの」
「そんな所に連れてくるなよぉ!?つうか何で魔王がいることに気がつかなかったんだよ!?」
「大丈夫よ。今はこの通りその地下通路ごと爆破されて魔王と勇者諸共瓦礫の下敷きになってるんだから」
「ちょっと待て!勇者!勇者死んでる!お前らに殺されてる!」
「それは……勇者の人が……そうしろって……言ったからだそうですよ」
シズクが弱々しく補足を入れてくれる
「そうなのか……いや、でもさ……」
「……カズヤ!来るわよ!」
「来るって何が……?」
「す、スライム!」
「なにぃ!?何処……え?」
「ひ、ひぃ!」
そこには……俺の思い浮かべるブヨブヨとして動きの鈍いスライムやプリプリとした青いスライムなんかじゃなく
4足で走っているスライムがコチラに向かってきている!
「ど、どう見ても狼じゃねえかああああああ!」
「当たり前よ!スライムウルフよ!ここら辺のスライムシリーズの中でも5本に入る猛者よ!」
「そんなもんといきなり戦えるかぁ!スライムシリーズってなんだよおお」
「戦わないと死ぬわよ!早く前に出なさい前衛職!魔法準備するから!」
「ああもう!わかったよ!シズクは召喚魔法を頼む!」
「は、はい!」
ギルド支給のナイフを抜き前に出る
やばい怖い!
落ち着け、落ち着け、あの狼もどきは1体だ。数ではこっちのが有利
さらにやつは真っ直ぐに突っ込んできている
最低限の動きで横に躱してサイドからスキルを叩き込む
スライムは打撃に強くて斬撃に弱いってのはRPGの鉄板だ、それに初心者MAPの敵ならスキル一発で倒れたっておかしくはない!
よし!やれる!
スライムウルフが目の前に来た瞬間にステップにより身体を横に流す
そして右手で逆手に持ったナイフを左手で押し込むようにしながら突きを仕掛ける
「二重攻撃!」
盗賊の基本スキルである二重攻撃を仕掛ける
一太刀で2回攻撃が出来る攻撃スキルであり、現在唯一の所持スキルである
……のだが、一向に当たった感触がない
というより当たっていない!
スライムウルフが大きく跳躍して俺の後方の二人を狙いに行ったからだ
俺の馬鹿野郎!せめて前衛として敵の足止めぐらいしろよ!
「フレイ!シズク!」
慌てて二人の元に走る
フレイの奴は見たところまだ魔法が完成していない
シズクは……?
駄目だ!支給されている短剣を構えてはいるけど周りに何かを召喚したような気配はない!
間に合わないーーー!
「ひゃっほおおおおおおおおおおい!」
謎の奇声と共にスライムが蹴り飛ばされた
「は?」
「へ?」
俺とフレイが間抜けな声を出しながらその奇声を上げた人物を凝視する
「うおっ!足がべだべだする!相手スライムじゃん!」
まるで口調が、いや、もはや性格が変わってしまっているシズク
「ったく俺は武道家なんだが……仕方ないこのナイフ借りるぞ、ご主人様よ」
独り言をブツブツと言いながらナイフを両手に持ちウルフに立ち向かっていくシズク
誰あのデストロイヤーみたいな子!僕知らない!あんなシズクしらないよ!?
「あっはははは!久しぶりのシャバの空気はうまいなぁ!……おろ?」
激しくウルフともつれ合っていたシズクの足がガクリと急に落ちた
……と同時に頭からがぶりとシズクがスライムウルフに噛み付かれた
「ああ!シズクー!」
ダッシュでシズクの元に駆けつけ無防備になっているウルフに今度こそダブルスタブを叩き込むのであった
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「顔が……ベタベタします」
「はぁ……はぁ……つ、疲れた」
「大丈夫シズク?顔溶けてない?」
「だ、大丈夫です……すいません……お手数……おかけして」
「気にしなくていいのよ。無事でよかったわ」
「お前……何も……してないからな」
ぜえぜえと息を吸いながら何とかそれだけは突っ込む
そう、幸いにもスライムウルフは牙もスライムで出来ているらしく頭から噛まれたシズクもちょっと粘液でベタつくぐらいで済んだのだ
フレイ曰くスライムは対象に絡みつき酸でゆっくりと溶かすらしい
つまりあのスライムをこいつの服にかけてやれば服を溶かしてグフフな事ができるってわけだ
とにかく絡みついてる間は動けなくなるらしく、その隙に何度も二重攻撃を仕掛けて何とかスライムの核らしきものを破壊することが出来た
「ごめんなさいカズヤさん……大丈夫……ですか?」
「……大丈夫だ。シズクこそ平気か?」
「は、はい。ちょっと……ベタベタするだけです」
「そっか。よかった」
「と、とにかく帰ろう!流石に駄目だ!1匹でこの疲労だと3匹とか集団で来られたらたまった物じゃない」
「ええー!私まだ魔法ぶち込んでないんですけど!」
「ブチ込む前に俺たちがやれるよ……」
もし2体きたら絶対にやられてた
スライムを正直舐めすぎていた
この世界のスライム超強い……
「もし、次に敵が出たらその時に頼むよ……とにかく今日はもうおしまい……シズクもこの通り動けないみたいだしさ」
「うー。わかったわよ」
何とか納得してくれたのか渋々といった様子でフレイが帰ることに了承してくれた
「シズクもいいかな?今日はこれで帰っても……」
「はい……ごめんなさい……迷惑をかけて」
「いや、謝るのはこっちだ……」
ほんと、情けないぐらいグタグタだ……
動けなくなってしまったシズクを俺が背負う
「……」
黙りながら帰るのもあれなのでシズクに召喚士について聞いてみることにした
「ところでシズクの召喚って……あれ?」
「は……はい……その、まだ憑依召喚しか……できなくて……」
憑依召喚
シズク曰くこの世界の死者の魂をランダムで憑依させることにより戦闘をして貰うらしい
それで多くの種類の武器を持ち運んでいたのか……
下手したら戦闘員以外の霊を憑依させたりするんじゃなかろうか
「あ……それは大丈夫です……戦闘中は……冒険者の魂に限定……されるみたいです」
「そうなんだ……そいつは便利なようなそうじゃないような……」
「スキルレベルが上がれば……ある程度指定できるそうなんですが……」
「そっか。それで今までスライム倒せなかったってのは?」
どれほど試したかは分からないが、今回憑依した魂だって動き自体は悪くなかった。ただ相性が悪かっただけだ
あれほどのレベルを召喚できるなら普通に倒せてもおかしくないんだけどな
「その……召喚しても……肉体のレベルは……私の……だから……」
……ああー……つまり、あの時急に膝が折れたのは……
「肉体の限界以上の動きをされると……すぐに動けなく……なっちゃう」
……そういう訳ですか……
肉体の限界を超えるとこうして動けなくなってしまう……と
「……きたーー!」
隣で待ってましたと言わんばかりに喜びの声を上げるフレイ
「来たって……まさか」
そのフレイが見る方向に目を向けるとまたスライムが……
ってデカ!?
3mぐらいあるぞあれ!?
「ジャイアントスライムね!大きさだけでスライムの中では低位のスライムよ!動きも鈍いしね!」
「お、おい!大丈夫なのか!?流石に短剣であのデカいスライムのコア破壊出来る気がしないぞ!」
「まっかせなさい!さっきは撃てなかったけど今回は距離もあるしバッチシよ……!」
そう言いながら前に出てフレイが詠唱を始める
フレイの杖も初心者用にギルドから支給された品だ
特殊な能力なんて一切ない
なのに……何だ、こいつのあの凄みは……
詠唱をしているフレイの足元に大きな赤い魔法陣が生まれる
「……すげぇ」
あまりの迫力にそう呟く
やがて詠唱が終わったのかフレイが杖を前につき出す
地に描かれた魔法陣が光を強め、杖の前に魔法陣が浮かび上がる
「……火の嵐に溶けるがいい!フレイムストーーーーーム!」
魔法陣は大きく弾けそしてジャイアントスライムに火の嵐を……
「……」
嵐を……?
「……あれ?……フレイムストーーム!ふれいむすーーむ!」
お、おい?
フレイは杖をブンブンと振り回しフレイムストームと叫ぶが何も発生しない
その間にドンドンとスライムはフレイに近づいていき
「え……えっと……えっと……フレイム……ごめんなさい!助けてカズヤあああああああああああああ」
バクリと身体ごと飲み込まれるのだった
「お前何やってんだよおおおおおおおおおおお!」
背中のシズクを下ろし剣を借りてジャイアントスライムに突撃する羽目になるのだった